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人工関節の置換手術 正確、安全に 普及するコンピューターナビ

産経新聞 5月16日(金)8時0分配信

 高齢化とともに股関節や膝の関節の痛みを訴え、歩行が困難になる人が増えている。重症になれば、患部を人工関節に入れ替える外科手術を行う。その治療技術は進歩し、コンピューターの支援で正確、安全に手術ができるナビゲーションシステムが普及し始めた。専門家は「手術の精度が高まり、早期回復が果たせる。不具合による再手術も少なくなるはず」と期待しており、注目が集まっている。(坂口至徳)

 ◆1ミリも誤差なし

 股関節や膝の関節の痛みは加齢などが原因で、関節を構成する脚の骨と受け皿の骨との間を埋める軟骨が減るなどして直接にこすれる形になって生じる。ひどい痛みや歩行障害がある重症の場合、外科手術で、特殊な合金やセラミックスでできた人工関節に換える。しかし、挿入の角度が数度、位置が数ミリずれるだけで、装着している間に脱臼したり、不具合が生じて再手術したりすることがある。

 開発されたナビゲーションシステムは、あらかじめ手術する関節部分をMRI(磁気共鳴画像装置)などで画像データを取っておき、それを基に3次元のCG画像を作って綿密な手術の計画を立てる。手術の際は赤外線照射で人工関節の位置や角度を測り、そのデータをCG画像に重ねて表示するため、計画通りの正確さで手術できる。

 このシステムをいち早く導入している「りんくう総合医療センター」(大阪府泉佐野市)の薮野亙平(やぶの・こうへい)・人工関節センター長は「角度で1度、位置で1ミリの誤差も出ないので経験が少ない医師でも確実に手術が行えます」と話す。ただ、装置は高価で、システムに慣れるまで時間がかかるため、導入している病院は数%とまだ少ない。同センターでは平成24年に導入し、今年3月までに人工股関節などの手術を130件(再手術は除く)行った。合併症が出たのは脱臼のわずか1件だった。

 ◆手術時間も短縮

 68歳の女性は、生まれつき股関節に軽い脱臼があり、加齢とともに左側の股関節が変形し、歩行が不自由になった。家族の介護をしていることなどの事情から、人工関節の置換手術を受け、通常の動作ができる状態に短期間で回復する必要があった。女性はこのシステムを使った約1時間半の手術を受け、成功。翌日から歩行補助ロボットを使ったリハビリを行ったところ、歩行可能になったという。

 このロボットは、筋肉の動きに合わせて流れる電流を感知して作動し、硬くなった股関節の動きを助け、大きく足を上げられるようにする。同センターでは全国で初めて歩行支援のロボットを使い、効果を挙げている。これまで25人に行った結果では、3分間の歩行距離が手術前の平均140メートルから手術後1週間で同160メートルにまで改善した。

 同センターでは今月から、大阪大学などで開発された、患者の膝関節のCGデータを基に3Dプリンターで手術のガイド器具を作製する手法も使っている。この器具は、個々の患者の骨にぴったりはまって切除する場所を示す切り込みが入っているため、格段に精度が高まり、手術時間も短縮できるという。

 薮野センター長は「人工関節の置換は外科手術のため、不安に思う人が多い。しかし、重症患者の社会復帰に向けての治療効果は大きく、これからも最新の技術を取り入れ、安心、安全の手術を目指していきたい」と話している。

最終更新:5月16日(金)13時59分

産経新聞

 

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