昔むかしある海辺の岩屋の前に蛸とりの親子がおった。
親父さんは貧しかったが蛸とりの名人で村の人たちの面倒をよく見ていた。
そのため「蛸八長者」と呼ばれていた。
息子のほうは親孝行で親父さんの念願だった金比羅参りの旅支度をして送り出した。
旅の途中親父さんは「鴻池の旦那」という人と道連れになった。
こうして舟に乗って旅に出ると世の中は広うございますな。
さようですな。
わしの屋敷は町なかにあるから100坪くらいしかない。
お宅は何坪ほどですか?壺ですか?壺なら1,000ほどもありますなぁ。
せ1,000坪!?そりゃ大したもんだ。
わしの屋敷では屋根を瓦で葺いておりますがお宅ではどうされてますかのう?はぁ胡麻の柱に茅の屋根。
寝ながら月や星を眺めてますわい。
5万の柱とは恐れ入りましたな。
寝ながら月や星とは風流よのう。
しかし悩みもありますわなぁ。
ほう…そりゃまたどんな?息子が跡を継ぐと言うておりますが釣り合う嫁がなかなかいなくて困っております。
1,000坪の家ならば釣り合う嫁もそうそうおりますまい。
ん?わしの娘でどうじゃ?え?3人娘がおるが末の娘でどうじゃ?それはありがたい。
よしそういたしましょう。
ところでお名前は?村の者は私のことを蛸八長者と呼んどります。
蛸八長者?うんうん。
話はトントンと進んで末娘の嫁入り祝言の日取りも決まった。
蛸八長者のところに嫁こが来るそうじゃ。
貧しい家じゃがのう。
ほんに。
それにつけてもめでたいことじゃ。
皆で祝ってやろう。
村人たちは蛸八の絵を描いた幟を揚げて皆で祝った。
そこへ鴻池の旦那が末娘を連れてやってきた。
その豪勢なこと。
千石船を仕立てて箪笥が7棹千両箱を何十杯と積み大勢の下働きを引き連れて蛸八長者の住む浜に現れた。
おぉ〜長者殿の旗があちこちに。
この村もこの浜もみんな蛸八長者殿のものか。
こりゃ大したものじゃ。
ようおいでくださった。
さぁ我が家にお連れいたします。
こりゃたまげたのう。
豪勢なもんじゃのう。
村人たちが見守るなか旦那と末娘それに下働きの者たちがぞろぞろと蛸八長者の家に向かった。
ここでございますだ。
あのここでございますかのう?はあさようで。
せ…1,000坪の敷地と言うとりましたが…。
はい蛸の壺が1,000ほどありますがのう。
蛸の壺!?それじゃ5万の柱とは?はあ胡麻の木を柱に茅で屋根を葺いております。
5万じゃなくて胡麻!穴だらけだもんで寝ながら月や星もよう見えますがな。
なんぞいかんことを言うたかのう?いやいやこりゃわしの勘違い。
勘違いじゃ。
とんでもない勘違いでござった。
だが約束は約束じゃのう。
すまねえが引き取ってくだせぇ!俺には釣り合わねえ嫁こだ!こんな家では箪笥なんぞ置けねえ!こんな暮らしでは嫁ももらえねえ!引き取ってくだせえ!わかりましたほんなら箪笥も何もかも持って帰ります。
うん!だけどこれは私についているご縁というもの。
私を嫁にもらってくださいまし。
え!?はあ?えっ!?ほう!これはこれは…。
よかったよ…。
うんうん!よきかなよきかな。
こうして末の娘の嫁入りが決まりこの村でつつましく暮らしておった。
ある日嫁こが岩屋でワカメを採っていたときキラキラと光るものを見つけた。
あっ!嫁子はすぐに砂金だと気づいた。
親父殿岩屋の奥でキラキラ光るものが。
ああ砕いて酒に入れて親父殿にふるまうと喜んでくれるのじゃ。
きれいじゃからのう。
ん?どうされたかの?《なんと欲のない方々じゃ》嫁子は村人の手を借りて岩屋あたりの砂金採りを始めた。
その砂金を元手に新しい舟を作り商いを始めて村はたいそう栄えた。
そしていつしか蛸八さまの長者村と呼ばれるようになった。
親父さんはというと砂金のことに目もくれず相変わらず蛸を追いかけた。
今では壺が1,500ほどになったそうな。
昔むかし山の麓に栄華をきわめた長者がいた。
屋敷にはいくつもの蔵があり周りには千軒の家を従え自慢していた。
欲しい!欲しい欲しい欲しい!あの山が欲しい!と言えば…。
山を崩して庭に運ばせ作り直させる。
じゃまじゃじゃまじゃ!この川がじゃまじゃ!と言えば…。
川筋を変えてしまう。
天も地も己の前には従うとでもいうようになにもかも思いどおりにしてしまうのだった。
この山では春になるとわらび狩りが行われるのが例年の行事だった。
その日は長者の振る舞いもあるので千軒家の者たちも楽しみにしていた。
ところがある年の春のこと長者の屋敷に客人がやってきた。
山を覆いつくすわらびを見て客人が言った。
それにしてもすごいですな。
いくら長者殿でも取り尽くせぬほどのわらび…。
今何と言いました?え?今何と言いました?ちょ…長者殿でも取り尽くせぬほどのわらびと…。
では取り尽くしてみせましょう!え?日暮れまでに取り尽くしたならばそのときにはあなたのいちばん大切なものをいただきたい。
は?大切なもの?いいですね?いや…はい。
千軒家の者たちに伝えよ!一日で山のわらびを取り尽くすのだ。
一本残らず我が蔵に収めよ!こうしてその日山は朝から数千の人で溢れた。
年寄りから幼子までが駆り出され総出でわらびを摘もうというのだ。
えいほうえいほう取り尽くせ!えいほうえいほう取り尽くせ!えいほうえいほう取り尽くせ!長者は見晴らしのきく山の頂に立ち扇をかざして人々を鼓舞した。
人々は懸命にわらびを摘んだがそれでも取り尽くせぬほどあった。
えいほうえいほう取り尽くせ!えいほうえいほう取り尽くせ!え?ええ?山の片側だけをようやく摘んだ頃にはもう日が西に傾いていた。
日が西に傾いてきましたな。
わしの威光にかけて沈む日を戻してみせましょう。
えいほうえいほう夕日よ返せ!えいほうえいほう夕日よ返せ!夕日返せ!夕日返せ!長者は西の空に向かって扇を打ちあおいだ。
えいほうえいほう夕日よ!夕日よ返せ!その声は妖しく山々にこだました。
夕日よ返せ!夕日よ返せ!するとどうだ…。
沈みかけた日が空高くに戻り始めたではないか。
ナハハッ!我が威光に日も舞い戻ったぞ。
ぐずぐずするな!はようわらびを取り尽くせ!人々は恐ろしくなって懸命にわらびを摘んだ。
しょいカゴいっぱいにわらびを摘んだ人たちの列が長者の屋敷まで続いた。
どの蔵もわらびでいっぱいになる頃再び日が西に沈もうとしていた。
えいほうえいほう夕日よ返せ!えいほうえいほう夕日よ返せ!えいほうえいほう夕日よ返せ!長者はますます扇を打ちあおいだ。
えいほうえいほう夕日返せ!ふいに空が真っ赤に染まった。
人々は山の頂を仰ぎ見て息をのんだ。
赤とんぼじゃ春だというのに。
あれ赤とんぼが。
いやあれはわらびじゃ。
そうそれはわらびだった。
長者の蔵に運んだわらびが残らず舞い上がり夕日に赤く染まりながら山を目指して飛んでいくのだった。
えいほうえいほう夕日よ返せ!えいほうえいほう夕日よ返せ!山の頂では長者の姿がまるで影絵のようになった。
長者が扇を打ちあおぎ夕日を差し招くたびに長者の蔵が1つずつ消えていった。
えいほうえいほう夕日よ返せ!えいほうえいほう夕日よ返せ!夕日よ返せ!えいほうえいほう…。
日が沈むと長者の姿と屋敷も消えてしまった。
山がわらびの若葉で染まる春の日。
山が夕焼けに染まる頃山の頂から妖しい叫び声が聞こえてくる。
えいほうえいほう夕日よ返せ!えいほうえいほう夕日よ夕日よ!昔信州のある村に湊屋といって米や味噌雑貨などを商いにする裕福な商家があった。
何代も続いたがやがて店は傾いていった。
湊屋夫婦はなんとか身上を元どおりにしたいと日夜頭を痛めていたが気ばかり焦って家運は傾ぐばかりだった。
あるときこれではいかんと夫婦は欲深い考えを起こし二通りの枡をこしらえた。
普通の枡より量のすこし少ないのと多いのと二通り作り小さいのを売り枡大きいのを買い枡とした。
はじめのうち客はそんなことは知らないで騙されていたがそのうち噂になって…。
どうもこの頃湊屋は枡目がこすい。
ケチしていけねえ。
と言い出せば…。
オラもだ勘定より余計に品物を取られるようだ。
こりゃ取引を控えんと危ねえな。
こういう具合で噂が広がり湊屋には売り手も買い手も寄りつかなくなってしまった。
さすがに湊屋もとことん困った。
ところでこの湊屋には年頃の息子がおった。
嫁をもらわねばならんのだがそんな具合で嫁の来てもない。
方々探したり頼んだりしているうちに嫁に行ってもいいという娘が現れた。
湊屋夫婦はなんでわしらのような傾いた商家に…。
といぶかしがったがこの娘どうあっても嫁入りしたいと言うので早速縁談はまとまった。
湊屋の精一杯の祝言が済むと嫁は翌日から店に出て働き出した。
朝はまだ暗いうちから夜は遅くなるまで毎日くりくりとよく働いた。
それを見た姑の婆さまは嫁にあの売り枡買い枡の秘密を知られてしまうのはまずいと思った。
まあまあそんなに気張って働かんでもええ。
店は私たちに任せて。
と店に出さんようにして相変わらず老夫婦が切り盛りした。
ところが嫁はかねがねこれだけの店が傾くのは惜しいと思っていた。
店を立て直そうと嫁いだだけに出鼻をくじかれては嫁の沽券にかかわると思った。
それでもニコニコと愛想よくした。
女将さんばかり忙しい思いをさせていて恥ずかしい。
おらにも働かせてくりょ。
と下出に出てみたが…。
うんにゃ嫁に働かすほどこの湊屋は落ちぶれてはおらんよ。
息子まで…。
お前が何もそんなに気張らんでもええ。
というのだ。
《これじゃおら何のためにこの家に嫁に来たのか》そうして1年ばかり経ったある日嫁は湊屋の秘密を知った。
ははんそれでおらを店に出さないようにしたのだな。
そこで考えた。
おら里に帰りとうなったから暇をおくんねぇ。
というとわけも言わんとさっさと里帰りの支度を始めた。
さあ湊屋夫婦も息子も世間体が悪いと困ってしまった。
このままでは店の面目もないと仲人を間に立てたり息子が嫁をなだめたりしたが…。
いったい何が気に入らんのだ。
なんでもお前の思うようにさせてやるから。
言うてみてくりょ!なっなっ?いいや何にも気に入らんことはねえどもただ1つおらばかり遊んでいるのがまったくもったいねえ。
それだけじゃ。
これからはお父さんお母さんは遊んでおらを番頭に使ってくれれば里など帰りゃしねえ。
そそうか。
そんなことだったのか。
理由はわかったがさて今後どうしようかと頭を抱えてしまった。
言うとおりにしてやってくれ。
俺も精一杯働くよ。
わかったお前の言うとおりにしよう。
約束したので嫁は家に残ることにした。
しかし…。
嫁にこの店を譲るとなればあの売り枡買い枡を始末せにゃならん。
その夜湊屋夫婦はこっそり2つの売り枡と買い枡を火にくべようとしていた。
ちょっと待ってください!たとえ枡1つでもお金をかけてこさえたもの。
くべてしまうのはもったいない。
店と一緒にぜひその枡を私に譲ってくりょ!夫婦は今更枡の秘密を話すことはできない。
ええいとあきらめて2つの枡を嫁に渡した。
すると嫁は親とは反対に小さな枡で品物を仕入れ大きな枡で品物を売った。
やれやれこんな嫁ならいっそあのとき里へ帰してしまえばよかった。
湊屋も終わりだ。
いらっしゃいませ!いらっしゃ〜い!ところが夫婦の心配もなんのその嫁ばかりか息子まで店先で愛想よく立ち働いている。
そのうち賑やかな嫁の声に誘われて1人2人と客が寄ってきた。
家に帰って試しに品物を枡目で量ると今までとは違って十二分に量が多い。
一方卸しのほうでも勘定してみると納めた品物より余計金を払ってくれるようだ。
なるほど湊屋も嫁の代になったら大層な変わりようだ。
愛想はいいしよいい嫁をもらったものだ。
とまあ誰も彼もが湊屋へ行けと買いにいく。
こうなると卸しのほうでもぜひ湊屋と取引したいと言い出し競ってやってきてはよい品を安く卸した。
みるみる店は大繁盛になった。
湊屋は嫁の才覚のおかげでじきに元どおりになり満々と暮らしたそうだ。
2014/05/11(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「蛸八長者(たこはちちょうじゃ)」
「長者とわらび」
「嫁の才覚」
の3本です。みんな見てね!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】湯浅康生
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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