中洲の若手ママが「今さら恋チュン」を仕掛けた理由
qBiz 西日本新聞経済電子版 5月12日(月)11時21分配信
失礼ながら、多くの人が「今さら?」と思うだろう。昨秋以降、企業や自治体など全国を席巻したAKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」で踊る動画だ。福岡市・中洲でクラブを経営する若手ママが4月末、中洲で働く人たちと「博多中洲バージョン」動画を作り、公開している。「なぜ、今さら作ったのか」。こんな不躾な質問をするため、昼の中洲に行った。
※ 「動画はこちら」
発案したのは名平睦美さん(30)。クラブを中洲に開いて7年目だ。
「いま、中洲のイメージってあまり良くないでしょ。お客さんは『中洲に行った』と他人や家族に言わなくなっているし、働いている女性も『中洲で働いている』と言えない雰囲気がある。『隠される』ようになっているんです。だから若い人がどんどん中洲に来なくなっている。それを何とかしたくて」
もちろん、企業の接待が減り、娯楽も多様化した。博多を代表する百貨店「福岡玉屋」は1999年に廃業し、映画館も減った。時代の流れはある。だが、このままだと中洲本来の「大人の街」のイメージが消え、「風俗店街」のイメージがますます強まるのではないか―。名平さんの思いは、ここにあった。
今年3月、AKB48のコンサートに知人たちと行き、今回の企画を思い立った。「今さらタイミングは遅くないか、とは思いました(笑)。でも、福岡の企業でもやっているし、私も言い出したんだし、やらないよりやった方がいいと思って」
動画を作る際、店のPRではなく、中洲という街の「集合体」(名平さん)にこだわった。だからまず、近くに本社がある辛子めんたいこ老舗ふくやの川原正孝社長に相談に行った。川原社長は「いいね、面白い」と即答。その場で芸妓(げいぎ)衆を束ねる博多券番にも連絡を取り、協力を取り付けてもらった。
出演者は約260人。福岡商工会議所や中洲町連合会関係者、「中洲ママの会」などのママさん、クラブの女性やボーイ、料理人、観光ガイド、美容室、不動産会社、水上バス、そして中洲で開かれた「さくらまつり」を訪れた家族連れも登場し、振り付けをこなした。
4月27日に公開し、再生回数は1万回を突破している。名平さんは、動画を見た店の客から「私の子どもたちも面白そうに見ていました」とメールをもらった。
「家族で見てもらえたんだな、とうれしかった」。クリーンで、元気で、大人がリラックスし、夫婦や家族連れでも来られて、若い人も楽しめる街。中洲で店を開く前に1年間学んだ東京・銀座がそうだった。動画からは、そんな理想がにじむ。
手弁当でプロの撮影カメラマンに依頼し、関係先を奔走した名平さん。冷めた反応も一部あった。いまだに「若いのに店を出しているのは『後ろ盾』がいるから」と思われる。悔しい、はずだ。
でも、「次は何をやろうか考えています。同じ世代、若い人たちに『中洲に行ってみようか』と思ってもらえるのがゴールですから」と、ほほえむ。
西日本新聞社
最終更新:5月12日(月)11時48分