「『偶発』に引きずられるのが戦争で、『刹那(せつな)』で動いてしまうのが兵士だ」。岐阜県恵那市の西尾克己さん(94)は民間人を「殺した」記憶が胸の奥底に沈殿しているという。開拓団員として旧満州(現中国東北部)へ。第2次世界大戦で現地で召集された。抗日「八路軍」の情報を農民から聞き出そうとしたが抵抗され撃った。

 「ふつうの国」を志向する安倍政権が、「戦争ができる国」に向かっているように思える。「いったん戦火を交えると引けなくなる。『限定』という枠をはめたとしても、戦時は解釈がいかようにも変わる。ためらいがなくなっているのが怖い」

 三重県桑名市の元陸軍伍長・近藤一さん(94)は中国と沖縄の最前線で戦った。「300万人が犠牲になってようやく憲法9条を得たのに、なぜまた戦争のできる国にならなければいけないのか」

 商店の従業員から兵士に。殺すか、殺されるか。戦場は人を変える。中国戦線で無抵抗な捕虜に銃剣を突き刺した。戦友は「こいつらの息子が仲間を殺した」と老人の耳をそいだ。「そんな状況を作らないのが政治じゃないですか」。今の若者たちが心配だ。