趣味Do楽 籔内佐斗司流 ほとけの履歴書〜仏像のなぞを解きほぐす〜第6回 2014.05.13

あなたはカリカリ派?トロトロ派?
(テーマ音楽)古代インドで生まれた仏教。
そのうねりはガンダーラを超えシルクロード中国を経てアジア全体に仏像世界を花開かせました。
日本にたどりついたほとけたちはどのようにして生まれ育まれ心と形を築き上げてきたのでしょうか?仏像のなぞを解きほぐす「ほとけの履歴書」。
開講です。
顔がいくつもある仏像。
たくさんの手をもつほとけ。
こうした仏像を「多面多臂」と呼びます。
いくつものほとけたちが合体したり分身を作ったりして多面多臂の仏像に変わる事を…そこには秘密の教え「密教」が関係しています。
今回の「ほとけの履歴書」は変化する代表的なほとけ観音菩薩からひもといていきます。
観音菩薩っていうのはね日本人にも…東アジア全体そうなんですけどものすごく人気のあるほとけさまなんです。
そして不思議な力を持っている。
(篠原)不思議な力?あのね一番の大きいのは…これを見て頂きましょう。
こういうお姿をしているのね。
わ〜!もうお姿からして…お召し物もすごくきらびやかですてきですよね。
観音様はあくまで男性です。
へえ〜!いろんな弱い人や困った人たちに哀れみの気持ちを持って「何とかしてあげたいな」と思っていらした時の…変化する前の基本的な観音菩薩を「聖観音」といいます。
その働きは世の人々の声を漏らさず聞き取りあらゆる手段を使って救いの手を差し伸べる事。
現世利益をもたらすほとけとしてあつい信仰を集めています。
実はこの観音様っていうのはTPOに応じて「六観音」「三十三身」に自在に…「変化」と読みます。
形を変えていく。
そして救いを求めてる人の前に現れるというふうに説かれています。
うわ〜。
じゃあもともとの変化する前のお姿がこちらの観音菩薩。
そうですね。
へえ〜。
観音様がさまざまに変化をする。
変化観音。
「変化観音」っていうと何か思い出しません?もしかして十一面観音様も変化観音になるんですね。
この頭からニョキニョキッと。
日本で最もポピュラーな変化観音が十一面観音です。
美しいでしょう。
かっこいいでしょう。
きれいですね〜。
漆を盛り上げた乾漆造りのこのお像。
流麗な美しさで絶大な人気を誇っています。
すごくこの十一面観音さんの持っているエネルギーみたいなものがフワーッと。
芸術っていうものと信仰に向かわせる力というものが実に見事に一致したお像の一つだと思いますね。
「十一面」はあらゆる方向に顔を向けて衆生を救う形です。
奈良時代の貴族たちは十一面観音の不思議な姿にこの世での救済を求めたのです。
さて「ほとけの履歴書」「十一面観音」です。
わ〜!先生のイラストもすごいかわいらしい。
これはお洋服も更にきらびやかになっている…?きらびやかになっているのではなくて聖観音が変化をしているわけですから聖観音そのもののお姿をしておられる。
その頭の上にたくさんの知恵がこう…。
これはもう古代インドの考え方ですけど善き霊というのは頭のてっぺんから出るっていうそういう考え方があるんですよ。
我々の体の中にもいる…命っていうものでそれを修行する事でどんどん上の方へ持っていって頭の上からバッと出るのが本来の…一番修行ができた状態なんですね。
それがこの仏教的な解釈として十一面観音が頭のいろんな所から出ている。
へえ〜!大乗仏教っていうのになる前…「原始仏教」っていいますけどお釈様の時代にお釈様が説かれたいろんな教えなんかを忠実に守っていた時代の仏教にはこの菩薩…あるいは変化の思想というのはなかったんです。
観音菩薩が変化するようになった背景にはヒンドゥー教の影響があります。
ヒンドゥー教は古代インドの土着の神々を吸収しながら発展した宗教です。
神秘主義を強く打ち出して新しい神々の物語を生み出しました。
そのヒンドゥー教っていうのが面白くていろんな神様がくっついたり離れたり分裂したりして非常に面白い超現実的な物語を生み出していくんです。
ヒンドゥー教の神々が合体して多面多臂に変化するのはいくつもの神の力が合わさってパワーアップする表現です。
多面多臂の仏像は強い呪力を持ったほとけなのです。
この寺には究極の多面多臂のほとけが安置されています。
合掌する2本の手。
そして両脇に張り詰められた小さな脇手を合わせ1,043本もの手をもっています。
全ての手には目がついていて苦悩する人を見るとすぐに救いの手を差し伸べるとされます。
手に持つ持物はさまざまな功徳を象徴しています。
1,000にも及ぶ功徳を表現する異形のほとけ。
飛鳥時代に造られた穏やかな仏像とは明らかに趣を異にした多面多臂の変化観音です。
先生はこの多面多臂のほとけさまたちはどうしてこんなにも人気だったって思いますか?実は日本で6世紀の中頃に仏教が入ってきたばかりの頃は観音様…聖観音は入ってきてるんだけど多面多臂のほとけさまというのはほとんど入ってきてない。
天平時代になって日本の支配層っていうかな天皇様や公家の人たち豪族の人たちっていうのはさまざまな社会不安を抱えていたわけだ。
何とかこの不安を取り除いてほしいと思って当時日本から見て最先端の宗教哲学を持っていた唐からその唐ではやっている一番の宗教をたくさん持ち込んできたわけですね。
それが遣唐使の仕事だったわけですよ。
中国の唐に派遣された遣唐使。
7世紀ごろの唐ではインドから秘密の教え密教が新しい仏教として伝わり始めていました。
天平時代の僧玄は遣唐使として唐に渡り密教的な色彩を帯びた経典や仏像を数多く持ち帰りました。
インドではヒンドゥー教が呪術性の強い教えで民衆の人気を集めていました。
5世紀ごろ仏教もヒンドゥー教の神秘主義を積極的に取り入れ密教を整備していきます。
変化観音はこうした密教によって生み出された呪力の強いほとけなのです。
そういう仏像が基になって日本の変化観音多面多臂の仏像が造られたと思うんですね。
だけど当時玄さんが持ってきた密教というのは実はほとけさまごとの密教であったわけ。
だからまあ部分的な密教を持ってきた。
これを歴史の方では「古密教」とかねそれから「いろんな密教」という意味で「雑密」っていうふうにも言われた時代があります。
病気に合わせて処方箋が出るみたいな…。
そのとおり。
天平時代は天災や飢饉疫病そして権力闘争による反乱が多発し大きな社会不安を抱えていました。
そうした中王侯貴族はすがるような気持ちで密教の仏像を造り出していったのです。
その東の丘に立つ法華堂。
鹿かわいいね。
かわいいねアハハ…。
東大寺で最も古いお堂です。
ここに大きな変化観音が祭られています。
天平時代の最高傑作の一つ…蓮華座に堂々と立つお像。
高さ3m62cm。
圧倒的な存在感です。
合掌する手の他に6本の手。
眉間には縦にもう一つの目。
三眼八臂です。
落ち着くというよりは本当に自分に今までにない力を下さるような…。
非常に強い人を前にして強い人に抱かれるようなそういう安心感がありますね。
先生お像が手に持っているものは何になるんですか?あれは「羂索」といいます。
ひもだと…投げ縄のようなものだとも言うし網だとも言う人がいますけど。
「羂索」とは衆生をあまねく救う象徴である縄の事。
「不空」つまり「決して空しい思いをさせず一人も漏らさず衆生を救いとる」という強い意志を感じさせるほとけです。
何かこういわゆるひもというよりは自分の意志次第でいかようにも動くような衣にも見えますよね。
やっぱ仏像を天平時代の人たちが造る時一番感じたのはエキゾチシズムだと思うんですよね。
今の自分たちの世界とは全く違う別の世界から現れた…それも遠い遠い所から現れたスーパーマン。
そのスーパーマンに何かお願いしたいというふうなそういう気持ちがこういうお像を造ったんでしょうね。
天災や疫病がまん延した天平時代。
不空羂索観音は国家の危機を救ってくれるほとけとして超人的な呪術パワーを期待されたのです。
それは時代の要請でした。
法華堂の不空羂索観音様は本当に力強い。
奈良時代の多面多臂のほとけさまっていうのはみんなものすごいパワーがあります。
それともう一つはね非常に造形的に完成度が高い。
へえ〜!それは細部を見てそう思うんですか?そうですね。
それは結局東大寺を造った人たちが…そういう人たち…仏師たちが造ったから国の力で造ったものだからだと思うんですね。
都が奈良から京へうつり新しい時代の仏教が求められるようになります。
平安の都に唐から新しい仏教をもたらしたのが空海です。
空海は体系的に整えられた最新の真言密教を持ち帰りました。
その教えは中心に宇宙の根源である大日如来。
両脇に大日如来の化身である菩薩と明王を配置します。
更に多面多臂のほとけを従える緻密に構成されたほとけの世界です。
中でもひときわ異彩を放つのが明王。
密教で初めて登場した力強いほとけです。
明王グループのリーダーは不動明王。
憤怒の形相で人々を叱咤し正しい道に導きます。
不動明王様!そうそうそう…。
いわゆる「お不動さん」と呼ばれる明王のスーパースターです。
お不動さん自身は普通の人の姿です。
ですけどこのあとまた4つに分かれる。
お不動さんを入れて「五大明王」というものがつくられるんです。
そのリーダーなわけです。
へえ〜。
じゃあ観音菩薩が変化していくそのもともと母体のような感覚にちょっと似てるんですね。
ものすごく有名な五大明王があります。
それは京都の大覚寺。
とってもいいお寺ですよ。
そこへ拝観にあがりましょう。
「嵯峨御所」と呼ばれる真言宗の古刹です。
寺の霊宝館には不動明王をリーダーとする五大明王が安置されています。
お不動さんからご挨拶しましょう。
平安時代の仏師明円が手がけた不動明王。
右手には魔物を調伏する「降魔の剣」。
左手にはほとけの世界に引き上げる羂索。
ガッチリしてらしてかっこいいですね。
不動明王の左右には変化し多面多臂となった個性ある明王が控えます。
水牛に乗り一切の悪を降伏させる明王です。
六面六臂六足の異形です。
軍荼利明王は体に蛇を巻きつけ目に見えない外敵や煩悩を取り除く明王。
一面三眼八臂の像です。
さまざまな欲望や悪を金剛杵で打ち砕く金剛夜叉明王。
5つの目が不気味です。
明王にはヒンドゥー教の神々の多面多臂の姿が引き継がれ見る者に超越的な力を誇示しています。
ヒンドゥー教の神々っていうのは簡単にくっついたり離れたりっていうふうに細胞分裂をしたりまた合体したりっていう事が平気でできる神様…。
だからそういう普通の我々の世界ではありえない事が密教の世界では起こってるっていう事をこの五大明王はよく表してると思いますよ。
「過去現在未来」三世の煩悩を取り除く降三世明王。
髪を逆立てた憤怒の相。
足元にはヒンドゥー教の最高神シヴァ神を踏みつけています。
あそこにいる人たちは実はシヴァとシヴァの奥さんなんですよ。
ええ〜!?どうして神様なのに踏みつけちゃってるんですか?結局「密教」という仏教の一派ですよね。
それが「ヒンドゥー教の上にあるんだぞ」っていう事を表現したいんだろうと思うんです。
なるほど。
降三世明王がシヴァ神たちを踏みつけている姿はヒンドゥー教よりも真言密教が優位であるとする仏教側の主張とも見えます。
平安時代の人々は天災や飢饉を祟りや怨霊によるものと恐れました。
そして怨霊を鎮め祟りをはらう強い力を求めて多面多臂のほとけたちを祭っていったのです。
変化して多面多臂になっていくっていうのはその時代背景を追っていくと本当に必要な力だったんだなという事が分かってきました。
何かにすがりたいっていういっぱい不安を抱えた…当時は天皇様やお公家さんたちだったろうと思うんですけどそういう人たちが求めたすがったほとけさまを日本人はたくさん造ってきたわけですね。
ここを見ただけでももともとはバラモン教ヒンドゥー教の神々であったものが仏教に取り込まれた観音様千手観音様お不動様…まあちょっとしたおどろおどろしいっていうかなそういうふうなほとけさまたちっていうのは実は中国にもたくさん造られていたはずですし朝鮮半島にもたくさん造られていたはずなんだけど廃仏っていう非常に悲しい事件が起きて我々にこういうほとけさまを教えてくれた仏教を教えてくれたご本家の方ではほとんど消えてしまっているんです。
それが日本に6世紀半ばから伝わった1,500年に及ぶ仏教の歴史のほとんど全てが途絶える事なくある国。
これ日本の特徴だし守り伝えて下さったご先祖様に私とても感謝したいと思うの。
そのように仏教がどのように変わっていったかをほとけさまを拝む事で知る事ができるのは本当に貴重な時間でした。
そうですね。
多面多臂のほとけさまを堪能しました。
いろんな表情を見る事ができました。
ありがとうございました。
こちらこそ。
今回の内容はこちらのテキストに詳しく紹介されています。
どうぞご参考になさって下さい。
今後の放送予定も掲載されています。
2014/05/13(火) 11:30〜11:55
NHKEテレ1大阪
趣味Do楽 籔内佐斗司流 ほとけの履歴書〜仏像のなぞを解きほぐす〜第6回[解][字]

仏像の謎を解きほぐす「ほとけの履歴書」第6回は多面多臂の仏像。天平時代は実は疫病・災害・権力闘争と不安の時代。呪力の力にすがろうと密教の仏像が生み出された!

詳細情報
番組内容
仏像の謎を解きほぐす「ほとけの履歴書」第6回は多面多臂(ためんたひ)の仏像。阿修羅や十一面観音のように、いくつもの顔を持ち、手を持つ多面多臂の仏像。実は疫病・災害・権力闘争と不安の時代だった天平の人々が、呪力の力にすがろうと作り上げた密教特有の仏像だった!奈良時代の「古密教」「雑密(ぞうみつ)」や、唐より空海が持ち帰った真言密教が生み出したエネルギーの強い仏、多面多臂の仏像世界を見ていく。
出演者
【出演】篠原ともえ,【講師】彫刻家・東京藝術大学教授…籔内佐斗司,【語り】徳田章

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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