大事なことを軽々しく言うと、人は安くなる
—— 先日、テレビのインタビューで「僕は会社でいいことを言わないようにしている」とおっしゃっていたのを拝見しました。それはなぜですか?
川上量生(以下、川上) 社員が勘違いするからです。プラスにならないと思います。
—— 社員が「自分たちは社会のためになるビジネスをしている」と思うことはプラスにならないんですか。
川上 それが目的になったらまずいでしょう。だって会社って、そういう存在じゃないから。僕はとにかく欺瞞やウソが嫌いなんです。それは正義感とかじゃなくて、論理的におかしいからです。
—— 論理的に(笑)。
川上 論理的におかしいことを言って破綻したときに、修正して回るのもめんどくさいですよね。
—— だから全部、本当だけでやっていく、と。
川上 そう、全部本当でやっていきたいんですよ。たしかに、世の中の役に立ちたいという気持ちはありますよ。でも、それが第一義になったら会社はつぶれるじゃないですか。会社としては生存することを第一にするしかないし、それを基準に考えるべきなんです。そうではない正義や使命感を軸にすることは、会社にとってはマイナスにしかなりません。
—— なるほど。そうですね。
川上 生存することを第一とした上で、社会的理念を満たすのはいいと思います。でも、生き残ること自体が、実はけっこう大変なので(笑)。
—— いやあ、大変ですよね。僕も会社をやってみて、痛感しています。
川上 そんな悠長なこと、言ってられないわけですよ。社会にいいことっていうのは、オプションでつくかもしれない、くらいのものです。そのオプションを全面に出してしまうと、そうじゃないことをやらないきゃいけないときに説明できなくなる。結果として欺瞞になると思います。だから、そういうことは言わないようにしてるんです。
—— なるほど。
川上 そういうことはね、秘めておけばいいんですよ。どうしても自分がやりたくて、これは世の中のためになるって信じられるものを心に秘めておく。それで、いざ実行できるとなったら、普段やっていることを覆してでも決断すればいい。例えば「この人のためなら自分は死ねる、何かあった時は命をかけて守る」って思ってたとするじゃないですか。それを普段から言うか言わないか、みたいなことですよね。
—— それをふれまわるのはちょっと、ということですね。
川上 そんなに軽々しく言うものではないし、実際、その時の状況によって守れるかどうかなんてわからないし(笑)。守れなかったら、ウソになっちゃいますよね。
—— あの、変なことを聞きますけど、川上さんは女の子に「私のことずっと好き?」って聞かれたらどうするんですか? その考え方だと、そういうときに「いや、ずっとかどうかはわからない」って言うしかなくなりませんか。
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