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くらし☆解説 「老朽マンション 建て替えは?」2014年05月15日 (木)
松本 浩司 解説委員
【リード】
くらし☆解説、きょうはマンションの建て替えに関する話題です。古いマンションの中には耐震性、つまり地震に対する強さが十分でないものが少なくないのですが、合意づくりが難しいため建て替えは進んでいません。そこで建て替えを後押しする新しい制度が検討されています。松本解説委員に聞きます。
【耐震性不足マンションと建て替えの現状】
Q)
まず耐震性不足のマンションというのはどれくらいあるのでしょうか?
A)
正確にはわかりませんが60万戸くらいあるのではないかと見られています。
現在、マンションは590万戸あります。このうち耐震基準が厳しくなかった昭和56年以前に建てられたものが106万戸。サンプル調査などから国土交通省はその5~6割、つまり60万戸前後は震度7や6強の地震で倒壊したり、一部が潰れたりする恐れがあると見ています。
<VTR 首都直下地震イメージCG>
例えば30年以内に70パーセントの確率で発生するとされる首都直下地震。国の想定では首都圏で18万棟の建物が全壊して最大で1万1千人が死亡すると推定されています。被害は古い木造住宅が中心ですが、老朽化したマンションも多数倒壊したり、中間の階が潰れたりして多くの犠牲者が出ると考えられています。
Q)古いマンションの建て替えはどのくらい進んでいるのでしょうか?
A)
なかなか進んでいません。建て替えに成功したのは全国で183例しかありません。
建て替えが難しいのは一戸一戸の持ち主=区分所有者の合意を得るのがたいへんなためです。
世帯によって経済状況も家族構成もさまざまです。耐震性不足だけでなく施設が古くなって使いづらいので思いきって建て替えたいという人がいる一方、高齢でお金をかけられない、かけたくないという人、工事に2~3年かかる建て替えを待っていられないという人も少なくありません。5分の4の人が賛成すれば建替えを進められますが、それでもハードルは非常に高いのです。
【検討されている建て替え促進制度】
Q)
そうは言っても耐震性不足は命に関わる問題です。検討されている建て替えを後押しする新しい制度というのはどういう制度なのでしょうか?
A)
対象になるのは古い耐震基準で建てられたもので、耐震診断で耐震性が足りないと診断されたマンションです。
建物は敷地の面積に対して建物の床面積に上限が設けられています。容積率と言います。
新しい制度は、耐震性不足のマンションを建て替える場合、容積率を上乗せできるようにします。割合は1.5倍前後が検討されています。ただ条件として地震などが起きたときに地域の避難場所にしたり備蓄倉庫を設けたりすることなどが求められます。容積率の上乗せには周辺から反発が予想されますが、地震で倒れてくる心配がなくなることや、地域の防災機能が高まることで納得を得やすくする狙いがあります。
Q)
容積率が緩和されると、なぜ建て替えが進むのでしょうか?
A)
床面積が増えて部屋数を増やすことができれば、そこを新たに分譲してその収入で、建て替えの負担を減らすことも可能になるからです。
一番の狙いは「既存不適格のマンション」を救済することです。
古いマンションの場合、建築後に規制が厳しくなり、容積率が建てたときより小さくなっているケースが少なくありません。これが「既存不適格」です。建て替えると部屋が狭くなってしまうのでこの問題が大きな障害になっているのです。耐震性不足のマンションについては条件付きで現在と同じくらいの面積を認める、それによって抵抗感を小さくし建替えを後押しようというのです。
もうひとつ大きく変わる点は、マンションを建替えるのではなく取り壊しを前提にして土地と一緒に売る場合です。現在は区分所有者全員の同意が必要ですが、新しい制度では5分の4の賛成でできるようにします。老朽化が激しく空き家が多くなっても同意が得られず身動きできないマンションが増えています。防災面に加えスラム化を食い止める効果があると専門家は期待しています。
Q)
建て替えも売却もしたくない、住み続けたいという人はどうなるのでしょうか?
A)
そこが非常に重要な点です。所有している部屋の価値に相当する補償を受けたうえで立ち退いてもらうことになります。特に問題なのは、売却のケースで持ち主から部屋を借りている人=借家人の権利が弱くなることです。建替え・売却を進める側や行政に対しては移転先の住居を世話する義務または努力義務が課せられていますが、安全のためとはいえ意に反して転居をする人に対して十分な配慮が求められます。
【建て替えか耐震改修か】
Q)古いマンションに住んでいて心配な人はどうしたらよいのか?
A)
まずお住まいのマンションがいつ建てられたのか、昭和56年以前であれば耐震診断を受ける必要があります。56年以降でも耐震偽装事件のような手抜き、欠陥があれば耐震性が足りない場合があるので、心配な場合は診断を受けたほうがよいでしょう。耐震診断の費用は幅がありますが、床面積1平方メートルあたり500円~2000円程度と言われています。
そこで「耐震性が足りない」と診断されてしまったら、耐震改修工事をして補強をするか、建て替えをするかという選択肢になります。耐震改修工事の費用も工法などによって幅がとても大きいのですが、目安としては床面積1平方メートルあたり15,000円~50,000円程度とされています。
耐震診断も改修も助成制度のある自治体が多く、手厚い助成を受けられるケースもあるので調べる必要があります。
Q) いずれにしても住民の意見がまとまるかがカギですね。
A)
耐震改修工事をするのか建て替えるのか、管理組合と住民だけで判断するのは難しいのが現実です。そこで専門家に助言を求める必要があります。補強と建替えどちらかに偏るのではなく中立の立場で専門家から十分な判断材料をもらい、住民で十分話し合う必要があります。
Q)専門家はどうやってさがせばよいのでしょうか?
A)
多くの自治体が相談窓口を設けていてコンサルタントなどを紹介してくれます。代表的な公的組織としては、建て替えは再開発コーディネーター協会、補修はマンション管理センターがあげられます。
今の国会で法律が改正されればマンションの建て替えのための選択肢が増えることになります。制度を生かすためには行政などの相談体制の強化やコンサルタントの育成支援にも力を入れる必要があると思います。