【フロS】無線【スイ】
時は2114年
スイは軍に所属してから数年が経ち、数々の人命救助に貢献した。 それを讃えられ、昇級の案内も来たが、すぐ断った。 名誉のために動いているんじゃない、とアーロンにそう伝えた。 「んで、本当に低階級の軍に移動しちゃって良かったわけ?」 スパイラルタワーの屋上で、ふにゅはロンバレの手入れをしながら問いかける。 ここは元来ヘリポートになっており、眺めも良い。 風が靡き、スイのパーカーもぱたぱたと舞う。 「別に俺はお偉いさんになりたくてやってるわけじゃない。低階級のほうが自由に動けるし。」 強いだけが全てじゃないと、真加部からの教えでもあった。 同期のレジェンド達とは階級が大きく離れたが、それも理解した上なので連絡は途絶えることはなかった。 「…ん?」 風向きが変わる。 しかもうねるような、気持ち悪い風が二人の頬を掠める。 刹那、名古屋城の方から謎の鳴き声が響き渡り、咄嗟にその方向を向いた。 「…あれは…」 「何…あれ…」 ボロボロの名古屋城と匹敵する大きさであろう、焦茶の生き物がそこにいた。 怪物は二足で立ち上がり、咆哮する。 「!」 スイの腰に下げていた無線からアラームが鳴り、すぐ取り上げて耳に当てる。 レジェンドからだ。 「…ああ、ふぇんと合流すればいいんだな。…うん、了解した。」 無線を切り、足に微粒子を付加させる。 「ふにゅ、俺はあの周囲の救助へいってくるから、お前はここに残っててくれ。」 「あいよ、ここからなら撃てなくもない射程だ。」 ふにゅは手入れしていたロンバレをがしゃんっと音を立ててセットする。 スイは屋上から飛び降り、隣のビルの屋上へと飛び移っていきながら、名古屋城へと向かっていった。 旧名古屋城の付近は隠れやすいところが多く、住民も沢山いる。 案の定パニックになって逃げ惑う住人が確認できる。 「ちぃ!」 スイは目の前に誰もいないのを確認し、波動砲を真っ直ぐ放つ。 臨時の避難経路を作りあげると、住民達をそこへと誘導する。 これを繰り返せばいずれ弾切れになるだろう。 早めにふぇんと遭遇しなければ。 ふぇんとは、幼少の時と最近何回か会っている物資救援担当の人物だ。 会うたびに優しくしてくれるため、充分彼には好印象を持っていた。 まさか久々に会うのがこんな形になろうとは… そんな事よりも今はあの怪物に見られず、出来るだけ多くの住民を避難させることに徹しなければ。 見るからに怪物が放つ赤い光線は、確実に自身の波動砲よりも強い。 一発の破壊力と範囲が尋常じゃないのだ。 もしもあの怪物が此方を向けば、死刑宣告に等しい。 先程から怪物は別方向を見ているが、それと同時にレジェンドからの連絡もない。 一瞬繋がったかと思えば、ひじきちゃんの泣き声が僅かに聞こえてすぐ切断された。 …嫌な予感しかしない… そんな中、また無線が鳴り響いた。 相手はレジェンドではなく、ふぇんからのものだった。 |