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時論公論 「川内原発審査終了へ 原発再稼働に進むのか」 2014年03月14日 (金) 午前0時~
水野 倫之 解説委員
原子力規制委員会は、九州電力の川内原発1、2号機の審査を今後優先して行うことを決定。
事実上、審査終了第一号の原発となる。
ほか15基で審査が進み大詰めの原発もあり、今後各地域で再稼働にむけた動きが出てくることも予想。
しかし審査に適合することは再稼働の最低限の条件、避難計画など再稼働前に決めておかなければならない問題も。
今夜の時論公論はこのまま原発再稼働に進むのか、残された課題を考える。
規制委はきのう、川内原発について、最大の地震の揺れなどが決まり、基本的な審査はクリアしたとして、今後優先的に審査を進めることを決めた。
近く審査書案をまとめ、地元で説明会も開いた上でこの春にも再稼働に必要な許可を出す見通しに。
これまでの規制委の審査はどのように行われてきたのか。
規制基準が導入された去年7月、川内原発も含めて6原発12基が再稼働を目指して申請。
当初、規制委は審査は半年程度、という見通しだったので、予想外に時間がかかった。
最大の要因は電力会社の想定や対策の甘さ。
安全に対する考え方について規制委との間にかなり差、厳しい要求に対して各社の資料が不十分だったり提出が遅れたりするケースが。
審査会合で特に問題となったのは厳しくなった地震・津波対策。
基準をもとに規制委は、活断層を詳細に分析し最大限のリスクを考慮して揺れの評価をすること、活断層を見逃した場合に備えて一定規模の地震を想定することも要求。また津波も最大規模を想定し浸水防止対策を求めた。
しかし各電力は最大の揺れについて、震災前と同じ値を規制委に提出。建屋の耐震設計の基準となり、引き上げれば補強工事が必要な場合もあってコストかさむため、各社ともできれば変更せずに済ませたい。
これに対して規制委は断層はもっと長いのでは、また複数の断層が同時に動くのではと問いただした。
しかし電力側はデータの収集に手間取ったり、データをそろえられなかったため、揺れの値が決着せず、時間がかかった。
川内原発についても、九電は最大の揺れについて震災前と同じ値を示したが、断層の長さなどについて規制委を納得させられるだけのデータを示すことができず、長さを修正するなどして、今月に入って揺れの規模を1割以上引き上げた。
また津波についても、断層を長めに評価するよう求めた規制委の指摘を受け入れ5mに引き上げる方針を示し、ようやく了承された。
また設備面では、九電は基準が求める緊急時の対策所について、最大100人が長期間対応できるようコンクリートで遮蔽した設備を作ったほか、電源喪失に備えて電源車を用意するなどの対策を示した。
規制委は、書面での審査だけでなく、実際に委員が現地に出向き、対策の一つ一つを目で見たり、担当者に聞き取りを行うなどして様々注文をつけており、これまでの審査は全体としては慎重に行われてきた。
ただ、フィルター付きのベント装置など猶予期間が設けられた設備の取り付けはまだ終わっていないし、基準が求める対策は必要最小限のもので、今後審査に適合したとしても、電力会社は自主的に安全性を高めていく努力が必要なことは言うまでもない。
今回の規制委の決定は、川内原発についてのみだが、ほかにも15基の原発の審査。このうち8基は大詰め、いずれ審査に適合する可能性が高い。
安倍総理は記者会見で「規制委の審査に適合した原発については再稼働していく」と述べており、今後これらの地域でも再稼働を巡る動きが出てくることも予想。
しかし再稼働にあたって規制委の審査に適合するのは最低限必要なことでしかなく、それ以外にも解決しなければならない多くの課題。
福島の教訓は、原発には絶対の安全はないということ、備えがいかに重要かということ。
その点まず重要なのは、避難計画。
NHKが、審査中の10原発の30キロ圏の100の自治体に先月から今月にかけてアンケートを行った結果、35%の市町村で住民の避難計画の策定を終えていなかった。
また病院や福祉施設の避難計画になると、全く終えていないかほとんど終えていないが44%。
福島の事故では、原発から5キロの病院では寝たきりのおよそ200人の患者の避難に5日もかかり、50人が死亡。
川内原発の場合も、30キロ圏の9の市と町で一般住民の避難計画は策定済み、しかし病院や福祉施設に限ってみると多くがメドが立ってない。専用の車両の確保に苦労したり、屋内退避する場合に職員をどう確保するのかなど、多くの課題、対応は施設側に丸投げされてる。
最も問題なのが、計画に実効性があるのかどうかを誰がどう判断するのか決まっていない事。
計画通り避難できるかどうかは訓練を繰り返して検証していく必要があり、政府は避難計画を再稼働の条件と位置付けて計画づくりを支援し、実効性を確認する体制を作らなければ。
また賠償制度も不十分。現在の制度は電力会社に全ての責任を負わせ、負いきれない場合に国が支援する仕組み、支援の内容は不明確。
今回の事故では東電だけで負いきれず、政府は支援機構を作ったが、結局資金を貸すだけで、東電は返済の義務を負っているため出し渋ることになり、十分な補償を受けられないケースが。こうした事態を繰り返さないためにも、電力会社が負いきれない部分は最後は政府が救うという仕組みを作ることが重要。
規制委が見るのはあくまで原発が基準に適合しているかどうかだけで、その先の再稼働は政府の責任。
しかし再稼働に国民は厳しい目。
NHKが今月行った世論調査では、規制委が安全性を確認した原発を再稼働させる政府の方針に、賛成が21%、反対が37%。
政府は再稼働を進める前に、まずは、避難や賠償など事故は起きることを前提にした対策を実効性のあるものにして、理解を得ることが求められる。
(水野倫之 解説委員)