--『生命誕生』と書名にあるとおり、本作は生命の起源に迫った刺激的な作品ですね。このような壮大なテーマの研究を始めた動機についてお聞かせください。
中沢:動機といえるものではありませんが、きっかけは青年期に抱いた“生命の起源"への疑問だったかも知れません。直接的な契機となったのは、勤務先の研究所に、一組織を立ち上げる機会を得たことでした。
研究所というのは以前の無機材質研究所(現、物質・材料研究機構)のことです。特定の無機物質の性質を詳細に研究して新しい素材を創出することを任務とする国立研究所で、15の研究グループで組織されていました。例えば「炭化ケイ素(SiC)グループ」とか「ダイアモンド(C)グループ」とかで、それぞれは5年間の期限付きで研究して、5年経つと報告書を作って解散します。再編成される新しい研究グループのテーマは所内に公募され、所員であれば誰でも提案できました。新テーマは、所内外の何回かの審査を経て決定されて、「閣議決定」や「国会承認」によって正式に発足するシステムでした。
当時研究者として一定の地歩を得て、これまでとは違う「面白い研究」をしたいと考えていましたので、身近にあってよく知ってるようですが、実は良くはわかっていない粘土の鉱物を研究対象にすることを提案しました。粘土の主成分でモンモリロナイトと呼ばれる鉱物です。火山灰が風化してできる普通の鉱物ですが、無機の鉱物でありながら有機高分子と似た性質もあるのです。そんな面白い物質ですが、水に分散すると泥水になって沈殿しないほど微細で、そのため、構造や性質の詳細は分かっていませんでした。その詳細を明らかにすること、それと、粘土を使って“地球に優しい"新素材を開発することを試みようと考えたのです。
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