2014年05月16日
初めてこの主張に触れた人は「反戦平和の立場なのに徴兵制を願うってどういうことなの?」と面食らうかもしれません。

徴兵制を導入した方がよいかもしれない - 森永卓郎:BLOGOS
「日本の若者に戦争への危機感がないのは、「自分は関係がない」と思っているからだろう。だから、私はいっそのこと若者たちに徴兵制を適用したらどうかと思う。そうすれば、戦争の恐ろしさを、自分自身のこととして、考えるようになるだろう。もちろん若者だけではなく、国会議員にも任期を終えたら戦地に赴く義務を課し、国家公務員は人事異動で前線に配属できるようにすべきだ。そうすれば、安倍内閣がこれだけの暴走をすることに危機を感じるようになるだろう。」


しかし実は反戦平和の立場からの徴兵制導入論は、以前からアメリカではリベラル派の間ではよく唱えられてきた論調で、別段驚くべき主張ではないのです。例えば10年前にアメリカの民主党のリチャード・ランゲル下院議員とフリッツ・ホーリングス上院議員はHR163-S89法案(下院提出のHR163法案および上院提出のS89法案)を議会に提出しました。このランゲル-ホーリングス立法は18〜26歳の男性および女性(アメリカ合衆国の市民あるいは永住資格者)に施行される徴兵制を再設立するもので、下院にて402対2の圧倒的大差で否決されています。

イラク戦争に憂いたニューヨーク・ハーレム出身の黒人であるランゲル議員は「犠牲は平等に」「皆が戦争に向き合うように」という反戦平和の観点から、否決されることを覚悟の上で議論を提起するために、徴兵制復活法案を提出したのです。

この事は日本では理解され難かった為に、当時インターネット上では共和党が徴兵制復活を画策しているという逆方向の誤解まで生まれていました。日本では護憲派が古色蒼然の「改憲したら徴兵制になってしまう!」という時代錯誤な主張をすることが未だに多く、反戦平和の観点からの徴兵制導入論はなかなか理解されていません。

しかし森永卓郎氏が記事中で指摘しているように、アメリカもイギリスも徴兵制ではなく志願制の軍隊を採用しています。志願制のままでも海外で戦争を行えているという現実がある以上、改憲したら徴兵制になってしまうという主張は説得力に欠けています。西側先進国の大国の中では唯一、徴兵制を残していたドイツも既に志願制に移行しました。中国も人民解放軍は志願者だけで充足している状況で、ロシア軍もずっと志願制への移行を模索しており、将来的には徴兵制を廃止してしまうでしょう。世界的な状況から見ても、徴兵制復活の恐怖を煽るやり方は時代遅れで相手にされなくなっているのが現状です。アメリカでのような反戦平和の観点からの徴兵制導入論は日本ではなかなか根付かないと思いますが、それを唱える人が出て来たというのは、何らおかしなことではないと思います。

なお反戦平和の観点からの徴兵制導入論はアメリカでは唱えられていますが、現代でも王族が率先して戦場に赴くイギリスではあまり聞かないので、万能な主張ではないでしょう。実際に徴兵制が導入されても戦争を抑止する効果が高いかどうか、それぞれの国の状況によって一概には言えないのではないかと思います。
22時07分 | 固定リンク | Comment (6) | 平和 |

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  1. 最近は、この種の話題を取り上げるのは少し珍しいような?
    それはともかく、元記事、どっから突っ込んだものやら…

    Posted by 名無しОбъект at 2014年05月16日 22:34:29
  2. 2004/03/20 アメリカ市民の生活に忍び寄る軍事社会の影:暗いニュースリンク 
    http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/03/post_11.html
    >、「金持ちだけが兵役を逃れるのは許さない」という旧来の保守的なアメリカ市民のために、ブッシュ政権は密かにHR163-S89法案の議会承認を進行中だ。


    これが10年前の大誤報。徴兵制復活のHR163-S89法案を議会に提出したのは実際には民主党議員だったという。

    Posted by 名無しОбъект at 2014年05月16日 22:38:00
  3. >1
    >それはともかく、元記事、どっから突っ込んだものやら…

    森永卓郎の記事、特に突っ込む要素は無いけど。アメリカの左派の主張そのまんま。

    Posted by 名無しОбъект at 2014年05月16日 22:38:57
  4. >3
    「戦後、日本が一番評価されてきたことは(中略)自衛隊員が誰一人殺していないことだ。」
    「志願制の場合、戦地の前線に送られるのは、大部分が低所得層だ。」
    あと、アメリカとウクライナって日米安保に相当するような条約結んでたっけ?

    ま、トピックの趣旨とは微妙にズレるのでこれくらいにしとくよ

    Posted by 名無しОбъект at 2014年05月16日 22:47:44
  5. >4
    >「志願制の場合、戦地の前線に送られるのは、大部分が低所得層だ。」

    それアメリカの左翼の主張そのままだよ。まぁ実際の統計では違っていたという。本当の低所得層は軍隊でも使い物にならず採用していなかったんだとさ。

    Posted by 名無しОбъект at 2014年05月16日 23:00:34
  6. >そのウクライナで、アメリカが実際に何をしたのか。確かにロシアに対して経済制裁は行っているが、
    >米軍が出動することはなかったのだ。尖閣諸島でも同じことが起きる可能性は、極めて高いと考えるべきだろう。

    森永ちゃんのこの主張は的外れだわね。グルジアもそうだったけど、ウクライナはアメリカと軍事同盟を結んでいなかったのだから、日米とは比較できない。

    Posted by 名無しОбъект at 2014年05月16日 23:03:28
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