核不拡散条約(NPT)は核保有国に、軍縮への誠実な取り組みを義務づけている。その義務が果たされないと、他の国の核保有を禁じるNPT体制は崩れかねない。そんな世界は非核国だけでなく、核保有国さえも危うくする。

 にもかかわらず、核保有国の態度を見ていると、そうした世界の危機を本気で回避しようとしているのか、疑わしくなる。

 来年のNPT再検討会議に向けた準備委員会は、めぼしい成果がないまま閉幕した。核軍縮の進め方をめぐり、NPTで核保有を認められている米ロ英仏中の5カ国と、非核保有国の溝が埋まらなかった。

 4年前の前回再検討会議での合意に基づき、5カ国は初めて、軍縮の動向を文書で報告した。米英仏は冷戦期より大幅に減らしたと強調したが、各国とも核依存から方向転換する道筋は示さなかった。中国とロシアは核弾頭の保有数すら明らかにしなかった。

 あまりに不十分な内容というしかない。重い責任を改めて自覚すべきである。

 期待したいのは、最強の保有国でありながら、「核なき世界」を掲げるオバマ大統領だ。

 準備委で演説した米国代表は、核の非人道性に初めて理解を示した。多くの非核国が求める禁止条約まで支持してはいないが、注目すべき変化である。

 今年12月、非人道性を議題とする3回目の国際会議がウィーンで開かれる。被爆国であり、同盟国でもある日本から、米国に参加を働きかけてはどうか。

 オバマ大統領は昨年6月、戦略核を現行の米ロ条約の水準からさらに3分の1減らし、1千発程度にする交渉を提案した。ただ、ウクライナ問題などでロシアとの関係は冷え込み、交渉開始のめどは立たない。

 通常戦力で圧倒する米国が先に戦略核をもっと削減しても、抑止力は維持できるだろう。米国が自主的に減らし、ロシアに同調を促してはどうか。核システムの老朽化に悩むロシアにも、悪い取引ではないはずだ。

 核戦力の実態を明らかにしない中国が今後、NPT体制を維持していくうえで、リスク要因になる恐れもある。オバマ政権の主導で米ロがいっそうの軍縮に踏み込めば、中国の自分勝手はますます通用しなくなる。口では軍縮努力を繰り返す中国に、行動で示すよう強く求める時期にきている。

 オバマ大統領の支持率は低迷しているが、核ゼロへの流れを確かなものにするには、今が正念場である。