TVタイトル:手書きで60年 80歳男性が講演へ
毎日新聞 2014年05月15日 15時00分(最終更新 05月15日 16時14分)
「新婚さんいらっしゃい!」「探偵!ナイトスクープ」「剣客商売」−−。テレビ番組や映画のタイトルやテロップを、舞台装置家の竹内志朗さん(80)=大阪市中央区=が手書きで描き続け、間もなく60年になる。手掛けたタイトルは230万枚。独特の字体を記憶する人は多いが、製作者が注目されることは少ない。竹内さんは「テレビが手作りだった頃の苦労と温かさを伝えたい」と16日、兵庫県西宮市で講演する。
大阪市出身の竹内さんは、中学生だった終戦直後から母の影響で演劇に魅了され、背景画など舞台装置の製作者を志した。高校卒業後にデザイン会社で技術を学ぶうち、西日本初の民放テレビ局・大阪テレビ放送(現朝日放送)が1956年に開局。知人の紹介でタイトルやテロップ製作に携わり始めた。
当時は全て手書き。生放送でも絵筆で書いたタイトル文字を専用カメラで画面に重ねた。番組に応じて文字を書き分けるため、新聞の切り抜きや相撲の番付などを基に字体を独学した。
「長寿番組の題字には愛着がある」と竹内さん。例えば時代劇「剣客商売」の題字。原作の池波正太郎さんの直筆原稿のペン字を毛筆風にアレンジした。1週間かけて構想を練り、完成するまで2日間、数百枚の試行錯誤を重ねた。
もっとも大抵のタイトルは、ディレクターからおおまかな内容を聞いて短期間で仕上げる。その場で「今すぐ書いて」と頼まれたこともある。「部長刑事」は「大阪府警協力のシリアスな刑事ドラマ」と言われ、明朝体を基本に質実なイメージに。「新婚さんいらっしゃい!」は「♡」マークの位置などを考え抜き、3日ほどかけて完成させた。
写植やコンピューターの普及で活躍の場は減った。だが、85年の日航機墜落事故や95年の阪神大震災では、死者の名を次々に大判の紙に素早く手書きしてスタジオに張り出した。熟練の技が生かされた最後の「現場」だった。
今も時代劇などで時折、竹内さんの字を使いたいと依頼が来るが、スポットライトが当たることは少ない。7年前から関西を中心に講演活動をするようになった。「活字に出せない味があるからこそ多くの人の記憶に残った。こんな仕事があったことを伝えたい」と思うからだ。
講演は作品展と併せて16日午後1時半、西宮市社家町の西宮神社で。無料。西宮文化協会(0798・33・0321)。【花牟礼紀仁】