ビッグデータをいかに活用するかが注目を集めている昨今。統計学の本がベストセラーになるなど、データ分析にかかわる“理系の知識”の必要性を感じている人は多い。一方で、営業やマーケティングに携わる一般ビジネスパーソンはいわゆる“文系”がほとんどだろう。
そこで、大阪ガスの企業内データサイエンティストとして著名かつ、文系の営業マンらと長年協働してきた経験を持つ同社ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫氏に、文系の人でも、データ分析を理解し、仕事で使いこなすには何をすればいいのかを聞いた。
(聞き手は三木いずみ)
河本さん自身は、データサイエンティストで理系ですが、社内の事業や経営に分析結果を生かす際には、企画や営業といった文系の人と仕事をされることも多いかと思います。
河本:そうですね。営業の現場の人から話を聞きながら、分析モデルを作りますし、出てきた分析結果の数字について、最終的にどう活用するか、文系の人に判断してもらわないといけないことは多々あります。
本来、ビジネスパーソンとして「数字が苦手」などと言っていてはいけないとは思いますが、今、ビジネス上、競争力を持つために必須といわれるデータ分析では、関数、変数などある程度専門的な数字や計算式が出てきます。文系のビジネスパーソンには、こうした数字に不慣れだったり、苦手だと言ったりする人が少なくありません。そんな文系の人が、今からでも、仕事でデータ分析をうまく使いこなすことは本当にできるのでしょうか?
「数学力」より「数字力」が必要
大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長。昨年、「第1回 データ・サイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」(日経情報ストラテジー主催)を受賞。日本の企業内データサイエンティストの第一人者。京都大学工学部数理工学科を卒業し、同大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了後、1991年に大阪ガス入社。著書に『会社を変える分析の力』(講談社現代新書)。
河本:よく誤解されていることなのですが、実際にデータ分析をビジネスに生かすために必要なスキルとは「数学力」より「数字力」なんです。
数字力とは、数字からある種の世界観を描ける能力のことを指します。もっと端的に言うと、数式は知らなくても、数字を見た瞬間に何となく「儲かりそうだ」といったことが分かる能力のこと。損得勘定に似た感覚のことですね。この能力は文系理系を問いません。理系でも、「数学力はあるけれど、数字力はない人」はたくさんいます。
一方で、数学力というのは、いわゆる計算が得意とか数式を理解できるといった能力のこと。文系で、数学力がなくても数字力のある人は、データサイエンティストとも話がかみ合い、データ分析をうまく仕事に生かすことができます。それほど数学が得意なわけではない文系の営業の人が、すばらしいデータ分析モデルを作る一方で、統計分析のプロフェッショナルで数学の得意な理系の人が、さほど成果をあげられないということもあります。
もちろん、計算やプロセスを理解できる数学力はあるに越したことはありません。しかし、例えば、文系の人がデータサイエンティストと仕事をしたり、データ分析を駆使してビジネスの成果を上げようとしたりするとき、ビジネスパーソンにとっては、数学力より数字力のあるなしのほうがより重要です。実際に計算や分析を行うのはデータサイエンティストですしね。
確かに、学校の数学の成績はあまり関係ないとも言われます。企業向けSNSを運営する米リンクトインのアナリティクス部門のトップ、D.J.パテルのような人も中学2年生から数学はずっと赤点。大学の単位取得のために取った微分積分の授業で目覚めて、数字を駆使する分析専門家になったなどという事例もあります(参照:『真実を見抜く分析力』より)。
河本:彼などは、数学力はなかったけれど、数字力があったと言える事例でしょう。
もっと具体的に言うと、数字力がある人というのは、通常、数字に対してどういう態度をとっているものなのですか?
河本:グラフや表を見せたときに、どんな反応をするかを見ると、数字力のあるなしはすごく分かりやすいです。グラフを見た瞬間、分からないながらも一所懸命にその意味を解釈していこうとする人は数字力があります。単純に「結果の数字」にだけ飛びつくのではなく、表やグラフから、何かを発見しようという気持ちで見る。それが数字力のある人です。