↑クリックのご協力よろしくお願いします。松浦。
株式投資の歴史を振り返ると、15世紀中ごろから始まった航海時代を起源としていることがわかる。当時のヨーロッパは、中東やアジアと比べてそれほど豊かではなく、むしろ教養も文化も劣っている奴らくらいにしか思われていなかった。だからアジアの香辛料が欲しくても、中東を通らざるを得なかった。当然簡単に通れるわけもなく、仕方なく船で南下し、ぐるっとアフリカ大陸を回ってアジアと貿易をしていた。
ヨーロッパではアジアの香辛料が高値で売れた。黒コショウは金と同じ価値があったのだ。だからヨーロッパの貴族たちはこぞって貿易をするようになったのだけれど、同時に航海のリスク問題も明らかになった。嵐による被害や海賊に襲われるリスクを考えると、とてもじゃないけど、一人の貴族が総てのリスクを負うには無理があった。そこで複数の貴族がひとつの船にお金を出し合う、株式会社の原形が誕生した。貴族たちは儲けを山分けし、リスクも出資金までに抑えられたことにより貿易は活発になっていった。
さて、現代の株式投資は航海時代よりもはるかに進んでいる。言うなれば、航海中の船を他人に売却ができるようになったのだ。航海中の船の値段は市場のコンセンサスが決める。
株を買ったり売ったりする人は、航海中の船を買ったり売ったりする人のことだ。こうして市場を出し抜くことで利益を上げる人たちのことをトレーダーとか投機家と言ったりする。
ぼくは長期投資家だ。言うなれば、20年の航海をしているアダストリア号に最初に出資し、20年後に母国へ帰還するまで待ってるだけの投資家だ。途中であらゆるトラブルに巻き込まれたりするし、市場のコンセンサスは容赦なく船に値段をつけるけれど、ぼくはまったく気にしない。なぜならぼくは企画・生産、物流、販売を一気通貫するブランドSPAは概ね成功すると信じているからだ。
ファッションビジネスの歴史を振り返ると、顧客との距離を縮めた企業しか生き残っていないことがわかる。顧客と圧倒的に距離を縮めるビジネスモデルこそが一気通貫型の垂直統合型SPAなのだ。
アダストリアHDのビジネスモデルは、まず、企画・生産のナチュラルナインが商品をつくり、ポジックに送る。物流を手掛けるポジックが各企業に配送し、ポイントやトリニティアーツ、バビロン各社各ブランドが各店舗で販売する。その際、売れ筋商品や死に筋商品はすぐにデータとして分析されて、分析されたデータは「顧客の声」としてナチュラルナインの企画生産の材料になり、シーズン中に商品化され、店頭に並ぶ。ぼくはこうした顧客との距離を極限までに縮めたビジネスモデルを持つ企業こそが概ね成功すると信じている。
ぼくはブログの中で「概ね」という言葉を多用しているのは、事業に「絶対」成功するやり方はないということを知っているからだ。
マネジメントの有用性を世に広めたドラッカーも、マッキンゼーのバウアーも、戦略プランニングのアンドルーズも、ポジショニングのマイケルポーターも、マーケティングのコトラーも、皆が言っていることはどれも「絶対」うまくいくやり方ではなくて「概ね」うまくいくやり方だ。
ぼくは「概ね」うまくいくビジネスをいくつか所有することで、概ね満足のいく結果が得られると信じている。
アダストリア号はヨーロッパから5~7年かけてアジアに到達して香辛料を手に入れる。そして帰還するまでにまた10年弱を要する航海に出ている。航海から丸3年経ち、ようやくアフリカ大陸の最南端喜望峰に停泊しているところか。この状態で「全然儲かってないじゃん!」とか「結果がこれかよ!」とパニックになっている投資家は、長期投資家としていかに的を射ていないかが理解できるだろうか。