この数年、Jリーグクラブはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で分が悪い。もちろんJリーグクラブの実力が足りない部分はあるのだが、それ以外にもACLで勝てなくなる要因が多数ある。その勝てなくなる理由について、ここで少し触れる。
まず最初に、JクラブがACLで勝てない(よく言われる)要因を3種類さっくりと提示しておく。
- JクラブはACLを本気でやっていない。他国はACLにリーグ戦以上の情熱を傾けている。
- Jリーグは1位から降格ラインまで実力が変わらない一方で、ベンチ層はどこも薄い。他国は上位常連に選手が一極集中している。
- 他国のトップクラブは実力的にも成長している。
ACLの成績はJリーグのレベルを示しているわけではない
ACLで勝てていない理由として、まず単純に考えられるのはJリーグが弱いのではないかと考えられる。しかしこれは正しいとは言えない。実際勝てていないのだから、圧倒的にレベルが高いというわけではないが、総合的に見てほぼトップと言えるリーグレベルを維持していることは、日中韓を行き来した選手が証言している。ペトロ・ジュニオール[1]、ボスナー、オグネノフスキーといった選手は、日本向けでもなく韓国向けでもない母国でのインタビューで「Jリーグが(選手のレベル的に)アジアNo.1である」と発言している。この発言は日本向けのリップサービスではなく、いずれも韓国に移籍した後での母国に向けての発言である。ステボ、ラドンチッチらもタイプが違うことを強調しているが、JのほうがKよりも優れているという含みを残している。
選手のレベルは韓国代表の選抜でも見てとることができる。現在の韓国代表は国内組+J組でのテストマッチを数多く行って新戦力の発掘に努めているが、その中でほぼレギュラー当確というレベルまで頭角を現してきたのは3選手、キム・ジンス(新潟)、ハン・グギョン(湘南)、イ・ヨン(蔚山)であり、Jリーグ勢が多い。Kリーグの国内組も総動員して確かめた結果として、Jリーグ中位や降格クラブの選手のほうが優れているというのが韓国代表監督・代表ファンの一致した意見である。これは「たまたまレギュラーに定着したのがJリーグ組であるだけ」なのではなく、FC東京のチャン・ヒョンスなどもKリーグ勢を抑えて控え候補に上っている。
またクラブのレベルは選手の移籍からも推定できる。移籍の多いJリーグ、Kリーグ、タイリーグの間で比べると、Kリーグの上位(7位以上)とJ1、Kリーグ上位と中国超級上位が選手を交換している一方で、Kリーグの下位(8位以下)はJ2との選手の交換が多い。鹿島から放出された増田はKリーグ2位の中心選手であり、浦和の控えだったエスクデロはソウルでは中心選手まで成長した。タイリーグは昔はJ2~JFLレベルの選手の溜まり場だったが、最近は元代表の茂庭や岩政を獲得するなど、J1の控え選手を交換するほどまでレベルが向上している。以上を全体的に見れば、各国のACL出場組はJ1と同レベルだが、それ以外はJ2レベルの選手を集めているという状況になっている。このような環境では、選手が「J1のほうがレベルが高い」と言うのは無理からぬことである。
すなわち、選手の実感として、「Jリーグのレベルは高いがACLでは弱い」ということになっている。このような矛盾が発生するのは上述した通りの理由だが、これについてもう少し詳しく見て行こう。
リーグの平準化とベンチ要員不足
Jリーグの場合には日程がきついため、コンディションを維持するにはある程度ターンオーバー、選手入れ替えをする必要が出てくる。このため、安定して国際カップを勝ち抜くためには控え層の充実が必要となってくる。例えば欧州のCL常連クラブは、控えの戦力だけでも中堅チームを軽くしのぐ戦力をそろえおり、リーグとカップの両立を支えている(これにはCLの賞金が非常に大きく2チームそろえるだけの資金力を得られる見込みがあるからでもあるが)。
Jリーグの場合、控え層の薄さが特に顕著である。例えば2013年の場合、広島は主力の故障も重なって控えを大挙出場させたが、記者会見のたびに「手抜きなのか」と言われるほどひどい結果となった。他国のリーグのように日程優遇を行わない限りは、控えが薄ければACLを弱い戦力で戦わざるを得なくなる。
控え層が薄くなった原因は主に3つある。まず一つはJリーグの財政レベルが均衡しているということである。大都市では野球など他の娯楽と競合する一方で、地方都市では野球チームがなく「地域の象徴」として人気を一手に引き受けている。このため大都市のクラブと地方都市のクラブで財政規模がほとんど変わらないという事態となっている。Jリーグの経営開示によると、10クラブが収入30億円台にひしめき合っており、上位14~16クラブの収入が25億円から50億円の範囲に収まる。資金力2倍はほとんどのリーグで簡単に順位が覆る程度の比率でしかなく、Jリーグの場合は1~15位、J2の1~2位程度までがほぼ一線に並んでいる。このため、主要な選手がリーグ全体に散らばりビッグクラブが生まれない傾向にある。またCLの賞金が大きい欧州と異なり、出るだけ赤字のACLでは、ACL出場組が賞金で戦力を強化することもままならない。
二つ目の要因は2010年のゼロ円移籍解禁である。詳しい事情は別項に記したが、ゼロ円移籍解禁で国内移籍市場が急激に流動化した。現在の日本人選手の間では「出場しなければ評価は上がらない」「出場機会を優先すべき、ベンチより出場」という認識が浸透しており、多少小さなクラブでも出場機会が得られるなら移籍することが多い。この傾向は国内移籍に限らず、元代表の茂庭や岩政がタイへ、エスクデロや増田が韓国へ、チーム内で控えになるくらいなら国外でレギュラーという道を選んでいる。
三つ目の要因は、クラブライセンス制度である。この制度の縛りによって赤字がほぼ許されない状況となったため、Jクラブは投機的な戦力強化は難しい状況にある。Jリーグで最も多い収入を持つ浦和でさえ移籍金を惜しみゼロ円移籍での獲得ばかりという状況であり、Jリーグ全体でも移籍金を支払っての強奪はほとんど見られない。契約期間切れのゼロ円での移籍であるから選手側の選択権が大きく、前述の出場機会優先の志向もあり良い選手が自ら控えに志願することもなく、どのクラブもベンチはJ2レベルという状況が続いている。2014年にセレッソがフォルランを獲得するなど大胆な戦力再編を行ったが、それも柿谷らの人気により収入の増大があったこと、高額給与だったクルピ監督の引退やシンプリシオの放出など、支出に関して整理し黒字見込みを確保した上での獲得となっている。
これらの理由により、リーグとACLを両立できる戦力を満足に確保できず、うまみの少ないACLのほうを捨てるという状況になっている。特殊事情で2013年の柏のようにリーグよりACLを優先するような方針を取れば、ACLでは勝てるがリーグでは勝てないと言うことになる。現在のJリーグの事情から言えば、J1中位の控え(J2レベル)で他のACLチームに勝たなければならないわけで、そのレベルまで底上げされるのはかなり先の話だろう。
「○○頼みのクソサッカー」の衰退
リーグが平準化したことは、戦術的に一つの副作用を生んでいる。それは、攻撃をエースの一流フォワードにお任せして、後ろは8人程度の安い選手で構成して引きこもりつつたまにミドルを打つような戦術、俗に「○○頼みのクソサッカー」と呼ばれるような戦術が少なくなったことである。リーグの資金力差が大きい場合には下位が上位に対抗する戦術として広く用いられるが、Jリーグではそのような戦術をとるチームはワシントンのいた時代の浦和以来めっきり減っている。このためJリーグで勝ち点を稼ぐのに、人数をかけたブロックをこじ開ける技術や一人のスーパーフォワードに対抗する守備戦術といったものが必要なくなり、これらのレベルが低下している。
この結果として、現在のJの上位陣は「○○頼みのクソサッカー」に対して勝ち点を落としやすい傾向が見られる。例えば豊田頼みの鳥栖は資金力の割に明らかに好成績を収めているし、2013年前半にはキリノ頼みの湘南に横浜がチンチンにされる、後半には甲府のパトリックに放りこむ戦術の前に上位5チームが全滅といった事態も起きている。そしてACLは資金力のあるクラブが「○○頼みのクソサッカー」を平然と行ってくる大会である。中国は圧倒的1位の広州恒大をはじめとして参加全チームがその戦術であり、韓国も伝統的にその戦術で、常連の全北や蔚山は特にその傾向が強い。Aリーグチームもそういった傾向が大きい。すなわち、リーグ平準化の副作用として、ACLで多い戦術に対して免疫が衰えているということは指摘せざるを得ない。
また伝統的な戦術的志向の違いとして、日本サッカーは「ミスしない相手を崩す」という志向で攻撃戦術が組まれているのに対して、他国では「相手のミスに乗じて点をとる」という志向が強い。この違いは前線からの守備のパターンにも表れており、日本の前線からの守備は相手の攻撃をディレイさせる志向が強いが、アジア(特に韓国)はインターセプトを狙うポジショニングに偏っている。このため、J勢は崩されたと言うより個々人のポカに付け込まれ、インターセプトされてやられるケースがかなり多い。ポカミスで失点するのは、ACLだけではなく代表にも共通した傾向となっており、育成レベルでの問題と考えられる。一方、韓国でも「相手のミスを待つ」という志向について国内に賛否両論があり、レベルの低いアジアでは相手のミスを待って我慢するだけで点が取れる一方で、なかなかミスをしないアジア強豪やヨーロッパ勢との対戦時にはアイデアのない攻撃を繰り返すだけになり、「宝くじに当たるのを待つようなもの」と言われ「ロトサッカー」と言う語で批判的に言われることもある。
出場チーム入れ替わりによる経験不足
ACLは移動距離が大きく未知の土地で試合をする過酷な大会であるため、ある程度ノウハウが必要となる。そのためある程度連続出場しているほうがノウハウが溜まり、有利となる。中国超級は広州恒大と北京国安、Kリーグはソウル・蔚山・全北・浦項・水原の5チーム、タイはムアントンとブリーラム、ウズベクはプニョドコルとパフタコールなどほとんど毎回出てるようなクラブがあり、ノウハウが溜まっている。一方で、Jリーグは2010年以降の平準化によって安定して強いチームが生まれなくなっており、昇格即優勝やACL出場組の降格も当たり前、2013・2014と続けて連続出場を果たしたクラブが4枠中1クラブだけ、出場クラブの出場回数実績もKリーグの半分以下、超級より少ないという状況となっている。これらの事情によりさらにACLでは不利となっている。
JリーグはACLを本気で戦っていない(が、外国は本気である)
JクラブがACLで勝てない一つの大きな理由は、はっきり言ってしまえば「本気でやっていないから」という部分がある。これは監督自身もはっきり言っており、例えば2012年ACLで名古屋のストイコビッチ監督は会見で「ACLよりJ優先」と断言している[2]。選手層に多少余裕があるチームではJに主力を出しACLは控え中心に回すことが多く、2013年も浦和は5人をターンオーバーし30歳以上の控えベテラン中心で挑み[3]、広島はリーグの主役だった森崎和幸やミキッチらをACLで温存たためにACLでの手抜きは記者会見でも毎回煽られる羽目になった[4]。
コスト的に見合わないタイトルであるACL
JリーグクラブがACLで勝てない一つの理由は、そもそもACLに勝つ魅力がないという点である。もちろん取れるなら取りたいが、別に取らなくてもよい、という「鶏肋」のような存在である。これはストイコビッチ監督の「選手は全力でやってもらうが、クラブはJ優先」という言葉にも表れている。
賞金や観客収入の問題
ACLが「鶏肋」となるのは、5000kmもの移動が当たり前で身体や旅費の負担が大きい割に賞金が少ないからである。次の表を見れば一目でわかる通り、ACLの優勝賞金はJリーグの優勝賞金より安い。さらに言えば、J1とJ2の分配金の差よりもACLの優勝賞金のほうが低く、J2降格の場合には観客収入なども減るのでさらに分が悪くなる。また、欧州のCLを踏襲してリーグ戦は週末、ACLは平日と言うスケジューリングがされているため、ACLホーム試合の客入りは普段の半分程度であり、営業収入としても魅力が低い。
ACL優勝賞金+CWC最低賞金 | 3億円 | 150万ドル+150万ドル |
J1優勝賞金 | 2億円 | |
J1とJ2の分配金の差 | 2億円 | J1=約3億円、J2=約1億円 |
CWC最低賞金 | 1.5億円 | 150万ドル アジア王者枠出場で2連敗の場合 |
ACL優勝賞金 | 1.5億円 | 150万ドル |
天皇杯優勝賞金 | 1億円 | |
ナビスコ杯優勝賞金 | 1億円 | |
J1 2位順位賞金 | 1億円 | |
ナビスコ杯2位賞金 | 0.5億円 | |
Kリーグ優勝賞金 | 0.5億円 | 5億ウォン |
旅費の問題
ACLの1試合は旅費に4万ドル、成績賞金が1勝で4万ドル程度だが、近場の韓国や中国はともかく、豪州なら格安ツアーレベルに絞っても1人当たり10万円、中東なら20万円は下らない。選手23名とスタッフ10名程度を連れていけばそれだけで赤字である。ビジネスクラスである程度まともなホテルに泊まれば選手とスタッフ30名に絞って勝ったとしても赤字になる。また、そもそも定期便の本数が少ないウズベクなどのチームと対戦する場合にはチャーター機が必要となるケースがあり、2013年は広島が「Jアウェイ→ACLウズベキスタン→Jアウェイ」という日程で1800万円程度の出費だったと報告されている[5]。総合的に言えば、ACLは優勝しない限り出るだけ損で、赤字が許されないJリーグのクラブライセンス制度のもとではACLはむしろ迅速に負けるべきと定義される。JリーグがACL専用に旅費援助をするようになったのも[6]、速やかに負けるべき大会であるという位置づけではさすがに困るという要因もある。
コスト無視で勝ちに来るアジアの他国
ここまで述べた通り、基本的にはACLは出るだけ赤字の大会であり、クラブの収支を考えれば本気になって取り組む必要性は全くない。しかし、Jリーグ以外のACLの常連クラブは、赤字無視でタイトルを取る傾向が強く、さらにリーグよりACLを重視する傾向にある。
例えばKリーグは、リーグよりACLのほうが明らかに重要であると考えられている。例えば韓国紙の記者はこう述べている。[7]
「客観的に見たとき、現在のKリーグは様々な面でJリーグや中国リーグに押されています。競技レベルで見るとJリーグに押され、投資面で見ても中国リーグに劣っている。そんな危機意識をすべてのクラブが持っています。だからACLは、“Kリーグは決して劣っていない”と確認する唯一の機会なのです。
逆に、この大会で結果を出せないと、Kリーグは東アジアで競争力がないと認めざるを得なくなる。リーグ戦で多少不利になったとしても、すべてのクラブがACLに対するモチベーションを高めているのは、そんな切実な思いがあるからです」
それは行動にも出ている。ACLに1軍を出してリーグは2軍を出すことがさも当たり前のようにとらえられている[8]。また2013年に行われた経営情報公開によると、シーズンチケットの平均的な価格が日本円で5000円程度であるなど、観客や視聴者からの収入はJリーグの1/10に満たない(GDPから言えば日本の半分はあるべきであるにも関わらず)。小学生100円・中高生200円のチケットや、チケットをクジとして数万円分の景品が当たる抽選会をどこのクラブも行っている[7]。2013年8位の城南は年間収入が5億円を超えたことがなく、J2の最小規模に近い数字であった。一方で、代表選手や外国人は1億円を超える年俸を受けており、財閥の見栄で一部クラブに資金が落とされて強さが維持されているという現状が明らかとなった。観客収入がないため、財閥系とそれ以外の資金力の差は隠しようがなく、大財閥系のソウル・全北・蔚山・水原・浦項が上位5位を独占し、中規模財閥や宗教団体が資金を出している済州や城南がそれに次ぐという構造が常態化していた。
中国の広州恒大はACL優勝で中国内でも人気が出たが、サッカー好きと言われる習近平や共産党地方政府の「パンとサーカス」政策指令を引き受ける形で明らかに赤字経営を行っており、リッピ監督就任時はJクラブの平均以下の観客収入でJクラブの3~5倍の人件費を支払っていた(現在はACL制覇で全国人気のクラブとなった)。アラビア半島のクラブはオイルマネーを得た王族の趣味で経営されており、実質的に入場は無料に近い状態で、ひどい時には観客に金を払うありさまだが[9]、外国人選手には移籍金5億円・年俸1~2億円程度を気前よく払っている。Jリーグは「赤字になるからACLは手控えたい」としているが、アジアの多数のクラブにとっては「元々赤字なのは当たり前、国際タイトルと言う名誉のために財閥/党/王族が金を出しているのだ」という構造になっており、Jリーグとはモチベーションが全く異なっている。
また財閥や王族が支配しているような国でなくとも、国内リーグが一極集中になって優勝・準優勝が決まっているようなリーグが多く、優勝チームが取る目標はACLしかない、というような状態になっている国も多い。ウズベクは21世紀に入ってパフタコールとプニョドコルが1位2位を分け合うような状態が続いており、両者は代表と半ば一体化している(大統領のお気に入りであり、政府の支援もあると言われている)。タイのプロサッカーは商業的目的で黒字経営が行われておりJリーグから経営アドバイスを受ける関係にあるが、プロ化の波にうまく乗ったクラブとそうでないクラブに差があり、ここ最近は上位をブリーラム・ムアントン・チョンブリーの3チームで独占する状態が続き、このチームが代表予備軍となっている。このあたりは、ACL出場チームが降格するようなJリーグとは事情が大きく異なる。
稼ぐために出るUCL
ヨーロッパの本家CL(UCL)では、事情はACLと大きく異なる。なぜならば、UCLは賞金が巨額であり、稼ぐために出る大会だからである。たとえばドイツDFBポカールの優勝賞金は250万ユーロだが[10]、UCLは(出場リーグにより放映権分配が異なるが)本戦に出場さえすれば1000万ユーロほど、16強で2000万ユーロほど、8強で3000万ユーロ、4強以上なら5000万ユーロ近くを手にする[11]。言い換えると1勝するごとに2~4億円の賞金が手に入るわけで、UCLは営利的に是が非でも勝ちたい大会である。1勝あたり0.1億円も貰えず赤字になるACLとは大きく異なる。また移動距離も日本の国内移動に毛が生えた程度であり、地球を1/4周することも珍しくないACLと比べればはるかに負担は少ない。
距離(km) | 距離(km) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
東京 | 福岡 | 890 | ロンドン | アムステルダム | 360 | |
東京 | ソウル | 1200 | バルセロナ | トリノ | 600 | |
東京 | 広州 | 2900 | ミラノ | パリ | 630 | |
東京 | バンコク | 4600 | ドルトムント | ナポリ | 1300 | |
東京 | シドニー | 8000 | マンチェスター | イスタンブール | 2700 | |
東京 | ジッダ | 9500 | マドリード | モスクワ | 3400 |
日程のきつさ
コパ参加に立ちはだかる日程のきつさの問題でも触れたが、基本的に現代のプロサッカーはこれ以上余計な試合が入れられないというほどきつく埋まっている(これは国際戦と言えど近場で済むUEFAに合わせているが故の問題だが)。下にアジアのクラブの試合数(特記していない場合は2013年、ACL出場組のもの)を示すが、クラブ側がリーグ35試合前後、オープン杯とリーグ杯が各5試合余り、クラブ国際戦が14試合前後でクラブ側の合計が約60試合、これに通常の代表Aマッチ10試合余りと代表カップ戦7試合前後を加えて80試合弱が埋められている。この数字は2カ月オフを取れば毎週2試合カレンダーを埋めなければならない日数である。柏はACL準決勝の前後1カ月に毎週2試合入る過酷なスケジュールとなっており、選手の体が持たないとしてJリーグ側に日程変更を要請したが、日本は今年はコンフェデと東アジアカップが加わって日程が例年以上に詰まっており、変更は却下されている[12]。
一方で、韓国、中国、イランではそれぞれ日程変更が認められ、2013年ACL準決勝で国内リーグの日程延期を行わなかったのはJリーグだけであった。中国超級やKリーグはACL優遇のために順延を繰り返した揚句、予備日を使い果たし、Aマッチデーに延期した試合を開催するような無茶さえ行っている。2013年後半のAマッチデーは9/6~9/10、10/11~10/15、11/16~11/19の3回あったが、Kリーグの場合9月のAマッチデー期間に第27節、10/9に第32節、11/16に第37節を実施している。中国でも広州恒大がACLでの日程変更を補填するため、10月のAマッチデーに青島や上海東亜とともに試合を行っている。Jリーグはコンフェデ等も含めてAマッチデーの前後3日は全て開けている(Jリーグデータ検索サイトで実施記録を調べることが可能)。
また、そもそもの日程の差として、中国やサウジはもともと試合の開催数がJリーグより少ない日程でもあった。もともとカップ戦やリーグの試合数が少ない、代表の試合数が少ない、など日程にかなりの余裕があるにもかかわらず、ACLのための延期を繰り返してAマッチデーまでずれ込むのだから、相当なものである。
リーグ | オープン杯 | リーグ杯 | 国内計 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|
日本J | 34 | 6 | 5 | 45 | 2013年はコンフェデ+5試合、東亜杯+3試合 |
韓国K2013 | 38 | 5 | 0 | 43 | H&A26+スプリット12 東亜杯+3試合 | 韓国K2014 | 32 | 5 | 0 | 37 | H&A22+スプリット10 |
中国超級 | 30 | 9 | 0 | 39 | 東亜杯+3試合 |
タイ | 34 | 5 | 7 | 46 | |
サウジ | 26 | 4 | 6 | 36 | |
イラン | 34 | 5 | 0 | 39 |
もう少し言えば、Jリーグで日程変更が却下されたのは、観客へのチケット払い戻しなど多数の問題が関与してのことである。中国超級やKリーグはこともなげに日程変更を行っているが、それは観客収入が期待されていないために日程変更が気軽に行えるという側面もある。もっとも、両国ともリーグ戦よりACLのほうが観客の人気も高く、例えば広州恒大はACLでは常に満員、日本でのアウェイ試合でも3000人以上の日本滞在中国人が駆け付けている。Kリーグ蔚山は2012年の平均観客数が7500人だったが、ACL決勝のみ大入り満員の42153人を記録した。これはタイトルがかかっているからではなくACLだけ「国の代表」として人気があるという特殊現象が重なっており、遠くソウルから別クラブのサポーターが駆け付けるなどして達成した人数である。翌年2013年にはKリーグ最終節に蔚山と浦項が「勝ったほうが優勝」という試合を行っているが、その試合の入場者数は23012人であった。優勝した浦項に至ってはもっとひどく、2013/11/27のホーム最終戦で年間平均の半分程度の3300人というひどい記録となっている。
他国のトップクラブの実力は成長している
ACLでJリーグが勝てなくなってきた他の要因として、主に中国とタイの成長を挙げることができる。この両国は最近サッカーリーグに大金が投じられるようになってきており、特に獲得すする外国人の質が顕著に向上している。中国は広州恒大・北京国安・山東魯能の3クラブは年俸5億円クラスの外国人を複数そろえるという、Jリーグではまずお目にかかれない強力な補強を行っており、Jリーグ(とKリーグ)クラブにとっては脅威になっている。この補強は中国超級には過ぎたものであり、2013年には得失点差がプラスなのはこの3クラブだけで、4位以下はほぼすべて得失点差がマイナスという惨憺たる結果となっている。またタイリーグでもACL常連組は積極補強を行っており、特にブリーラムは監督と外国人枠をスペインリーグ下位からかき集めており、侮れない実力を持つに至っている。かつてはKリーグ以外は見るべきレベルのクラブは無かったが、今は手を抜いてGLを突破することは難しくなってきている。
Aリーグに関しては、リーグ自体が順調に成長しており、選手層は徐々に厚くなってきており、決して侮れない力を持つようになってきた。
シーズン | 総観客数 | 1試合平均 | |
---|---|---|---|
2005–06 | 920,318 | 10,956 | |
2006–07 | 1,084,550 | 12,911 | |
2007–08 | 1,227,244 | 14,610 | NZ脱退, WP加盟 |
2008–09 | 1,023,151 | 12,180 | |
2009–10 | 1,322,004 | 9,793 | GC, NQ加盟 |
2010–11 | 1,390,844 | 8,429 | |
2011–12 | 1,417,084 | 10,497 | NQ脱退 |
2012–13 | 1,666,875 | 12,347 | GC脱退, WSW加盟 |
2013–14 | 1,760,508 | 13,041 |
ただし、これがリーグ全体のレベルを示しているというわけではない。Kリーグは7位より下はJ1下位~J2レベル、中国超級は5位より下はJリーグより明らかに弱く、タイも3強を除けばまだそのレベルにある。ただ、中国超級もタイも国内リーグの発展に熱心であり、これからもレベルは上がっていくだろう。
まとめ
- JクラブはACLを本気でやっていない。他国はACLにリーグ戦以上の情熱を傾けている。
- Jリーグは1位から降格ラインまで実力が変わらない一方で、ベンチ層はどこも薄い。他国は上位常連に選手が一極集中している。
- 他国のトップクラブは実力的にも成長している。
資料
[1] 제주 페드로, 브라질 언론과 인터뷰 “한국 대표팀, 2002년 보다 약해” 풋볼리스트 2013年10月11日
[2] 「ピクシー、ACLよりJだ」 東京中日新聞 2012年2月20日紙面
[3] 「浦和“オーバー30”6人先発へ!/ACL」 日刊スポーツ 2013年4月3日紙面
[4]【AFCチャンピオンズリーグ2013 ブニョドコル vs 広島】森保一監督、西川周作選手(広島)前日会見でのコメント(13.04.22)
J’s goal
[5]【ACL2013総括アンケート】第4回:サンフレッチェ広島編(13.11.08)J’s goal
[6]アウエー戦経費を補てん アジアCLでJリーグ 2007/02/20 10:58 共同通信
[7] 呉承鎬 5年連続決勝進出。ACLで韓国勢がJクラブよりも結果を出せる理由
フットボールチャンネル 2014年04月16日
[8] [클래식 3R 프리뷰] 8명 빠진 상주 vs 힘 빠진 전북.. 승자는? 인터풋볼 2014年3月21日
[9] 森本応援してお金もらえる!?UAEリーグの“裏事情” http://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2013/01/15/kiji/K20130115004979490.html 2013年1月15日 スポーツニッポン
[10] “Der Sieger kassiert 6,25 Millionen Euro” Online Focus, 09.09.2012
[11] “UEFA CHAMPIONS LEAGUE: Distribution to clubs 2012/13″ uefa.com
[12] 「柏、ACL後の新潟戦の日程変更要請も却下」 スポーツニッポン 2013年9月24日