(2014年5月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
危機の真っ只中で、ユーロ圏を窮地から救ったマリオ・ドラギECB総裁〔AFPBB News〕
欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は先週、6月に金融緩和が実施されるという明確なメッセージを発した。金融緩和は歓迎だ。緩和策はまた、あまりにもタイミングが遅すぎ、十中八九は不十分だろう。
ドラギ総裁は2012年7月に「ECBはその責任の範囲内で、ユーロを守るために必要なことを何でもする用意がある。それは必ず十分なものになる」と公言し、ユーロ圏を窮地から救った。
総裁はいま再び、過剰生産能力をなくし、インフレ率を2%に引き上げるために、必要なことは何でもすると約束する必要がある。そうしなければ、危機がまた戻ってくるかもしれない。
筆者はECBの「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」プログラムがうまくいくかどうか疑わしいと思っていた。ところが結局、流通市場で国債を購入するという中央銀行の条件付の約束はパニックを食い止めるのに極めて効果的だったため、1度も実行されずに済んだ。
加えて脆弱な国々が緊縮財政と改革にコミットしたことで、ソブリン債務市場の障害が取り除かれた。自己満足した政策立案者と投資家は、危機が終わったと思っている。
市場と経済指標の好転は歓迎すべきだが・・・
1つの兆候が、10年物国債の利回り低下だ。5月8日時点で、アイルランド国債の利回りは2.7%、スペイン国債は2.9%、イタリア国債は3.0%、ポルトガル国債は3.5%だった。ギリシャ国債でさえ、利回りはたった6.2%だった。これらの国は皆、昨年、経常収支が黒字だった。1つには、内需が激減したためであり、もう1つには、競争力が向上したためだ。
これらの国はもう、資本の純流入を必要としていない。これが市場の信頼の回復と相まって、一部のユーロ圏諸国の中央銀行が圏内の他国に多大な債務を背負い込むことになった資金調達の不均衡を反転させている。
経済協力開発機構(OECD)の新しい「経済見通し(エコノミックアウトルック)」は、2014年の経済成長率がアイルランドで1.9%、ポルトガルで1.1%、スペインで1.0%、イタリアで0.5%になると予想している。これは歓迎すべき好転だ。
だが、各国経済は昨年末時点で、危機以前よりも6~9%規模が小さかった。失業率は極めて高く、スペインでは特に高い。ギリシャはそれ以上にひどい状態だ。さらに、やはりエコノミックアウトルックが示しているように、信用市場はまだ回復していない。
そして何より、OECDによれば、2015年までにスペインの公的債務残高は国内総生産(GDP)比109%になり、アイルランドのそれは133%、ポルトガルは141%、イタリアは147%、ギリシャは189%になるという。