J-WAVE「JAM THE WORLD」の2014年5月13日放送分よりピックアップ。
今回の記事は、先日多くの方の読んでいただいた記事の後編ということで、放送の後半部分をお届けします。
メインテーマは「限界集落につくるシェアハウスとシェアオフィス」で、最近話題になっているサテライトオフィスなどに関連するお話です。
前半の記事:ナリワイ代表・伊藤洋志氏:「支出を削る」発想から生まれた、「ナリワイ」としての床張り
限界集落・熊野地方で始めるシェアハウス
津田大介:そんな伊藤さんが、新しいプロジェクトを始めたと伺ったんですけど、具体的にはどういうものなのでしょうか?
伊藤洋志:今ぼく自身は東京在住なんですけど、今度は、限界集落になっているところでシェアハウスとシェアオフィスをやろうと思っていて…
津田:ちょっ、これすご、、ちょっと待ってくださいね。限界集落になっているところのシェアハウスとシェアオフィス?
伊藤:はい。
津田:これ何故ですか? てか、そもそも場所はどこですか?
伊藤:場所は和歌山県の、熊野地方っていう、「熊野古道」があるところなんですけど。
津田:結構な、「田舎」というか、遠いですよね。名古屋からも相当かかる、みたいな。
伊藤:4時間くらいかかるので、日本中で東京から最も遠いエリアの1つですね。
津田:飛行機で行くけど、空港からも結構遠いみたいな。
伊藤:数時間くらいかかりますね。
津田:なんでそんなところで?
伊藤:なんかですね、そこくらいまで行くと本当に空き家が多くてですね。家賃とかも何万円とかの次元じゃなくて、1万円を切っているんですよ。
津田:8000~9000円みたいな。
伊藤:そうです。そこに家を構えていると、例えばぼくはいま「ナリワイ」をしてますけど、体の調子が悪くなって働けなくなって、「1年くらい休養したい」となったときに、まぁ1年くらいなら何もせずに生きていけるかなぁ、と。
津田:貯金が数十万円あれば、いけるでしょうね。
伊藤:せいぜい年10万円くらいの家賃で、土地は余っているので、時給程度の農業ならそれくらい難しくないでしょうし。
津田:そうか、自分の食べる分を育てれば飢えもしない、と。
伊藤:で、元気になったら「また戻るか」って感じで。そういう、自分の生活に直接的な保険をかける、みたいな。
津田:拠点を2つ持つことによって、仕事がやりやすくなるなんていうのは、デキるフリーランスの人間だったらよく聞く話ではあるんですけど。
デキるフリーランスじゃなくても、拠点を2つ持つっていうのはもちろんできて、その拠点を2つ持つときに経済的に厳しい人でも限界集落まで行って安いところを探せばできる、ということなんですね。
伊藤:そうですね。
特に、毎月かかる金銭的な維持費も少なくて、後は手間を掛けて自分で床を張るとか、家の手入れをするということが発生してしまいますけど。
津田:いやでも、もう一つの疑問というか、シェアハウス・シェアオフィスで人が集まるものですか?
伊藤:一人で家を借りても、結局年中使うものではないので何人かで集まるんですけど、結構人集まりますよ。
津田:へぇ〜、どういう人が?
伊藤:「なんかよく分からないけど、限界集落とシェアハウスっていう組み合わせが面白そうだから」っていう人とか。
一緒にシェアハウスをやっている方が、インターネット上ギークなpha(@pha)さんという方なんですけど、「だいたいギークって都会に集まってるけど、田舎でもインターネットは繋がってるから、むしろゆっくりインターネットできていいんじゃないか?」とか。
津田:あぁ、熊野でもインターネットは繋がるんですか?
伊藤:そうですね、ブロードバンドはきています。
津田:基本的にはだいたいどこでもブロードバンドは繋がりますからね。
徳島の限界集落の1つだった神山町なんてブロードバンドを活かして、シェアオフィスというかサテライトオフィスみたいなものを作ってたりしますらかね。
伊藤:そうですね。で、やっぱり行ってみたら日本の田舎って温泉がたくさんあって、しかもその年間パスが1万円切ってたりしてですね。
津田:はいはい。
伊藤:1日数十円で温泉に入れる!みたいな。
津田:ほぉ〜。
伊藤:「温泉」と「家」と「イイ野菜」があったら、結構楽しい生活やなぁっていう。そういうのを実感して、またみんな「来たい!」ってのが続いてる感じですね。
津田:なるほど。それで伊藤さんのようにナリワイのスタイルをやっているんだったら、「1ヶ月だけ来て、熊野でできる仕事をやろう」みたいなそういうことなんですか。
伊藤:そういうことですね。
家賃が10000円を切っていて、さらに温泉にも格安で入れるとは…!
もはやパソコンだけで仕事ができる人にとっては窮屈な都会に住むよりは、こういった田舎でのんびり仕事をして生活する方が、心身ともに健康的なんじゃないか?とすら思えますね。
温泉と家とイイ野菜…ほんとにこれだけで十分なんだよなぁ。
伊藤さんと一緒にシェアハウスをやっているphaさんも面白い方ですねぇ。
本日締切ですが、「フルサトをつくる」やcakesの記事を読んで熊野の暮らしに興味持った人は、ナリワイ研修生というものが募集されているけどどうでしょうか。期間限定だけど給料を貰いながら田舎での自分の仕事を探せる制度なので良いと思う。 http://t.co/9o9bN45C00
— pha@『フルサトをつくる』 (@pha) 2014, 5月 7
『phaの日記』という個人ブログも運営なさっています。
途中、話題にも上がった徳島県神山町は非常におもしろい取り組みを行ってますね。
地域と企業の交流で、限界集落を再生。サテライトオフィスの成功を目指して~徳島県神山町~|特集|JOIN ニッポン移住・交流ナビ
なんでも、 徳島県はIT事業に最適な田舎だそうで。
徳島の過疎地にIT企業のオフィスが集結してるらしい – NAVER まとめ
田舎では「空いている仕事」を見つけよう
津田:そういう限界集落でシェアハウス・シェアオフイスを作って、「飢えない」ということはできても、仕事って作れますか?
伊藤:そうですね、都市と田舎の仕事の作り方の違いは行ってみて思ったんですけど、田舎の場合って「競争」というより「誰がこれやるんや?」みたいな感覚で。
どの仕事もそこまで恩恵を受ける仕事ではないけど、誰かがお店をやり続けないと、集落が突然不便になる、とかですね。
津田:へぇー。
伊藤:ですので、空いてる仕事をみつけるとぼちぼち支持されるという。
去年の夏にシェアハウスを作って、まずやったのは夏休みの間だけ高校生と中学生向けに寺子屋をやったんですけど。
津田:はいはい。
伊藤:山の方なので、家庭教師もいないし塾もなくて中高生が困っているんですよね。
津田:うん。
伊藤:街の方に一応塾はあるので、親御さんがそこへ送り迎えしようと思ったら片道30分くらいかかるから、1時間しか授業がない場合なんかは家に帰り着いたらまたすぐ迎えに行かないといけない、みたいな。
津田:大変ですよね。
伊藤:結局、3時間拘束されるので。「山奥でやってくれるとありがたい!」みたいな声もあって。
津田:東京から若い人が来ていて、どうやら勉強も教えられそうだ、と(笑)
では伊藤さんのナリワイとしては、熊野では家庭教師だったんですね。
伊藤:夏はそうでしたね。
夏休みを利用してい寺子屋、これも立派な「ナリワイ」ですよね。
もちろん、これに限らずどんどん「空いている土俵」を探して積極的に仕事をみつければ食うには困らなさそうですね。
保険としての「フルサト」
津田:phaさんとの共著となった「フルサトをつくる: 帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方」という本ですけど、「フルサト」が漢字でもなく、ひらがなでもなく、カタカナなんですよね。
「フルサト」がカタカナになっている理由ってなにかあるんですか?
伊藤:ぼく自身の出身は香川県なんですけど、故郷って本来的な意味で言うと「生まれ育った地元」みたいなことだと思うんですけど。
津田:はい。
伊藤:今ってどっちかと言うと、「自分が生まれ育った場所」というよりは、自分の生活のベースになる田舎的なエリアを、生まれ育ってないところで作った方がいいんじゃないか?と思っていて。
あと、この間ニュースでアンケートを取っていたんですが、「東京生まれ東京育ち」の人の6〜7割くらいが、自分が「故郷」と呼べる場所を持っていないそうなんです。
津田:持ってないです!東京都北区出身ですが、ぼくも持ってないです。
この「フルサトをつくる」に書いてある「帰れば食うにに困らない場所を持つ暮らし方」というフレーズが非常に印象的で。
フリーの仕事をしていると、突然失敗してうまくいかなくなったときに、地方から来た人だと東京で夢を追ったけどダメだったら夢破れて地元に帰って暮らすっていうのが、幻想かもしれないけど「帰る場所」があるっていいな、と思って。
東京出身だと、東京で失敗したらもう帰る場所ないし「それで終わりだ」って感じはすごくあったんですよね。
でも生まれ故郷とか、育った場所じゃなくて、「食うに困らない場所」を保険のように持っておくだけで働き方がもっと豊かになるんじゃないかと。
伊藤:なると思いますね。
津田:精神的な余裕も出てきますしね。そういう提案でもあると。
伊藤:そうですね、しかも逆に都市でチャレンジングな仕事をしやすくなると思うんですね。後ろ向きな意味じゃなくて。
津田:たしかにそうですね。
ぼく自身、地方出身ですがたしかに「ダメだったら地元に帰ればいい」みたいな逃げ道は常に片隅に用意しています。「逃げる」というと響は悪いかもしれませんが、こういうセーフティーネットはあればあるほどいいと思っているので。
そういう意味で、東京出身の人がIターン的に地方に「フルサト」を持つということは極めて有意義なことだと思います。
まずはその土地の先人を訪ねよ
津田:都会で暮らしていると、そういう場所に行って仕事をするとリフレッシュしたりいい効果もあると思いますが、「気分変えたいけど、1時間でも寝ていたいなぁ」みたいな人が「フルサト」と関わっていくにはどうすればいいんですか?
しかも、やっぱ会社勤めの人はフルサトすら作れないんじゃないか?って気もするんですよね。
伊藤:家を借りて直して…、っていうのは比較的ハードな部類に入ると思うんですけど、それはぼくみたいな好きな人がやるとして。
ただそれはぼくが一人でやっているわけじゃなくて、「◯月◯日から1周間で家を直します。終わった温泉も入るし、来たい人どうぞ」みたいなイベントをやってるんですけど。
メインになる人がそういうイベントを企画して、ちょっと忙しい人がたまにそういうのに参加して、どんな感じが様子を見て、自分もやりたい!っていう意気込みがでたらやればいいし、そこに参加し続けるのもいいし。
うちのシェアオフィスは、直すのに参加したくなったらいつでも行ったらどうかな?みたいに開放しているので。
津田:なるほど。じゃあたとえば、「ちょっと熊野に興味が出てきたし、シェアハウスとかいいかも」って思った人は伊藤さんのナリワイとかに連絡を取れば関われたりするんですか?
伊藤:そうですね、あとぼくのところだけだと大した量がないのでアレなんですけど、全国的にこういうことをやっている方はでてきているので。
津田:そうなんですよね、若者が集まるコワーキングスペースとか、「えっ、こんな地方にもあるんだ!」みたいなところって増えてはいるので、自分が興味をもったところでそういうのを探してみるのもいいかもしれませんね。
伊藤:はい。
津田:あと、逆に気に入った土地や思い入れのある土地でフルサトを作っていきたい!と思った場合はどういうプロセスで作っていけばいいんですか?
地元の人が、「なんか都会からヘンな若者が来てるぞ」みたいになって、最初は疎まれたりしないのかな?って思っちゃうんですけど。
伊藤:なるほど。
一番いいのは、どこの場所にも外から来て住んで、生計を立てておられる先人はいるので、そういう方のところをまず訪ねて、そういう方って何かしらのイベントをやっているんですよね。
津田:うんうん。
伊藤:そこにまず参加して、何かやったり、お話を聞いたりして、「その人が面白かったからここがいい!」って決めるとか、いろんな決め方があると思うんですけど、まずその場所の人に会うっていうのが大事だと思います。
津田:なるほど。そこで話をしているなかで、「ここだった楽しいかも」っていう場所を見つけていくと、それが一番最初のプロセスになっていくと。
たしかに、田舎って閉鎖的で、よそ者を嫌うみたいな偏見があったんですけど、まず先人に話を聞くというのが手っ取り早いんですね。
「こういうときはこうすればいい」ということを肌で分かっている方の話は貴重で、価値がありますからね。実際この話自体、伊藤さんという先人の話なワケで、これを聞いたり読んだりして「なんかこういう生き方っていいよね」ってなる方も少なからずでてくるはずですし。
いやぁ、にしてもおもしろい!30分間の音声をほぼフルで書き起こしてしまいましたが、多くの方にとって有意義で興味のあるお話だったと思います。
こういう放送ってなかなかリアルタイムで聞いたり、録音したりしてまで聞こう!とはならなそうなので、今後も積極的にお届けしたいと思います。
もちろん、放送をお聞きするのもラジオ本来の空気感や良さが伝わるので、これを機に「是非聞きたい!」と思った方は、まずはJ-WAVEの公式サイトや、radikoの公式サイトをご覧ください。
先月発売されたばかりの伊藤さんとphaさんの共著もかなり面白そうな内容となっており、オススメです。
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