蔵前勝久
2014年5月14日05時46分
安保法制懇がまとめた報告書の最大の問題は、安全保障論を理由に、国の最高法規である憲法を「骨抜き」にしてしまうことだ。
憲法が最高法規とされるのは、権力を縛る役割があるからだ。
「持っているが、行使できない」という集団的自衛権の今の解釈は1981年に確立した。それ以降、自民党を中心とした歴代政権は、憲法が権力を縛るという立憲主義のもと、その解釈を守ってきた。イラク戦争に自衛隊を送った小泉純一郎元首相も、この解釈を崩さない範囲で派遣する、と主張し続けた。
つまり今の憲法解釈は、国民に選挙で選ばれた政治家たちが政府と一体になって、30年以上にわたって積み重ねてきた結果であり、いわば憲法そのものだ。しかもその解釈は9条という憲法の根幹にかかわる。
その憲法解釈を「安全保障環境の変化」という一点突破で変えるよう求める今回の報告書は、「権力を縛る」という立憲主義から完全に目を背けている。
安保法制懇メンバー14人は、元外務事務次官、元防衛事務次官、国際法の学者ら、外交・安全保障を専門とする委員がほとんどで、全員が行使容認に賛成の立場だ。その委員は安倍晋三首相自らが選んだもので、報告書は、安倍氏の意図に沿った結論ありきの内容といえる。
仮に安倍氏がこの報告書を受け、憲法解釈の変更で行使を認めれば、ときの首相の意向次第で憲法解釈を変えられる前例をつくることになる。それは安倍氏に続く首相を縛ることができない「骨抜きの憲法」を残すことを意味する。(蔵前勝久)
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