以前にこんなタイトルで記事を書こうと思っておりました。しかし筆が進まず、このままお蔵入りしてしまうのか・・・と思っていたところ、ちょうどGigazineが男性用ピルについての記事を上げていました。
これ幸いと、Gigazineの記事に絡めながら、近年の研究状況について書きたいと思います。
男性用ピルのこれまでの開発状況(引用)
望まない妊娠を予防するために経口避妊薬(ピル)が使われていますが、ピルはたいてい女性が服用する薬であり、男性用ピルはほとんど開発されていません。男性用の避妊手法といえば、コンドームが主役ですが、コンドームの避妊効果はそれほど高くないことが判明しており新しい効果的な避妊手法の登場が望まれています。
コンドームの存在のせいで開発の遅れた男性用ピルですが、近年、男性ホルモンとして知られるテストステロンを錠剤・パッチ・注射などによって投与するという臨床試験が行われ出しています。
ホルモン性避妊薬に代わって、大きな期待が寄せられているのがインドのスージョイ・グハ博士が開発した、精子の供給を絶つという方法で避妊効果を生み出そうとする手法RISUGです。なお、RISUGで使われる帯電ポリマーは人体に無害で、1回の施術によって10年以上の間、輸精管にとどまることで効果を維持し続け、帯電ポリマー自体も非常に安価に製造でき、すでに臨床試験はフェーズIIIに突入しており実用は間近とみられています。
テストステロン投薬とRISUGの問題
テストステロン供給タイプの男性用ピルの臨床試験は世界保健機構(WHO)の主導の下、2008年から2010年までにのべ200以上のカップルを被験者としてテストが行われましたが、うつ病や気分の浮き沈みが激しくなること、性欲が増すことが確認され、2011年4月に試験が中止されました。
RISUGと言う方法は輸精管に詰め物をする手術とのことなので、男性用ピルとは言えないでしょう。ペッサリーや避妊リングと言った女性用避妊具の男性版と言うイメージでしょうか。
またGIGAZINEでは紹介されていませんでしたが、睾丸に超音波を当てて精子を減らす研究なんて言うのも行われています*1。字面を見るだけで震えますね。
これらのことから、コンドームと同じくらい簡便で、なおかつ安全な男性用ピルはまだ製品化されていません。しかし近年の研究により、男性用ピルとして使える可能性がある薬剤がいくつか同定されました。
男性用ピルとして使える可能性のある薬剤
予め言っておきますが、これらの薬剤は副作用が大きいだろうと予想されており、安全性が確認されるまで世に出ることは絶対ありません。
JQ1
最近の発見で、一番男性用ピルに応用できる可能性が高そうだと私が思ったのはJQ1と言う薬です。この薬は、元々は抗癌剤として作られたのですが、精子形成に必要なタンパク質に結合して精子の形成を阻害することが明らかになりました。さらに薬の投与をやめると精子が再び作られるようになったことから、男性用ピルとして理想的な特性を持ちます。
しかしJQ1には副作用が多いだろうと予想されており、まだ男性用ピルとして市販されるまでに至っていません。もう少し選択性の高い薬が作れればいいですね。
Adjudin
抗癌剤であるLinicamineのアナログとして知られるAjudinは、セルトリ細胞の接着を阻害することで精子形成を抑制する化合物として知られています。この薬も投与をやめると再び精子が作られるようになることから、男性用ピルとしての条件を満たしています。私はこの薬の現在の研究進行状況をよく把握していないのですが、どうなんでしょうか*2。
CDB-4022
この薬もセルトリ細胞の接着を阻害することで精子形成を抑制する化合物として知られています。GnRHのagonist/antagonistと併用して研究されているみたいですが、どうなんでしょうね。
Minglustatはマウスでは使えそうだと思われていましたが、ヒトでは効果がなかったそうです。他にもクロヅルやニームのエキスが男性用ピルとして使えうるなんて話も見ましたが、ちょっと怪しい・・・。他にも様々な男性用ピルとなり得る薬について書かれたreviewが読みたい人はリンク先をご参照あれ(Trends in Endocrinology & Metabolism, 2008)。
受精に関わる分子を狙い撃ち?
さて、妊娠するためには精子と卵子が受精する必要があります。その流れを整理してみると以下のようになります。
- 精子が体外に放出される
- 卵子が卵管から出てくる
- 精子と卵子が合体する(受精)
これまでの基礎研究の進展により、受精に関わる分子機構が解明されてきました。教科書的には先体反応(精子が卵子の膜を溶かす)に必要な一連のタンパク質が思い出されるでしょうか*3。先日のNatureには「精子と卵子の融合に必要なIzumo&Junoタンパク質」が発見されたことが報告されました。これらの分子を狙い撃ちする薬が作れれば、それは新たな避妊薬に、もしかしたら男性用ピルになるかもしれません。
また2013年にはα1Aアドレナリン受容体とP2X1受容体を同時に阻害することで、可逆的に精子を阻害できる可能性が言われ始めました。ノックアウトマウスの知見であること、また薬が色々なところに効いちゃいそうなところなど、問題は多そうですが興味深い発見です。
終わりに
現在のところ、まだヒトで使える男性用ピルは市販化されていません。しかし基礎研究、臨床研究ともに進んでいるので、そう遠くない未来に我々の前に現れる日が来るかもしれません。それまではコンドーム、またはTENGAで我慢しましょう。
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PS.もっと色々な研究があるんだけど、疲れたので今日はこのへんで。いつか時間があったら改めて書きたい題材です。
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