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ヨウ素剤配布されず…静岡
中部電力浜岡原子力発電所(御前崎市)から5キロ圏内のPAZ(予防的防護措置準備区域)に位置する御前崎市と牧之原市で、政府が各家庭に事前配布を打ち出した安定ヨウ素剤が配布されていない。
安定ヨウ素剤を服用すると甲状腺がんの発生リスクを抑える効果があるが、配布には医師による説明が不可欠で、説明に必要な資料や健康被害の補償などについて明確な規定が無いためだ。
国の原子力災害対策指針では、PAZと30キロ圏のUPZ(緊急時防護措置準備区域)は安定ヨウ素剤の備蓄対象区域とされている。浜岡原発の場合、11市町が対象となる。事故発生から短時間で放射性物質が到達する可能性が高いPAZの住民には、地元自治体が戸別に事前に配布し、有事の際には国の指示で服用するとされる。
しかし、県地域医療課によると、両市では公民館や小学校などに保管されており、各家庭には配布されていないという。
背景には、国が戸別配布の前に住民への説明会を必要としているにもかかわらず、説明会の頻度や資料が具体的に定められていない問題がある。東日本大震災で情報伝達が混乱し、住民に安定ヨウ素剤が配れなかった反省を踏まえ、国は2013年7月、安定ヨウ素剤の効果や副作用、服用の方法をまとめた解説書を公表した。
ただ、配布の前提となる医師による説明会の頻度や、転出・転入に伴う戸別の管理、副作用による健康被害への責任や補償などの詳しい規定はないため、県や両市は配布に二の足を踏んでいる。
県は4月、浜岡原発で放射能漏れなど深刻な事故が南海トラフ巨大地震と重なった場合、31キロ圏内で暮らす約86万人のほとんどが圏外に避難するには最短でも約22時間かかるとの試算を公表しており、住民からは早期配布を望む声が上がっている。
静岡県牧之原市地頭方の無職桜井実さん(65)は、「避難に時間がかかるという県のシミュレーションが出た。
有事の際に被曝(ひばく)を防ぐには、事前に各家庭に配ってもらわないと困る」と訴えるが、同市危機管理課は「服用を指示する連絡手段が確立できていないため、誤飲の恐れもある」と慎重だ。
国の原子力規制委員会原子力防災政策課は今月下旬にも、住民向け説明会の進め方や内容を示す模擬説明会を開催し、健康被害の補償対応などを明示した問答集を配る方針だ。
放射線被曝に詳しい佐藤幸男・広島大名誉教授は「事前配布は、甲状腺被曝の予防に有効だ。服用するタイミングが住民に確実に伝わる仕組みづくりと、住民が服用の頻度などを十分に理解することが重要だ」と話している。
◆自主配布する医師も
県や市町に先駆け、住民に安定ヨウ素剤を配る医師もいる。吉田町住吉の加藤内科医院の加藤寿夫院長(53)は2012年2月から、同院を訪れる患者に対し、安定ヨウ素剤の自主的な配布を行っている。吉田町は浜岡原発のUPZ圏内に位置しており、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、「同じような事故が浜岡原発で起きたときに、住民を守りたい」という思いからだ。
診察室には安定ヨウ素剤の効果などを示した紙を置き、診察の合間に患者らに説明。希望者には1シート(10錠)を100円で分けている。
親族や友人の分も購入する患者や、1000錠単位で購入し、社員やその家族に配布する企業もあるという。
加藤院長は「多くの人が安定ヨウ素剤に関心を持ってほしい」と話している。(黒羽泰典、平山
(2014年5月15日 読売新聞)
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