(2014年5月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
九分通りインドの次期首相になるナレンドラ・モディ氏は、ふざけた言い回しをする。特に印象深い発言の中で、同氏は「寺よりトイレ」を支持すると宣言し、ヒンドゥー禁欲主義との強い関係を覆してみせた。国民会議派のある閣僚が口にした同じ言い回しは、モディ氏が率いるインド人民党(BJP)から激しい怒りを買った。BJPは、その発言は「宗教と信仰の基礎を破壊する」恐れがあると述べた。
だが、BJPの指導部は、党の運命がいわゆる「モディ・ウエーブ」にかかっていることを理解し、自党の首相候補であるモディ氏が自分の言葉としてこのスローガンを使った時、ほとんど反対の声も上げなかった。
モディ氏はどんな首相になるか?
有権者が8億人を超える世界最大の選挙が終わり、16日に発表される結果で、ナレンドラ・モディ氏の首相就任が確実になると見られている〔AFPBB News〕
インドは宗教的情熱に費やすお金を減らし、衛生にかけるお金を増やすべきだと言い切るモディ氏は、確かに正しい。
2011年の国勢調査によると、インドの半数近くの世帯はトイレがなく、住民は屋外で排便せざるを得ない。インドでは、家にトイレがある人より、携帯電話を持っている人の方が多い。子供の4割が栄養失調に陥っている最大の原因は、食糧不足ではなく、お粗末な衛生状態だ。
野火のようにインド全土に広がったモディ氏の魅力は、このような悲惨な状況を根絶する成長を生み出し、支持者たちを中流生活への軌道に乗せるという同氏の約束によるところが大きい。
ここに、モディ氏が首相に就任した場合の難問がある。
首相就任は16日に発表される選挙結果でBJPが十分な票を確保できた時に初めて確定するが、彼は果たして、発展を優先し、雇用を与え、官僚主義を打破する指導者なのか? それとも、モディ氏はヒンドゥー民族主義のルーツに回帰し、概ね国民会議派の世俗的な原理原則によって形作られた国に宗派の目標を課すのだろうか?
日本の安倍首相との類似点
モディ氏に問われていることは、経済不振を食い止めるというモディ氏のような選挙公約を掲げて首相の座に駆け上がった日本の国家主義者、安倍晋三氏にまつわる疑問と似ていなくもない。
実際には、安倍氏は保守主義者と改革者の立場を両立させた。就任当初数カ月は、結果がまだ不透明な経済再生計画を導入することに費やした。その後は自身が抱く右派の思考にふけり、厳格な秘密保護法を成立させ、国家主義の神社に参拝することで、ただでさえ不安定な中国との関係を悪化させた。