14日午後2時40分、ソウル市瑞草区瑞草洞のサムスン電子ビルのロビー。3時に予定されていた避難訓練を前に、社員証を首から下げた社員数十人がセキュリティーゲートを通って一斉に出てきた。3時が近付くにつれ、その数はさらに多くなり、退勤時間を思わせるほど多くの人が出てきた。外国人の社員や役員の姿も目に付いた。訓練開始を前に、非常階段ではなくエレベーターを使って先に建物の外に出てきたのだった。
サムスン・グループは13-14日の2日間にわたり、全国約250の事業所で一斉に避難訓練を行った。参加者は12万人を超えた。サムスンがグループ全体で避難訓練を行ったのは初めてだ。旅客船「セウォル号」沈没事故を受け、緊急事態に対する警戒心を高める目的で訓練を行ったのだ。ソウル市江南区の大型コンベンションセンター・COEXと韓国貿易協会が13日に行った避難訓練では、個別のテナントが多いため参加率が低かったが、この日の訓練はサムスンが全社レベルで指示したものだけに、参加率は高かった。
地上43階建てのサムスン電子本社の建物で行われた訓練は、火災の発生を想定し、全ての社員がエレベーターではなく非常階段を使って屋上や1階に避難した後、消火器の使用法や心肺蘇生術の教育を受けるという内容で、約1時間にわたって行われた。サムスン物産やサムスン生命のオフィスまで合わせ、瑞草洞のオフィスに勤務する役員・社員約9000人がほぼ全員参加し、参加率は非常に高かった。だが、避難の過程ではマニュアルを守っていない様子があちこちで見受けられた。
1階のロビーにいる保安要員たちは「指定された場所に素早く避難するように」と緊迫した声で呼び掛け続けた。ところが、非常階段を使って降りてきた社員のうち、走っている人は半分程度にすぎなかった。社員たちの間では「走らなきゃいけないんじゃない」「ああ、何だか恥ずかしいね」という声が聞こえてきた。
この日午後、ソウル市の世宗大通りにあるサムスン生命のオフィスと、太平路2街にあるサムスン本館で行われた避難訓練も、似たような状況だった。全ての社員が非常ベルに従って避難訓練に参加したものの、具体的な指針を守っていない社員が多かった。案内放送では「濡らしたタオルで口をふさぎ、非常階段を使って避難するように」と案内したが、実際にタオルで口をふさいでいた人はほとんどいなかった。避難訓練の際に「携帯電話の使用を自制するように」といった指針もあまり守られなかった。建物の外に避難した一部の社員は、消火器の使用法や心肺蘇生術の講習には参加せず、近くの喫茶店で時間をつぶしていた。
サムスンの関係者は「初めての訓練だったため不十分な点もあったと思うが、全社員が実際に避難することで、災害に対する警戒心を高めたという点では意義があった。今後は避難訓練を定期的に行うことを検討している」と話した。