「寝ている間に勝手にダイエット」。
広告につられて買った健康食品の効果には根拠がありませんでした。
誇大に効果を表示するなどたびたび問題が指摘されてきた健康食品。
政府の進める規制改革でその表示が大きく変わろうとしています。
あいまいにしか書けなかった宣伝文句。
企業の責任で体にどう機能するか明確に表示できるようになる見通しです。
消費者が商品を選びやすくすることで市場を拡大させるのがねらいです。
しかし、新たな制度によって問題のある商品がこれまで以上に増えるのではないかという指摘もあります。
政府が参考にしているアメリカ。
企業が、みずからの判断で効果を表示できるため科学的根拠がない商品が続出しているのです。
日本人の6割が利用している健康食品。
その表示はどうあるべきか考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
健康志向が高まる中で多くの人が健康食品を利用しています。
この健康食品を利用する消費者にとって大事なことは安全性、そして健康食品の有効性です。
現在、効果や効能を表示することが認められているのは国が審査し、承認した医薬品。
そして健康食品では商品ごとに国の審査を受け、通ったトクホ・特定保健用食品などに限って機能を表示することができます。
国が審査しない健康食品は効果がはっきりしないものとして原則、法律で体への効果や機能を商品に表示することは禁じられているのです。
機能性表示を厳しく規制してきた国ですけれども今、健康食品は規制改革の重点項目の一つに位置づけられ市場の活性化を目指して表示規制を緩和することが去年の規制改革会議で決まりました。
一定の科学的根拠のある成分については企業の自己責任において機能を表示することを許可しようという改革です。
例えば「エネルギッシュな毎日に」という表現を「心臓の健康を維持」、あるいは「燃焼系を目指す方に」は「中性脂肪の上昇を抑える」など具体的に商品に含まれている成分が、体のどの部分にどんな機能があるのかを明示できるようになる見通しです。
消費者を誤認させる誇大広告が氾濫しないか。
科学的根拠をどのように消費者に知らせていくのか。
安全性を確保する仕組みや運用はどうあるべきか。
市場の拡大とともに問われているのが本当に消費者のためになる規制改革の在り方です。
初めに、規制改革を進める国や健康食品業界のねらいからご覧いただきましょう。
都内で開かれた健康食品の見本市です。
業界関係者が殺到した講演会がありました。
健康食品の機能を表示できるようになれば業界は活性化する。
政府の委員の訴えに期待が高まりました。
規制改革が行われる背景には現在の制度に対する業界の不満があります。
30年前から健康食品事業を手がけてきた大手水産食品メーカーです。
魚の脂に含まれるEPAという成分が入った健康食品を製造しています。
EPAは50年前から、世界中でその機能が研究されてきました。
メーカーでは大量の論文を収集して分析。
心臓の血管の病気を予防したり高血圧を抑制するなどの効果が科学的に確かめられているといいます。
しかしこうした論文をいくら集めても今の制度ではあいまいな表現しか許されません。
新商品を発売するにあたって頭を悩ませているのが機能を表示せずにどう成分の魅力を伝えるかです。
規制改革によって機能が表示できるようになれば売り上げを大きく伸ばせると期待しています。
規制改革を進めるもう一つの目的。
それは、科学的根拠の乏しい健康食品を市場から締め出すことです。
現在販売されている健康食品の中にはヒトへの有効性の科学的根拠が乏しいものが少なくありません。
しかし、そうした商品でも巧みな宣伝文句によって買われている現実があるのです。
長年、健康食品の広告作りに携わってきた男性です。
根拠が不十分でも、広告しだいで売り上げは伸ばせると言います。
例えばダイエット効果を伝えたいとき。
「スリム」ということばは直接的なため法に触れかねません。
しかし、これを賢いという意味もある「スマート」に書き換えれば違法と見なされる可能性を減らしながら宣伝効果は維持できるといいます。
「花粉症」ということばも使えませんが…。
男性は、今の健康食品業界は科学的根拠よりも広告の巧みさを競い合っているのが実態だと言います。
この春から本格化した新しい制度を巡る国の議論。
業界団体の代表は表示のしかたが変われば消費者が科学的根拠の乏しい商品を見分けやすくなり業界の発展につながると主張しています。
今夜は、この健康食品の問題に大変お詳しい、科学ジャーナリストの松永和紀さんと共にお伝えしてまいります。
このビジネスチャンスの拡大に期待を寄せる声が業界から出ているようですけれども、これ相当、踏み込んだ規制改革って言っていいですよね?
そうだと思います。
初めて聞いたときは、とにかく驚きました。
国の審査がいらないと。
企業が自己責任で、表示をできるようになると。
これまでありました、特定保健用食品の制度は、国が長い期間をかけて、きちっと審査をする、安全性、有効性について、審査をして、その上で、表示を認めるという制度でした。
それに比べれば、ずいぶんと企業の自由度が上がる、大胆な制度だなぁというのが感想です。
しかもそれが健康食品だけにとどまらない?
そうですね。
農産物や水産物も恐らく許可されるだろうと、許可ではないですね、表示できるようになるだろうと言われています。
みかんとか、それからお茶などが候補に挙がっています。
成分が入ってればその機能を表示できるようになると。
早ければ、来年春には企業が表示した商品が、市場に出てくる可能性もあるわけですけれども、長い間、この健康食品業界を取材されてきて、規制緩和を受け止める用意っていうのは、業界には出来てるんでしょうか?
まだできてるというふうにはちょっと思えません。
というのも、企業の科学的な理解というのには、相当に開きがあります。
科学的な理解?
きちっと真面目に科学的根拠を追求している企業もありますけれども、あまりそういうことは考えずに、なんとなく昔からの言い伝えで、いい食品があるからとかというようなことで、科学的根拠って何?っていうような反応の企業の方たちもいらっしゃいますので、かなり反応、違いがあるというふうに見ています。
業界の自己責任で機能表示できるようになりますと、モラルも問われるわけですから、やっぱり科学的知識も高めていかないといけないということですが、その表示を受け止めることになる消費者はどうですか?
もちろん、消費者も今のところは、広告宣伝に引かれて買っている、イメージで買っておられる方が多いわけですね。
ですので、血液さらさらとか、それから、タレントさんの効きますよという体験談で買ってしまっている。
消費者も変わらなければいけません。
本当に見極める力を持たないといけないということですね。
さて、この日本が新しい制度の今、参考にしようとしているのが、アメリカでして、アメリカは20年前に、この機能表示の規制緩和をすでに行っていますけれども、アメリカではさまざまな課題が浮かび上がっています。
20年前健康食品に機能の表示を認めたアメリカ。
病気を予防するために健康食品の活用を進め業界を発展させるのが目的でした。
健康食品専門の販売店です。
現在、アメリカで売られている健康食品はおよそ6万点に上ります。
パッケージには、その商品が体のどの部分に、どう機能するか明確に表示されています。
EPAを使ったこの商品の宣伝文句は「心臓の健康を支える」。
日本で認められていない表現です。
創業40年の健康食品メーカーです。
海外向けも含め、現在320点の健康食品を製造しています。
企業が、みずからの判断で機能を表示できる制度が会社の成長を支えてきたといいます。
アメリカで健康食品の表示が決まる仕組みです。
国は、機能を表示するためにはヒトを対象にした試験で有効性が確認されていることなどが必要だとしています。
メーカーはそれに応じた論文を研究機関などから集めて表示を決め、国に届け出ます。
しかし、根拠となった論文を調べるなど国が有効性を審査することは原則としてありません。
商品の表示についての会議です。
ある成分について「関節の動きがよくなる」という論文が発表されたことを知り早速、表示することにしました。
裏付けとなるのは社外から取り寄せた論文のみ。
メーカーが独自に実験を行う必要はありません。
新たな制度の導入で20年ほど前8000億円だった健康食品の市場は、4倍に拡大。
その一方で浮かび上がってきたのが制度の欠陥でした。
おととし、保健福祉省は健康食品の表示に関する抜き打ちの調査を行いました。
効果に疑問を感じる消費者の声が高まったからです。
調査したのは、127の健康食品。
どのような根拠で機能をうたっているか論文を調べたところ、ほとんどが科学的裏付けが不十分でした。
ヒトではなく、動物などでの実験結果しかなかった商品。
中には、論文ではなく30年前に大学生が手書きで作ったレポートを根拠としていた商品もありました。
効果がなかったとして消費者がメーカーを訴える事態も起きています。
3年前、損害賠償請求の対象となったメーカーの健康食品です。
裁判に提出された商品の箱には「軟骨が再生」「1週間で関節の動きが改善」と表示されていました。
原告の代理人を務めたウェルトマン弁護士です。
成分について調べると商品がうたっているような効果は確認できないという論文が数多くあることが分かりました。
ウェルトマン弁護士の主張を受けメーカーは、商品を買った1200万人に対して和解金を支払うことに同意しました。
アメリカを参考に新たな制度作りが進められている、日本。
企業の判断で表示を認めることの弊害をどう防ぐのか。
国の検討会の座長に問いました。
日本が参考にしようとしているアメリカでは、今のリポートにありましたように、効果がなかったとして、その消費者がメーカーを訴えたり、あるいは、国が行った調査で、表示の裏付けが科学的に乏しい、不十分なものがほとんどだったという結果が出たり、効果のないもので経済成長すべきではないという、非常に印象的なことばが、弁護士の方からありましたけれども、日本も市場は拡大したけれども、アメリカのようにはなってほしくないですよね。
そうですね。
そうですね、アメリカでは今、揺り戻し、制度が出来て20年たって、揺り戻しが起きていまして、より厳しく表示の要件を求めていたりとか、それから、国の機関が調査をしたり、情報提供をしたり、その情報提供も、この成分は効かないですよというようなことを、明確に事業者や、消費者に情報提供したりということをしています。
それから市民団体も今、非常に活動、活発でして、製品を購入して、市場で購入して、含有量、成分の含有量を測ったりとか、それから市民団体自身が調べて、この成分はどうも効かないようだよというような情報提供を、一般消費者の方に分かりやすくするというような活動が活発になっています。
日本としては今、規制緩和の実施に向けた議論が進められていますけれども、有効性の裏付け、きちっと取れるようにしていくうえで、どういう仕組み、あるいは方向性で議論が進められてますか?
消費者庁が今、機能性表示についての検討会を設定しまして、これまで5回、会合が行われています。
その審議を見ていますと、非常にレベルが高い製品にだけ、表示を認めようという方向性にあります。
つまり、根拠をかなりしっかりと出さないといけないということですか?
ということです。
安全性、それから有効性、両方ともにきちっと学術的に確認されたものを、それを企業がきちっと調べて、情報を公開すると、それを前提にして、表示してもいいですよというような制度にしようとしています。
ただ、ちょっとこちらは、国立健康・栄養研究所が調べたものなんですけれども、ヒトへの有効性についての根拠が多い成分と、そして少ない成分、書かれているように、有効性がヒトに対してあるのかないか、現時点では分からないといったものも、成分としてはあるわけで、規制緩和されますと、こうした成分についても、企業の自己責任によって、機能表示ができるようになるわけですよね。
たぶんそうはならないだろうと思います。
今の消費者庁の検討会の議論では、この上のほうの科学的根拠が、かなりしっかりしたものでないと表示をしてはいけませんと。
この辺りではだめですよというような制度にしようとしていますので、そう簡単には表示できないという制度にしようとしていますね、今は。
でもやはりチェック体制って、必要じゃありませんか?
ええ、そうですね。
業者さんによっては、もちろん真面目にされる方もいらっしゃいますけれども、中には、信頼性の低い、ちょっとレベルの低い論文をかき集めて、これだけ論文がそろってるんだから、表示していいでしょうということで、表示してしまうような企業も出てこないともかぎりませんので、きちっとしたチェック体制を設けないといけないと思います。
市場に出てからのチェック体制ですね。
国はやっぱり、その情報を集めようということで、ホットラインのようなものを設置して、情報を集める。
いろんなところと連携して、何かあったら、すぐ対応するというような制度にしようとしています。
そうすると、安全性についても、ホットラインを設けるんですか?
そうですね。
有害事象が、そこの電話に連絡が来て、それで保健所とか、いろんな機関で連携を取り合ってというような制度にしたいというような意向を示しています。
これからの制度設計をどうするかっていうのは、本当に大事な時期だと思うんですけども、成長産業にしたい、そして競争力のある商品を作って、そして輸出もしたいというたぶん、思惑もあるかと思うんですけども、本当に日本の健康食品が信頼性を持たれて、そして、有効性が競争力のあるものになっていくためには、消費者にとっても業界にとっても、ウィン・ウィンになっていくというためには、何が大きなポイントになりますか?
まず、事業者の方々に、当然のことながら、きちっと科学的根拠を持ったいい製品を作っていただかなければいけません。
それを作るとともに、きちっと情報を公開すると、透明性を高めていただくということ。
で、それをもとに、消費者は判断できなければいけないわけですね。
ですので、消費者にもきちんと情報が提供されて、消費者が理解をして、いろんな医療関係者とかのサポートも受けて、きちっと判断できると、合理的な選択をできるようにすると。
その全体の仕組みを、国はきちっと監視をして、何か問題があったら、すぐに動けると、ホットラインの情報もすぐに有効活用できるというような仕組みが必要だと思います。
2014/05/13(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「健康食品が変わる 規制改革の波紋」[字]
効果・効能がうたえない「健康食品」。機能性表示をできるようにする規制改革の議論が始まっている。トラブルを起こさず市場を活性化するため表示はどうあるべきかを考える
詳細情報
番組内容
【ゲスト】科学ジャーナリスト…松永和紀,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】科学ジャーナリスト…松永和紀,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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