聖母・聖美物語 #31【愛の母子篇〜作戦会議】 2014.05.13

(女性)やっぱり帝王切開ですか?
(弘明)逆子が直らなければやむを得ないですね。
(女性)一緒に戦いたかったんだけどな。
赤ちゃんと。
ヒーヒー言って自力で産み落とさないと実感が湧かない気がしちゃって。
(諏訪)もうすぐ愛美さん38週目に入るんですよね。
何をのんびりしてるのかと思って。
(諏訪)奥さんは最初の出産が帝王切開だったんです。
リスクを考えたら当然二度目も同じやり方でってことになりますよね。
(弘明)あらかじめ予定して帝王切開をする場合たいてい陣痛がくる前の37週か38週あたりで行います。
フッ。
確かに愛美さんの出産を待っていたら遅過ぎて周りが変に思うかも。
フフフ…。
笑い事じゃないですよ。
最初から分かってたんだから予定日をずらして設定しておくとかいくらでも根回しできたでしょう。
自然分娩もいいかなと思って。
(諏訪)自然分娩?形の上だけでも自分の力で産んだことにしてやれないか。
そういうイメージを持てばより母親になった実感を持ちやすいんじゃないか。
奥さんのためにそんなことを?諏訪先生は想像しませんか?あの人が顔をゆがめて必死で赤ちゃんを産み落とそうとするその瞬間の姿を。
そこに本当の聖母の姿が。
(聖美)《ううっ…。
ハァハァ…》まっ。
妄想は妄想にとどめてちゃんとやりますよ。
帝王切開ってことにして。
赤ん坊の育ちが遅いことにすればいくらだって日程は調整できる。
陣痛促進剤を使って愛美さんに早めに産ませたっていい。
陣痛促進剤?
(弘明)うん。
本物の母体である愛美さんをこっちの都合に合わせるってことですか?それって本末転倒なんじゃありませんか?
(諏訪)賛成できません。
順調で何の問題もない妊婦にむやみに薬を使うなんて。
(弘明)そこら辺にいるぺいぺいの産科医がやるわけじゃない。
私がやるんです。
周囲には出産が遅れそうだとにおわせておいて予想に反して急に陣痛がきてしまったことにする。
夜中に連絡があって俺が急きょ一人で対応した。
それなら夜勤の連中も大して怪しまない。
もう迷ってる暇はないんです。
これを最終的なコンセンサスにしましょう。
私は何も迷っていません。
(聖美)愛美。
食事終わった?
(聖美)ちょっと。
風邪ひくわよ。
聞こえる?ママの声が聞こえる?私があなたの本当のママ。
今あなたがいるのは仮のお母さんのおなかなのよ。
間違えないようによく聞いて。
聞いて覚えてちょうだい。
ママの声を。
私があなたの本当のママ。
もう少し。
あとほんのちょっとで会えるから。
ママとパパとお兄ちゃん。
みんなであなたを待ってるから。
(愛美)うーん。
うん。
ハァー。
赤ちゃんのためにこんなものを?あなたの子じゃないのに。
私の子なのに。
何で勝手にこんなものを。
こんなもの。
こんなもの。
こんなもの。
こんなもの。
こんなもの。
こんなもの。
こんなもの…。
峻君。
あっ。
私…。
(峻)僕はそういうのあんまりやらない方がいいって母さんに言ったんだけど。
前もって赤ちゃん用の毛糸をたくさん買い込んでたみたい。
気付かなくてごめんなさい。
(峻)それ僕がうっかりほどいちゃったことにする。
貸して。
(峻)母さん。
母さん起きて。
(愛美)うん…。
(峻)駄目だよ。
こんなとこで寝ちゃ。
早く行って。
(峻)母さん。
(愛美)うーん。
(峻)母さん起きてって。
風邪ひくよ。
母さん。

(ドアの開く音)あなた知ってた?愛美が赤ちゃんのためにせっせと編み物してること。
知ってて許してたんでしょ?
(繁郎)許すも許さないも。
峻君は止めてくれたそうよ。
よく分かってるわよね。
生まれたらすぐに手放さなきゃならない赤ちゃんだってこと。
なのにあなたたちは2人して赤ちゃんが生まれてくる日を待ちわびて。
まるでそっちがホントの夫婦みたいに。
どうするの?愛美をその気にさせちゃって。
あの人私からあなたを奪うつもりよ。
言ったのよ。
あなたをくれなきゃ赤ちゃん渡さないって。
臍帯血も骨髄も何にもあげないって。
(繁郎)本気で言うわけないじゃないかそんなことを。
君にどうしてもって頼まれて並大抵の気持ちじゃできないことを引き受けてくれたんだ。
不安になって突っ掛かりたくなることだってあるだろ。
君だってもっと彼女をいたわってやっていいはずだ。
大事にしてきたつもりよ。
中に赤ちゃんが入ってるんだから。
お母さまなんか愛美はただの入れ物だって。
そのときはびっくりしたけどそのくらいクールでいるべきなんだって教えられた気がしたわ。
かわいそうだと思うならあなたがいたわってあげたらいいのよ。
今までどおり。
それで愛美が気分よく赤ちゃんを産んでくれるならいくらだって2人でカウントダウンを楽しめばいい。
カウントダウン?赤ちゃんが生まれた瞬間にあなたたちの夫婦ごっこはお開きになるってこと。
どんなに愛美が泣きわめこうと追いすがろうとあなたは二度と振り返らない。
愛美のことは奇麗さっぱり振り捨てて赤ちゃんと一緒にこっちへ戻ってきてちょうだい。
約束よパパ。
(波津子)・「関路の鳥も声々に」
(波津子)・「夢も跡なく夜も明けて」・「村雨と聞きしも今朝見れば」・「松風ばかりや残るらん」やっぱりすてきですね。
『松風』は。
お嫁にきて10年。
あなたも少しはお能が分かるようになってきたようね。
『熊野』『松風』に米の飯でしたっけ。
それぐらい人気のある曲だってことくらいは。
『松風』は美しい姉妹の物語ですからね。
赤ちゃんが生まれるに当たってあなたたちにもあやかってもらいたいと思って。
(愛美)あやかるって?松風村雨の姉妹はほとんど一心同体。
共に在原行平という貴公子を愛し愛されて。
(愛美)えっ?何?姉妹で一人の男を争ったの?争ってなんかいません。
2人の心は幽霊になっても懐かしい恋の思い出にゆらゆらと漂いながら常に寄り添い支え合っているんです。
恋敵なのに?
(波津子)だからそうじゃないって。
私はねあなたたちにもそういう麗しい姉妹であってほしいんです。
まあ間に入るのは行平じゃなくて赤ちゃんですけどね。
シテは松風なんですよね?松風がシテ。
村雨はツレですからあくまでも主役は松風です。
焦がれ続けて待ち続けた行平への思いがあふれてしまった松風は心が乱れ形見の衣装をまとって舞を舞い果ては浜辺に立つ松の木が恋しい人に見えて抱き締めてしまうんです。
初めのうちは松風の狂乱をいさめていた村雨もいつかお姉さんの心に一体化していく。
そして明け方になり2人はワキ僧に供養を願ってひっそりと姿を消し後に残るのは松に吹き渡る風の音だけでした。
(愛美)訳分かんない。
何でそんな曲が人気あんのか。
(波津子)はっ?
(愛美)いくら姉妹だからって男1人に女2人だったら普通嫉妬するでしょ。
バトルになんない方がおかしいと思わない?だいたい村雨かわいそうじゃん。
平等に愛されたとか言いながら妹だからって下っ端扱いされて。
それはお能のお約束事ですから。
(愛美)おなかん中ではふざけんなって思ってんじゃないの?何でお姉ちゃんばっかりって。
(波津子)あなたね。
この曲は『松風』は屈指の名曲ですよ。
それを言うに事欠いて。
だからお能ってつまんないんだよね。
リアリティーがないっていうか古くさいっていうか。
それはこの曲は嫉妬が主題じゃないから。
人間味がないんだよ。
あんな気持ち悪いお面なんかかぶっちゃって。
(波津子)お面じゃありません。
「おもて」です。
(愛美)どっちだっていいじゃん。
(波津子)よくありません。
お能は人間の本質を描く芸術です。
あなたの言う人間味にあふれているんです。
恋に破れたり愛にもだえたり憎んだり恨んだり。
時代を超えて共感できるストーリーの宝庫なんです。
恋敵に焼きもちも焼かないのに?
(波津子)焼きますとも。
焼きまくりますとも。
『源氏物語』を題材にした『葵上』は光源氏の正妻葵上の元へ愛人の六条御息所が生き霊となって襲いに来るし。
『三山』はシテの桂子と若いツレの桜子がそれぞれカツラと桜の枝を持ってお互いをぴしぴしと打ち合っちゃうし。
『鉄輪』に至ってはまさに嫉妬の鬼。
安倍晴明が災いを寄せ付けないように祈とうした夫婦の人がた。
その女の方をシテが夫を奪った後妻本人と思い込んで髪の毛をぐいぐいとつかんでぶったたいて打ちのめしますからね。
怖い。
何だかすさまじい世界ですね。
能の幽玄は一筋縄じゃいかないんです。
(愛美)まるで姉さんみたい。
姉さんは松風じゃなくてそっちでしょ。
めらめらとジェラシー燃やして怒り狂うタイプ。
聖美さんが?
(愛美)大変なんですよお母さん。
私がちょっとお兄さんと仲良くしただけで…。
愛美。
だってそうじゃない。
私が丹精込めて編んだ真っ白なベビーケープばらばらにほどいてぐちゃぐちゃにして。
おまけにそれを峻のせいにして。
それは…。
認めなさいよ。
あんたがやったって。
私はねあんたが泣いて頼むから仕方なく繁郎さんの赤ちゃんを産むことにしたのよ。
自分が産めないからっていまさら焼きもち焼かないでよ。
あっ。
あ痛たた…。
愛美?
(愛美)あ痛たた…。
おなかが急に。
ちょっと大丈夫?えっ?お母さま。
(愛美)ううーっ。
ああ…。
ああ。
何か少し治まってきた。
陣痛ね。
陣痛?でもまだ早いんじゃ…。
おしるしは?
(愛美)けさあった。
そうなの?峻のときおしるしから陣痛まで結構時間あったからまだ余裕だろうって。
興奮して大騒ぎするからそれで早めに陣痛がついたんじゃない?ああどうしよう。
あっ。
弘明さんに連絡を。
(波津子)焦らなくてもまだまだ先ですよ生まれるのは。
でも。
(波津子)どっちみち夜にならなきゃ病院へは行けないでしょ。
それはそうですけど。
姉さんには分かんないんだよね。
おなか切って産んでるから陣痛がどんなもんか。
さて。
今のうちにお風呂でも入っとくかな。
(波津子)あんまり動かないでおとなしくしてらっしゃい。
2人目なんだから。
油断してるとぽろっと生まれちゃうかも。
(愛美)ハァー。
夜まで何とか持たせないとな。
おーい。
まだ出てきちゃ駄目だって。
(陽)ママ。
いいのよ陽。
寝てらっしゃい。
(陽)今ね夢を見てたの。
羽の生えた天使が空からふわふわって降りてきて僕の隣に…。
(あくび)フフッ。
あなたが赤ちゃんを呼んでくれたのね。
早く出ておいでって。
あの日から1年とちょっと。
《私の代わりにあなたに産んでもらいたいの》《陽のためのドナーベビーを》とうとうこの日が来た。
(峻)大丈夫?
(愛美)うん。
今はだいぶ落ち着いてる。
間隔どのぐらいになった?
(峻)さっきので15分。
もう病院行っていいころじゃない?
(峻)10分切らないと駄目だって。
弘明叔父さんは5分ぐらいでいいって言ってたよ。
(愛美)そんなんじゃ分娩室に着く前に生まれちゃうよ。
(峻)我慢我慢。
母さんも赤ちゃんもね。
あんたがいてくれてよかった。
母さんうれしい。
こんなに頑張ってんのに誰もそばにいてくれないのはさみしいもん。
一人で痛いの我慢したの?僕を産んだとき。
誰も助けてくれなかった?そんなことないよ。
私はこんなたちだから看護婦さんや助産婦さんがみんなかわいがってくれたしね。
おまけに生まれたばっかのあんたが目鼻立ちくっきりの超イケメンでさ。
みんなのぞきに来て大騒ぎ。
赤ちゃんなんてお猿みたいなもんだと思ってたから私もびっくりしちゃった。
ごめんね。
年ごろのあんたに陣痛の世話なんかさせて。
うれしいって言ったくせに。
(愛美)そうだけど。
そうだ。
(峻)うん?いっそのこと産婦人科のお医者になったらいいんじゃない?修業だと思ってお産も立ち会っちゃうとか。
勘弁してよ。
(愛美)フッ。
峻ってば。
恥ずかしがってる。
フフフ。
あっ。
痛たた…。
あ痛たたた…。
痛い。
ああー。
(峻)さっきより早い。
きっともうすぐだよ。
ああ痛い。
痛い。
ああ痛い!
(愛美)ああ痛い痛い痛い…。
大丈夫?頑張って。
(愛美)ああー。
ああー。
もう無理。
無理。
無理無理。
ちょっちょっ…。
(愛美)歩けない。
もう歩けない。
うっ。
痛い痛い。
痛い痛い…。
静かに。
声出さないで。
(愛美)そんなこと言ったって。
ああー。
ああー。
ううーっ。
さあ。
立って。
よいしょ。
(愛美)ううーっ。
(瑞穂)どうかした?
(看護師)今変な声が聞こえたんです。
うめき声みたいな。
廊下に誰かいませんでしたか?
(瑞穂)さあ?誰も見なかったけど。
(瑞穂)ナースコールが。
いいわ。
私が行く。
ついでに見回りしてくるからあなたはここをお願いね。
(看護師)はい。
(愛美)ああー。
ああー。
ハァ。
あっ。
ああー。
(弘明)願ってもない絶妙なタイミング。
おかげで先生のお嫌いな薬を使わずに済みました。
いったいこの中の誰がお産の神様に愛されたのか。
(愛美)ううっ。
(諏訪)赤ちゃんが母体から出たら胎盤を出す前に臍帯血の採取を行います。
それまでこちらで控えています。
ああっ!
(百合子)破水しました。
(弘明)子宮口全開状態。
赤ちゃんもそこまで下りてきてる。
早速始めましょう。
(愛美)あっ待って。
繁郎さんを呼んできて。
繁郎さんを。
じゃないと私頑張れない。
(弘明)いたって兄貴は役に立ちません。
陽のときだって産まれる前に貧血起こしてぶっ倒れたんだから。
来てくれる。
私が呼んでるって言えば。
あっ。
あっ。
あの人の子だもの。
ちゃんと立ち会って産まれるところを見届けてほしいの。
(弘明)どうします?
(愛美)ああー!
(弘明)息むなよ。
息みを逃がして深呼吸しろ。
繁郎さん。
早く来て。
待ってるから。
(弘明)呼んできて。
(百合子)分かりました。
(愛美)ううーっ。
はい。
えっ?えっ。
ちょっ。
ちょっ…。
僕が出産の立ち会いを?いや。
それ…。
えっ?
(愛美)うっ。
私に力をちょうだい。
ううーっ。
ううーっ。
ああ。
ああ…。
ううーっ。
ああ…。
私にも力をちょうだい。
私も一緒に励まして。
私だって愛美と一緒に出産するんだから。
赤ちゃんのママになるんだから。
(愛美)ああーっ。
繁郎さん。
ああ。
ああ。
繁郎さん。
ああー。
繁郎さん。
繁郎さん。
繁郎さん!ああーっ。
あっ。
うーっ。
(愛美)うーっ。
ううーっ。
2014/05/13(火) 13:30〜14:00
関西テレビ1
聖母・聖美物語 #31[字][デ]【愛の母子篇〜作戦会議】

愛美(三輪ひとみ)は聖美(東風万智子)に対する憎しみを募らせるが、出産まで後僅かの愛美を前に聖美はジッと耐える。やがて愛美が待望の赤ちゃんを出産すると聖美は…。

詳細情報
番組内容
 愛美(三輪ひとみ)の出産が近づき、諏訪(古山憲太郎)は弘明(金子昇)に改めて出産に関する段取りを確認する。周囲に気づかれぬよう、用意周到に事を進める弘明に感心した諏訪は、聖美(東風万智子)の幸せのためになるなら、喜んで自分も全身全霊を傾けると告げる。
 聖美は、愛美が赤ちゃんに着させるケープや靴下を自分に隠れて編んでいるのを知る。
番組内容2
「本物の母親は私」と怒りに震える聖美は、編み掛けの毛糸を、我を忘れてほどいてしまう。
 数日後、波津子(丘みつ子)が舞う能を聖美と愛美が見ていると、ついに愛美の陣痛が始まる。帝王切開で陽(平林智志)を生んだため、陣痛のことがよく分からず慌てる聖美に比べ、愛美は「生まれるのはもう少し先」と余裕の態度を見せる。
出演者
柳沢聖美:東風万智子
森尾愛美:三輪ひとみ
柳沢繁郎:原田龍二
柳沢弘明:金子昇
柳沢波津子:丘みつ子
星川真輔:風間トオル ほか
スタッフ
企画:横田誠(東海テレビ)
原作・脚本:いずみ玲演
演出:藤木靖之
プロデュース:西本淳一(東海テレビ)
中頭千廣(TSP)
神戸將光(TSP)
齋藤頼照(TSP)
音楽:辻陽
主題歌:「炎の花」ハルカ ハミングバード(ユニバーサル ミュージック)
制作著作:TSP
制作:東海テレビ
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ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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