およそ2,000年前古代イスラエルで成立した「旧約聖書」。
そこにはドラマチックな歴史物語と共に民と神との関係が記されています。
「旧約聖書」はユダヤ教その後生まれたキリスト教に共通する正典でありイスラム教にも影響を与えました。
それらは皆一つの神を信じる宗教。
世界の半数以上の人々に信仰され現代でも西洋思想の大きな源流となっています。
「旧約聖書」第1回は一神教の成立に迫ります。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ今回の読み解いていく本は…しかも「新約聖書」「旧約聖書」とあるんですがこの最初に書かれた「旧約聖書」の方なんですね。
毎回名著を僕みたいな無知な人間が取り扱うにあたって肝に銘じてるのはそれだけ売れてる読まれてる本というのは大事にしてる方がすごく多いからその方になるべく失礼がないようにと頑張ってるんです。
それでも失礼な事もあるわけですその「大事」の温度によっては。
そういう意味では今回のこの「旧約聖書」は大事にされてる方の数がまあものすごく多いし。
もう世界中に。
はい。
ただそこにおびえずにちゃんとこの「聖書」を知ってみようとそのスタンスでいってみようかな…なんつってね。
今回もすばらしい指南役に来て頂いております。
千葉大学教授の加藤隆さんでございます。
どうぞお越し下さい。
お願いします。
よろしくお願いいたします。
神学を専門にする加藤隆さん。
「旧約聖書」「新約聖書」から文明の成り立ちや人々の営みを研究しています。
この「旧約聖書」ってこれを読むと世界中の多くの人たちの思考とか考え方のルーツが分かるそうなんですよ。
それなんですよ。
だから別に宗教があるなしにかかわらず面白いよって薦めてくれる人は結構いるんです。
「聖書」を敷居高いかもしれないけど読むと絶対面白いって言われるんですけどこれはやっぱり面白い?面白く読めるところもありますね。
全体としては…しかしそこには世界がどうしてできたとかそういう神話的な物語もありますし詩とか格言とか古代のユダヤ民族の小さな図書館であるといろいろな資料の収まった。
そういうふうに言えると思います。
そもそも「旧約聖書」というのは一体どんなものなのか見ていきたいと思います。
「旧約聖書」はユダヤ教キリスト教イスラム教に共通する書物なんですね。
そうですね。
まずユダヤ教が誕生してそこでユダヤ教の「聖書」が出来ました。
そして次キリスト教が誕生してユダヤ教の「聖書」を受け継ぎました。
それからイスラム教は3番目に誕生してユダヤ教の「聖書」もそれなりに尊重してる。
どれも一神教であると基本的には。
一つ宗教が違うと全く向こうはでたらめこっちは合ってるみたいな話なのかと思うと大本にしてるところとして影響を受けてるものとして一緒なんですね。
「旧約聖書」が共通してるんですねこの3つは。
根本的には神が一神教ですから一つの神を崇拝してるんですがそれが共通してるとこれが大きな特徴であると。
さあその内容を見ていきたいと思います。
基本情報でございます。
これでよろしいんですけど古代イスラエル民族と神との関係をつづったとこういうふうに言うべきだと思います。
そうですね。
そして39というものの集合体になるという立場になるのは紀元後1世紀です。
ですから1,000年以上かかって書かれましたから1人の作者の作品でない事は確かですね。
この「約」は翻訳の「訳」ではありませんね。
契約の「約」。
日本語ではこの漢字を使っていますけど。
約束の「約」ですもんね。
「古い契約」「新しい契約」という意味ですね。
これはキリスト教の立場からの言い方でユダヤ教では「旧約聖書」の部分は単なる「聖書」なんです。
後から生まれたキリスト教でキリスト教独自の「聖書」と呼ばれる文書集が出来ましたからユダヤ教から引き継いだものを「旧い契約の書」という事で「旧約聖書」でキリスト教独自のものは「新約聖書」。
ですからユダヤ教から見ればこんな言い方というのは関係ないというか勝手に。
ユダヤ教にとっては「聖書」は一つ。
一つですね。
この「旧約聖書」にあたる部分。
旧いなんて言われる筋合いはないと。
一つだからねと。
そういう事ですね。
さあではまず「旧約聖書」が一体どのように始まるのかご覧頂きましょう。
「旧約聖書」は6日間にわたる神の天地創造から始まります。
最初に生み出された人間アダムとエバ。
しかし2人は神の教えに背いて禁断の木の実を食べ楽園を追放されてしまいます。
2人の息子カインとアベルの物語。
妬みから兄が弟を殺してしまい人類最初の殺人が起こります。
堕落した人間たちに神が洪水という厳しい罰を下したノアの箱舟。
その後生き延びたノアの子孫アブラハムはイスラエルの祖先となります。
神はアブラハムに約束の地を目指すよう命じました。
どうやって世界が生まれ人間が生まれたかという創世記の冒頭でした。
よく知られている部分ですけれどこれはまだ歴史というよりは神話に近いような感じのところなんでしょうか。
まあそう言うべきですね。
多くの民族でどうして世界ができたかどうして人間ができたかというような話はあるのでその中の一つであると。
今出てきたノアの箱舟の話はとても有名な話ですよね。
ああいう大洪水というのはよくあったという事なんですかしらね。
もっと古いものですが「ギルガメッシュ叙事詩」というのがあってそこにも非常に似た話があると。
多分直接影響があってノアの箱船の話も出来てるとそう考えるべきです。
少なくとも当時の人たちにとって規模は分かりませんけれども中東の人たちにとって大洪水ってすごい出来事ですもんね。
地層から判断して相当のものがあったらしいと。
ですからそれはやっぱり中東のあの辺りの…それがいろんな物語に反映してくるそういうふうに言えると思います。
最後に登場したイスラエルの祖先アブラハム。
その一族は約束の地カナンを目指して長い旅を続けやがて定住します。
しかし飢饉に遭い子孫たちはエジプトに移住する事となるのです。
エジプトは恵まれた地域で当時2つの文明圏はメソポタミアとエジプトですな。
エジプトはメソポタミアに比べてとても安定してるのですね。
「ナイルの恵み」なんていうふうに言われていて…メソポタミアはこちらは砂漠ですけれどこちらに山岳地帯があってこちらからいろんな民族が侵入してくる。
そういういつ訪れるか分からない危機というのがあるために…実際戦乱が絶えないような状況だった。
さあこの憧れの地にそのアブラハムと子孫たちが入るんですけれどもところがそこで思わぬ目に遭うんですね。
アブラハムの子孫たちがこのあとどうなるのかご覧頂きましょう。
それから数百年後イスラエルの民はエジプトで奴隷として働かされていました。
苦難の中でも増えてゆくイスラエルの民を脅威に感じたファラオは生まれた男子を皆殺しにするよう命じます。
そんな中イスラエル人でありながらエジプトの王宮で育ったモーセという男がいました。
モーセはある日荒れ野で神ヤハウェと出会うのです。
「『モーセモーセ』。
ヤハウェは言った」。
「すぐ行け。
私があなたをファラオのもとへ遣わす。
そして私の民イスラエルの子らをエジプトから導き出しなさい」。
神の命を受けたモーセはイスラエルの民を救い出し神が示す約束の地カナンへ連れていこうとします。
しかし奴隷が大挙して国を出ていく事をファラオが許しませんでした。
そこで神はエジプトに「10の禍」をもたらします。
ナイル川の水を血に変え疫病をはやらせ作物をイナゴの大群に襲わせました。
更にエジプト全土を3日間暗闇に…。
神の数々の行為にファラオは耐えきれずイスラエルの民を解放しました。
彼らはついに長い奴隷状態から脱したのです。
しかし諦めきれないファラオが軍隊を差し向けてきます。
すると奇跡が起こりました。
海が割れて道が生まれたのです。
イスラエルの民が渡りきると海が元に戻りエジプト軍は一気にのみ込まれてゆきました。
こうしてイスラエルの民は約束の地を目指し旅を続けたのです。
何かモーセのシーンは有名ですよね。
すごく有名ですよね。
映画にもなってますしね。
ワーッと海が開くみたいな。
モーセイコール神だと思ってたくだりが僕の頭の中にあるんですけどモーセは神の使いか神様に「行きなさいよ」と言われた人なんですね。
そうですね。
これモーセのこのあたりのお話はだいぶ現実になってきてるんですか?前はちょっと神話的なところでしたけれども。
この「出エジプト」エジプト脱出の話ですがある程度の集団が集団としてエジプトから逃げ出した。
これに対応する出来事はあったと考えるべきだと思います。
「聖書」の物語ですと奴隷状態で苦しんでいたひどい扱いを受けてきたそういう事があったと。
しかし個々の物語の中の奇跡がそのまま歴史的事実だったとこれはなかなか言えない事ですね。
しかし物語の中でいくつもの奇跡が次々と起こったように書かれていますから読む側の態度としてはそこに神の特別な力が働いているとこういう事を物語を作る側として伝えたいとその意図は読み取れる。
うわ〜そのどういう意図で書かれて自分たちは何を読み取らなきゃいけないのかというその観点から見るとすごく面白くて奇跡があったと言われると神様を信じる人はあったと思うし僕みたいにあんまりそういう事をよく分かんない人はそんなのないんじゃないのありえないんじゃないってなるじゃないですかその現象自体を読んで。
だけど苦しかった事は間違いなかったり生き延びた事は間違いなかったりというところは少なくとも読み取れますよね。
とてもじゃないけど生き残れないような局面はあってだけどそれを生き残ったという事だけはお互いの共通見解でちゃんと。
それは神のおかげであると。
それをこういうふうに表現してると考えるべきですね。
そのモーセたちはこのルートをエジプトから脱出してカナンまでここを40年かけて進んでいくという事なんですけど。
モーセは相当権威のある指導者だったような感じですね。
ですからいわばファラオのような…モーセはあくまでも神の代理人神の仲介者にとどまるのですね。
そういう根本的な原則というかこれがあってエジプトではそういうファラオの支配の文明社会になっていますからそこから逃げ出したこういう事が言えるんじゃないでしょうかね。
面白いですね。
人が人を支配する事にもう疑問を感じている間違ってるんじゃないかという人たちの集団とも考えられると。
この理由というのはもしかしたら本質的なのかもしれませんね。
神そして民というのがありますが恵みや救いや安全をもたらしてくれるのが神でだから崇拝するこういう関係なんですね。
エジプトからの脱出を成功させてくれたあるいは荒れ野での苦しい生活生き延びるように助けてくれたこうした事が恵みとか救いとか安全ですね。
これをひと言で言うなら思い切って「ご利益」と言ってもよろしいんじゃないかと。
いい事をしてくれたのですね。
ですからその神を自分たちの神として崇拝する。
戦争が…国を取り合ったりするような時代なんでしょうか。
そうですね。
互いに滅ぼしてやるぞという事でにらみ合っています。
そういう中で最も重要な事は安全ですね。
戦争に負けてしまったらもう滅んでしまう。
何と言っても重要なのは国として…それを神が保証してくれる。
そこでヤーヴェを崇拝する集団としてのまとまりユダヤ民族が誕生したとこういうふうに言う事ができます。
さあしかしこのあとユダヤ民族たちが約束の地へたどりつくまでにはまだまだ苦難が待ち受けています。
このあとモーセたちの旅は一体どうなるんでしょうか。
モーセとイスラエルの民は聖なるシナイ山の麓で宿営していました。
モーセが山に登り神に祈ると…。
「モーセよ」と神の声が鳴り響きました。
そして神は「十の戒め」を厳かに告げるのでしたモーセがヤハウェから掟の書かれた2枚の石板を与えられ山から下りてくると人々は偶像を作り祀っていました。
「何て事を!」。
モーセはもう一度山に登り十戒を授かるとそれを民に読み聞かせます。
こうしてイスラエルの民はシナイ半島の荒れ野を40年間もさまよい続けます。
モーセは約束の地カナンを目前に120歳で命を落としました。
その後カナンに入ったイスラエルの民は苦難の末に自らの国を樹立する事に成功したのです。
この上の4つが人と神の間に結ばれた契約で残りの6つが人の生活を規定する倫理という事なんですね先生。
まあ「聖書」によると十戒というものが神から民に与えられて契約が結ばれたと。
契約という言葉がちょっと面白いというか僕からしたら違和感があるというか「これやるなよ。
これやったら許さんぞ」という話ですよね。
厳しい環境ですし政治的軍事的にも常に厳しい環境にあると。
神と民とはいつもしっかりした関係を維持していかなくてはならない。
それを維持する重要な手段として人による人の支配じゃなくて皆に共通な掟神によって与えられた掟という形で集団の統一・秩序を維持していこうとそういう方向にだんだんと進んでくるという事になります。
私たちの日本人の思う神様仏様なのかもしれませんけどその関係とは全然違って私たちは何かあったら「お願いします。
のんのん」って言って契約してないというかそのために何かするというのは…。
そのとおりです。
日本は一度も…国が出来て以来ずっと続いてきて神との関係というのも真剣に考える必要もないぐらいうまくいってるというふうに言えるんじゃないでしょうかね。
今とても僕が興味深くて面白いなと感じてるところは事実の部分あと事実は元にしてるけれども誇張されてるいわゆる神話的な部分とかいろんなものが行ったり来たりするのを「ここは本当」「ここは組織を束ねるための比喩として絶対必要」とかのそのパーツの組み合わせが楽しいという意識を持ちたいな。
持って残り3夜挑んでいきたいなという感じがします。
さあ契約は結んだもののイスラエルの民にはまだまだ試練が与えられます。
次回もどうぞお楽しみに。
加藤先生ありがとうございました。
2014/05/14(水) 05:30〜05:55
NHKEテレ1大阪
100分de名著 旧約聖書[新]<全4回> 第1回「こうして“神”が誕生した」[解][字]
旧約聖書の記述から古代の歴史や人々の営みを読み解くという視点で語る。そして一神教の概念がどのようにして生まれたかを探る。第1回では創世記や出エジプトなどを読む。
詳細情報
番組内容
旧約聖書ではまず、世界の創世について語られているが、さらに時代が下ると、ユダヤ人の祖先はエジプトで奴隷として暮らしていたとされる。彼らはヤーヴェという神を信じるモーセに率いられ、エジプトからの脱出を企てる。そして追っ手のエジプト軍が迫るが、海の水がひいて無事に渡ることができたという。こうした物語が意味するものとは何なのか。第1回では、戦乱が続いた時代、当時の人々にとって神とは何だったのかを探る。
出演者
【ゲスト】千葉大学教授…加藤隆,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】松重豊,【語り】湯浅真由美
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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