イスラエル:ネタニヤフ首相単独インタビュー 一問一答
2014年05月14日
毎日新聞のインタビューに答えるイスラエルのネタニヤフ首相(左)。右手前は毎日新聞の伊藤芳明主筆=東京都千代田区で2014年5月13日、丸山博撮影
毎日新聞との単独インタビューに応じたネタニヤフ首相との一問一答は次の通り。【聞き手は伊藤芳明主筆と大治朋子・エルサレム支局長】
◇東京五輪に協力
Q 東京五輪のセキュリティー対策に関心が集まっている。イスラエルは前回のロンドン五輪の際、ノウハウと技術を提供した。この問題について安倍晋三首相と協議したか。
A 東京五輪のためにセキュリティー面で積極的に協力する用意があることを伝えた。安倍首相は関心を示していた。実りの多い取り組みになると思う。イスラエルは多くの国と協力し、成功した経験がある。日本にも喜んで協力したい。
Q 協力の詳細について話したか。
A いいえ、現段階では。多くのことについて話をしたので。あらゆる潜在的な協力の可能性について話をした。イスラエルと日本の企業、政府間の協力は非常に大きな経済的機会を生み出せる。私たちは技術の時代に生きている。イノベーションだけが、私たちの製品とサービスの価値を増し続ける唯一の方法だ。日本は科学技術の中心であり、イスラエルも優れた技術力を持っている。私たちが協力することによって、エネルギー、水、農業、健康、情報技術(IT)などの分野で大きな成果を上げることができる。みなさんが持つ携帯電話の中には、イスラエル製の部品が入っているはずだ。また例えば、胃腸の具合を確かめるためカプセル型内視鏡をのむ。これもイスラエル製だ。世界で最もたくさん乳を出す牛は、フランスでもオランダでもなく、イスラエルの牛だ。なぜなら(酪農業が)コンピューター化されているからだ。牛のあらゆる動きが計算されている。さらに、日本にとって非常に重要な分野は、サイバーセキュリティーだろう。サイバー攻撃から発電所や個人の銀行口座をどう守るか。イスラエルはサイバーセキュリティー界の中心でもある。私たちは、この分野でも日本と協力したい。グーグル、マイクロソフト、アップルといった会社はすべてイスラエルに研究開発所を持つ。我が国で起きている爆発的なイノべーション革命を享受したいのだ。品質管理などさまざまな面で優れた点を持つ日本企業との協力は、さらなるイノベーションを進行させ、アベノミクスにも貢献できるだろう。
◇核武装国の脅威
Q 安倍首相との会談で、イランの核問題について、「日本にとっての北朝鮮の脅威と似ている」と指摘した。この問題で日本政府に対して何を期待するか。
A 核武装した北朝鮮とイランが同盟を組めば、テロ国家である両国に絶大な力を与えてしまう。イランと北朝鮮は既に互いに協力関係にあり、イランが核兵器を製造する能力を持ってしまえば、疑いの余地なく、全世界の脅威になる。安倍首相には、ほかの世界の首脳に会うときと同じことを述べた。イランに核開発能力を持たせてはならないということだ。核開発こそイランが核交渉で達成したい目標だ。経済制裁を解除してもらう一方で核開発の能力は残そうとしている。そんなことが現実になれば最悪だ。まるで北朝鮮のようになってしまう。
Q この問題でイスラエルと日本は情報交換しているか。
A (日本とは)以前より緊密な連絡を取り合っている。それは当然のことだ。我々が共に心配するのは、核開発をする「ならず者国家」(北朝鮮とイラン)だ。彼らは協力し合っている。だからこそ、我々だって協力して当然だ。
Q 専門家の中にはイランの核兵器と弾道ミサイル技術は北朝鮮をしのぐという意見もある。
A その通り。両国はお互い助け合っている。
Q 日本人が脅威に感じているのは、こうした技術がイランから北朝鮮へ渡ることだ。
A まさにその通りだ。だから私は、「P5プラス1(イラン核問題を交渉する国連安保理常任理事国と独)」が、イランに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発をやめさせなければならないと考えている。核開発能力を破壊するのと同時にだ。なぜイランはICBMを必要とするのか。僅か数キロの通常爆弾を数千キロ運ぶのにICBMを開発する者はいない。唯一の目的は核弾頭の運搬だ。イランは核計画は平和利用目的だと言っている。それならなぜミサイルがいるのか。核が欲しい証拠だ。これはイスラエルだけの見方ではない。日本の視点でも国際社会の視点でも、イランに核開発の技術を与えてはならないし、運搬手段も持たせてはならない。
Q 核拡散の危険はどうか。
A 二つの懸念がある。まず、(イランは)獲得したいかなる技術も北朝鮮と共有するだろう。二つ目は、中東の他国が核開発に走るおそれがある。(核交渉で)イランと悪い合意を結べば、中東は大変危険な地域になってしまう。
◇交渉再開への道
Q アッバス・パレスチナ自治政府議長は、パレスチナ服役囚釈放や入植活動凍結などの条件をイスラエルが受け入れれば、和平交渉を再開する用意があるとしている。もしファタハとハマスの和解が失敗した場合、これらの条件を受け入れるか。
A 最初に問うべきは、パレスチナ自治政府がイスラエル国家の存在を認める意思があるかどうかだ。(ファタハが)ハマスと合意に至るまでは、その答えは「イエス」だった。パレスチナ人が平和を求めて民族として和解するのならいい。だが、手を結ぶ相手がハマスなら駄目だ。彼らは我々に対するテロを実行しているからだ。私は、ケリー米国務長官に聞かれた。「パレスチナ人全体を包括しないヨルダン川西岸パレスチナ自治区を所管するのみの自治政府と和平に合意したいのか」と。私は「そうだ」と答えた。なぜなら、イスラエル国家と平和共存したいパレスチナ人たちと和平を結ぶことになるからだ。しかし、彼らは今、ハマスと手を組んだ。イスラエル国家を絶対に認めず、テロで破壊しようとする者たちだ。だからアッバス議長は選ばねばならない。ハマスか、イスラエルかだ。二つは両立しない。彼がハマスとの合意を破棄することを望んでいる。もし彼らが統一政府を維持し、ハマスが我々にロケット弾で攻撃してくるようになれば、その責任はアッバス議長にある。平和を望みながら、そのような合意をするのはおかしい。
Q 昨年、和平協議を再開するに当たって、パレスチナ側はユダヤ人入植活動の凍結など三つの条件を挙げた。イスラエルは前提条件付きの交渉を拒否したが、今でもそうか。
A 交渉に前提条件をつけるのはよくない。会って話すのみだ。いつもそう思ってきた。アッバス議長がハマスとの合意を破棄すれば、和平交渉再開の道が開くし、そうあってほしいと思う。
Q 2国家共存による解決策は今や非現実的にも見える。専門家は現状維持はイスラエルの民主主義的価値を阻害し、このままでは事実上の単一国家になると指摘している。単一国家となり、ユダヤ人としてのアイデンティティー、もしくは民主主義的価値を犠牲にすることができるか。「イスラエルはユダヤ人国家」との理念を犠牲にすることができるか。
A そうではない。私は和平への希望を捨てるべきではないと考える。和平へ向かう解決策は、パレスチナの非武装化であり、パレスチナがイスラエルをユダヤ人国家として認めることだ。彼らは彼らの民族の国を持つ。我々は4000年住んできた土地にユダヤ人の国を持っている。しかし、和平を望んで我々がガザ地区から出ていくと、イラン、ハマス、その他のイスラム教過激派が入り、ガザから我々の街にロケット弾を撃ってきた。もうその繰り返しはご免だ。だから単一国家はいらない。また、イスラエルの隣にイラン国家(過激派が住む国家)があるのも望まない。
Q 現状維持もまた……。
A 現状維持は望ましいとは思わない。だから交渉しているのだ。(パレスチナ人を融合した)単一国家も良いアイデアではない。なぜなら、我々が撤退したガザは小さな「イラン」となり、我々と対峙(たいじ)することになった。再びそのような事が起きれば、レバノンのようにイスラエルの将来を脅かす「イランの対外基地」を国内に二つ抱えることになる。
Q ハマスがもし中東和平4者協議が提示した条件(イスラエルの承認など)を受け入れるとしたら。
A 残念ながらそのような事態が起きるとは思わない。ハマスは態度を変える気配はない。しかし、喜ばしいことに、イスラエルと中東諸国の関係は劇的に変化している。もちろん、多くのアラブ諸国はパレスチナの紛争終結を望んでいる。だが、同時にイスラエルを敵ではなく潜在的なパートナーだと言っている。彼らもイランの核開発やムスリム同胞団がエジプトを支配することを心配しているからだ。
その他の国も、イスラエルのすべての主張に同意せずとも、理解している。ロシア、中国、韓国、インド、シンガポール、さらに中南米やアフリカ諸国は、和平を望みながらも同時にイスラエルとビジネスしたいと言ってくる。私は希望を持って来日した。時は熟したのだ。イスラエルと日本も、経済、技術協力を高める時期が来たと思う。
◇米との同盟関係
Q シリアやエジプト、ウクライナなどの状況を見ても、米国の存在感が低下している。中東の不安定化への影響をどう見ているか。
A 米国は依然として世界で最も優位にあり、イスラエルとは非常に緊密な同盟関係にある。わが国は米国との同盟を維持する一方で、日本や中国などアジアの国々との友好関係も模索している。重要なのは、同盟関係を築くことに加え、独自の自衛能力を高めることだ。ほぼ2000年間、ユダヤ人は自分たちを防衛する能力が無く、その結果、ホロコーストという悲劇を招いた。イスラエルの建国以来、我々は常に同盟とともに自衛能力を高めようとしてきた。
Q イラン核開発を制限するための国際協議が続いている。全ての努力が失敗したとき、イスラエル単独で軍事攻撃する選択肢はまだ持っているか。
A 私が集中しているのは、核協議で交渉している超大国(5カ国+独)に、イランと悪い合意をしないよう呼びかけることだ。北朝鮮もそうだが、明日にも、来年にも(ミサイルや核爆弾が)できるかもしれない。私の関心は(イランを)抑えること。イランが核爆弾製造に成功すれば、イスラエルにも日本にも利益にならない。
◇ユダヤ人入植地
Q イスラエルがヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を拡大させている問題をどう解決するのか。
A 少なくともこの20年、私が首相になる前から新しい入植地はつくっていない。ただ住宅が増えているだけだ。入植地は本当に少しの面積でしかない。しかもガザの入植地は撤去した。本来、入植地は和平交渉の焦点になる問題ではないのだ。もう50年、ガザとヨルダン川西岸で紛争が繰り返されてきた。世界は入植地問題に注目するが、問題の核心は、パレスチナがユダヤ人国家を拒否していることなのだ。パレスチナの交渉担当者に言っている。本気で平和をもたらさねば紛争は終わらないと。
一方で国、地域の発展を続けていく必要がある。イスラエルは地中海と紅海をつなぐ鉄道事業を推進している。完成すればスエズ運河で何が起きても、日本は欧州市場にアクセスできる。我々は平和のために働き、強い経済を作っていかなければならない。