地方発 ドキュメンタリー選「園長がハンターになった〜格闘する旭山動物園〜」 2014.05.13

(遠ぼえ)氷点下20℃にもなる寒さの中。
年間160万の人でにぎわう…ここにはパンダなどスーパースターがいるわけではありません。
人気の秘密は動物たちの生き生きとした行動を見せる工夫です。
愛嬌たっぷりに舞うアザラシ。
豪快に飛び込んでくるホッキョクグマ。
ペンギンはまるで空を飛んでいるよう。
「行動展示」と呼ばれるこの手法。
今では世界中の動物園の手本にされています。
その生みの親「動物園の革命児」と呼ばれる坂東元さん。
発想の原点は動物たちを思う使命感です。
坂東さんは今新たな格闘を始めています。
舞台は動物園の外の世界です。
北海道では今エゾシカが爆発的に増えています。
原因は天敵のオオカミの絶滅や地球温暖化。
森林の破壊が進み農作物への被害は年間60億円に上ります。
決断したのが自ら銃を手にハンターになる事。
それは社会の意識を変える闘いです。
やっぱり…
(銃声)人と動物が共存していくため。
一途に格闘した2年間の記録です。
ここは北海道旭川市の郊外にある旭山動物園です。
昭和42年に設立された日本最北の動物園。
世界各地に住む119種類の動物を飼育しています
私が取材を始めたのは2年前の夏。
園長がハンターになると聞いたからです
狩猟免許を取るための勉強をしていました
動物園は命の尊さを伝える場のはずです
そのトップが銃を持つなんてどこまで本気なんでしょうか
坂東さんに会ってまず感じたのは本当に動物が好きなんだという事でした
マウスで描くのって難しそうですよね。
これは動物園の公式ブログに載せるイラストです
園長として日々感じた事を記す「ゲンちゃん日記」。
10年以上続けています
毎回添えるイラストは傑作ぞろいと本人は言いますが…
これは?
坂東さんが旭山動物園に入ったのは29年前。
大学卒業後獣医として就職しました
園内全ての動物の飼育を経験。
15年ほど前その後大ブームとなった行動展示を生み出しました
そのアイデアはいつも自分自身が動物の目線に立つ事から思いついたといいます。
もし自分がホッキョクグマだったら水面に出た客の顔が獲物のアザラシに見えて…
思わず飛び込むだろう
好奇心旺盛なアザラシだったら人間を間近に見物できる場所があれば遊びに来るだろう

坂東さんが行動展示を突き詰めてきたのはそれが人と動物の共存につながると考えているからです
この日坂東さんが訪ねたのは旭川市内の猟銃の販売店
やはり本気でハンターになるようです
渡されたのは本物と同じ形同じ重さの模擬銃です
基本的にね狙い方は…いいですか。
上からぐっと顔を入れる。
そしてこれとこれを合致させる。
あっいった!
動物たちと共存したい。
その彼になぜ銃が必要なのでしょうか?
北海道には今人と動物の共存をめぐって大きな問題が起きています
野生のエゾシカが増えすぎて人の暮らしを脅かしているのです

こちらは園内に設置した看板です
人を恐れなくなったシカが墓地の花を食い荒らす
白昼堂々市街地に現れ自動ドアを開けてしまう
玄関先で赤ちゃんを産む。
異常な事態が起きています
事態の深刻化に自衛隊もシカの駆除に乗り出しています。
ハンターに頼るこれまでの方法では追いつかなくなっているのです
一度に100頭単位で駆除します
どうやって共存してゆくのか。
社会全体が向き合わなければならない難題です
3年前の秋旭山動物園でも事件がありました。
旭川市内の高校のグラウンドにシカが出没。
駆除に協力してほしいと依頼がありました
坂東さんたちは現場に急行。
大きな角を持つシカは人に危害を及ぼすおそれがあります。
ふだん動物の手術などに使っている吹き矢で麻酔をかけます
その後安楽死させました
ところがこれがニュースで放送されると全国から抗議が殺到しました
その数は100を超えました
やっぱり…
動物園で働く者として何をすべきか
ああコジュケイか。
コジュケイです。
とれる。
心に決めたのが自らハンターになる事でした
動物園長が命をあやめる事の驚きをきっかけに共存の意味を考えてほしい。
「シカを殺すな」という批判に立ち向かう決断です
10月から北海道ではシカ狩りのシーズンが始まります。
3月までの狩猟期間におよそ7,000人のハンターが山に入ります。
シーズンが終わりに近づいた頃坂東さんはハンターになるための手続きを全て終えました。
この日訪ねたのは射撃場。
初めて持った自分の銃で試し撃ちをする事にしました。
はい。
的までは100m。
実際に山でシカを狙う時の平均的な距離です。
引き金に手をかけ照準を合わせます。
(銃声)どうでした?たじろいだのは反動の大きさでした。
(銃声)はぁ〜…。
終わりましたか?はい。
25発撃って17発が命中。
初心者としてはかなりの好成績をあげました。
翌日初めての狩りに出る坂東さん。
私も同行して取材しました
旭川から車で2時間。
向かったのはシカがたくさんいると聞いた森です
雪の上に残る足跡やフンを頼りに探します
あキツネだキツネ。
キツネがおる。
ほれほれ。
ポイントを変えようと車に戻った時の事でした
真っ先に飛び出したのは一緒に来ていたハンター。
坂東さんと同じ初心者です
(銃声)ああいたいた。
弾はシカの尻にかすっただけ。
手負いのままで逃がしてしまいました
3週間後再び出かけた狩り
坂東さんが何か見つけました
林の奥にシカ2頭
距離は100m。
射撃場での試し撃ちと同じです
ところが引き金には手をかけません
銃を下ろしてしまいました
何度シカを見つけても引き金に手をかけない坂東さん
何か別の理由があるのではないか。
私は腑に落ちない思いが消えませんでした
でもなかなかその「撃っちまえ」で…。
ありがとうございました。
当初坂東さんは自らハンターになる事で人々が驚き共存を考えるきっかけになればよいと話していました。
なぜ今になってカメラを避けるのでしょうか
一緒に狩りをした2人のハンターに聞いてみました
命の尊さを伝える動物園の園長にとって銃を手にする事はどれほど重いのか。
結局1年目のシーズン引き金を引く姿を見る事はありませんでした
翌年の秋。
旭山動物園の行動展示のうち最後に計画されていた施設が完成しました。
カバの巨大プールです。
一般に動物園のカバは動きが乏しいためさほど人気のある動物ではありません。
旭山が挑戦したのはこの常識を覆す事でした。
これまでのカバのプールはどこの動物園でも水深1mほど。
カバは泳げないとされているため足が届く深さにしていたのです。
しかし坂東さんは賭けに出ました。
決めた水深は3m。
生き生きとした姿を見せたいと考えたのです。
そこはずっとね…初めてカバをプールに入れる日。
気がかりだったのはこのカバは動物園で育ったため自然の川を知らない事です。
足元を確認しないまま深みに近づきます。
やばいやばいやばい!おお〜!まじか!すごい!これはすごい!足を踏み外して転落したカバ。
一瞬慌てたものの華麗なジャンプを見せました。
おお〜!まじか!すごい!これはすごい!落ち着いてきた。
すごくまぬけだな。
あらららら…これいい。
カバそのものというより…だからそういうふうにつながってってくれたらなと思いますよね。
世界の動物園をリードしてきた旭山動物園の行動展示。
また一つ大きな成果をあげました。

一方ハンターとしての坂東さんは2年目のシーズンを迎えてもなかなか狩りには行きませんでした。
「時間ができたらまた」と言うばかりです
シーズンも最後の月となる3月。
私は驚きの事実を知る事になりました
それは地元の小学生たちが旭山動物園の活動を学ぶ授業の場での事でした
(児童)命を大切にする。
感謝をする。
いろんな事を考える。
動物と人間がお互いを大切にするという…。
授業で狩りの事を知った女の子から質問がありました
最終的には…とれたっていうか…。
実は昨シーズンの終わり私たちのカメラが無い場所でシカを1頭撃っていたのです
子供たちに問われ坂東さんは初めてその時の事を話し始めました
(児童たち)ありがとうございました。
はいじゃあ荷物片づけて下さい。
自らの手でシカを撃った瞬間に感じた率直な思い。
それが子供たちが人と動物の共存を考えるきっかけになりました
2週間後。
旭川市近郊でシカの一斉駆除が行われました。
そこに坂東さんの姿がありました。
では。
今シーズン初めての狩り。
私たちは取材を許されました。
一斉駆除では60人のハンターがシカを群れごと挟み撃ちにしました。
(銃声)
(銃声)3時間で29頭。
(坂東)お〜。
坂東さん自身は引き金を引く事はありませんでした。
ハンターになって2年。
動物園長としてできる事。
坂東さんは初めて自らの狩りの事をブログで公開する事にしました。
「エゾシカは間違いなく北海道を象徴するすばらしい動物です。
そのエゾシカが害獣として扱われるようになり自然のバランスを崩壊させてしまうかもしれない存在になってしまいました」。
「ひと事ではいけないとの思いから狩猟を始める決意をしました。
共存の未来のための駆除でありたい。
そのためには現場に身を置く事からなのだろうと…」。
「しかし彼らの暮らす場所に足を踏み入れ命を奪うという事はやはりためらいと使命感とが入り交じりました」。
「スコープに映るエゾシカは恐怖ではなく緊迫感のない穏やかな表情をしていました。
シカをとらなければ生きていけないわけでもない自分が今更なぜと問い直していました。
まだまだ初心者です」。
この時ブログに添えたイラスト。
スコープを通して目にした穏やかなシカの姿でした
この2年間の取材の間坂東さんが度々語った言葉があります
Dialogue:2014/05/13(火) 00:40〜01:25
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー選「園長がハンターになった〜格闘する旭山動物園〜」[字]

動物本来の生態を見せる行動展示で、日本屈指の人気を誇る旭山動物園。その園長が、自らハンターとなりシカを撃つ決意をした。いったいなぜ?人と動物の共生とは?

詳細情報
番組内容
空を飛ぶようなペンギン。自由自在に水中を泳ぐカバ。「行動展示」によって動物園の新たな可能性を示し続ける旭山動物園。園長の坂東元さんは、今、さらなる改革に取り組む。自らハンターの資格を取得、爆発的に増え続け農業被害をもたらすエゾシカを、撃つ決意をしたのだ。命を奪う「狩り」という行為を通し、動物園での新たな展示のヒントをつかむためだ。「人と動物の共生はどうあるべきか」を問い続ける坂東園長の日々に密着。
出演者
【語り】村上里和

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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