20日、福島第一原発事故により被害を受けた福島県のホテル経営者が、東京電力ら電力会社9社と国を相手取って、違法な原発の運転とその結果生じた原発事故により損害を受けたとして賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が福岡地裁(田中哲郎裁判長)で開かれた。
訴えたのは、福島市西白河郡泉崎村でホテル・温泉施設「泉崎カントリービレッジ」を経営している有限会社イズミザキコーポレーション。代表者は松沢栄一社長(87)。
訴状によると、被告らは共謀して「安全神話」をつくり安全対策を怠ってきたために、2011年3月11日の福島第一原発事故を起こし放射性物質を大量に放出するなどの共同不法行為を行なったとして、原子力損害賠償法ではなく、民法にもとづく損害賠償を求めている。原告が経営するホテルは、原発事故により、地震による休業後に営業を再開した11年4月1日から同年11月30日まで、宿泊客約4,200人のキャンセルが出るなど売上げが減少し約2,800万円の損害を受けたと主張している。
被告はいずれも請求棄却を求めた。
東京電力は答弁書で、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針が福島県内の観光業者の減収を原則として原発事故と相当因果関係のある損害としているため、原告経営ホテルに減収が生じている事実が確認されれば賠償責任を負うことは争わないとして、現実の損害が確認できる資料の提出を求めた。また、「安全神話」にとらわれて対策を怠ったとの原告の主張に対し、争う姿勢を示し、原発の運転が違法であることを否定した。
国と九州電力など8社は、責任について争う姿勢を示した。
また、国は、原告が国のどの行為が不法行為・共同不法行為に該当するか具体的に主張していないとして、実体法上無意味な主張であり審理の対象にならないと主張した。
九州電力など8社は、具体的な不法行為の特定や損害との関連性が不明確なので、現段階で認否しないと答弁した。
原告代理人の斎藤利幸弁護士によると、福島第一原発事故で、東京電力だけでなく9電力会社と国を相手取った損害賠償請求訴訟は全国初。原告が、ホテル宿泊キャンセルなどの損害賠償を東京電力に請求したところ、「東京電力の書式で請求せよ」と、請求を送り返されたため、やむを得ず訴訟に至った。松沢社長と長年つきあいのあった斎藤弁護士が原発事故後、福島県から福岡県弁護士会に登録替えしたため、福岡地裁に提訴した。
松沢社長は、「東電には積極的に賠償する姿勢が感じられない。私の1企業だけの問題ではなく、被災者救済が進むように訴訟に踏み切った。これだけの甚大な被害を与えながら、政府や電力会社が原発再稼動を考えているのを見ると憤慨する」と語った。東電だけでなく他の8電力会社と国の責任を明らかにしたい考えだ。