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「美味しんぼ」が踏んだ日本人の「虎の尾」

小学館のビッグコミックスピリッツ上で連載中の「美味しんぼ」福島の真実編での福島県などの描写が、物議をかもしている。

ことの発端である604話の「鼻血」などの描写を、続く12日発売号の605話内で、ついに実在する井戸川前双葉町長が被ばくと結びつけたことで、引き返しようがなくなってきた。山岡が「夢か」と一言こぼせば、オチがついていたのだが。

昨日、この騒動についての海外の反応を紹介した記事を読んだ。

ウォールストリート・ジャーナル紙は(中略)フィクションに過ぎない漫画の描写がここまで大きな問題になっているのは、30年以上続く『美味しんぼ』の強い影響力を示すとみている。

『美味しんぼ』描写に自治体が猛抗議 “フィクションなのに…”影響力の大きさに海外紙驚き | ニュースフィア
原文を読むとたしかにいっている。

And while the manga is clearly fictional, the controversy illustrates just how influential the medium is in Japan. Revolving around the world of cooking and food culture, Oishinbo has been running for some 30 years and is considered by some in Japan to be “the Bible of foodies.”

Fukushima Watch: Long-Running Foodie Manga Touches Nerve - Japan Real Time - WSJ

ただ、すこし語弊があると思うのは、「美味しんぼ」だから騒動になった、ということではないということだ。おそらく放射線に関して、現行の科学的見解と著しくかけ離れた描写がなされれば、大手連載誌の作品はどれもある程度は燃えていただろう。日本においていま、放射線被ばくについて持論を述べるのは、「虎の尾を踏む」恐れがあるということだ。

けれど、「踏んではならない虎の尾」はどの国にだってある。それは文化圏によって姿が違うだけだ。もし、欧州でナチスを肯定する漫画が出版されたら、 「the manga is clearly fictional」なんていえるだろうか。アメリカでKKKをヒーローとして扱う漫画が公開されたら、そんな風にやり過ごせるのだろうか。

日本特有なのは踏んだ「足」の方でない、やはり踏まれた「虎の尾」の方だ。

放射線や被ばくについて、日本に住む人々がかつてなくセンシティブになっているのは、まちがいないだろう。「美味しんぼ」に向けられた免疫反応のような激烈な批判の数々は、放射線被ばくに関するできるだけ正しい知識を得たいという願いと表裏にある。「リンチ」はよくないが、それらはある程度は健全な反応だと、ぼくは思う。あとは、19日発売号のスピリッツが組むという特集記事を待つしかないだろう。

とりあえず、井戸川前町長には原因不明の鼻血について、病院を受診することを強く勧めたい。

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