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【社会】

戦争嫌だ つなぐ思い 人間の鎖

 子どもの未来を守るために。戦争で無念の死をとげた父親のために。13日、集団的自衛権の行使を認める解釈改憲を食い止めようと、国会を取り囲んだ人々は、大切な人を胸に思い描きながら、手をつないだ。平和憲法の根幹が変質する岐路。政府は15日にその「基本的方向性」を示す。 

◆東京都八王子市福祉施設職員 菱山南帆子(なほこ)さん(25)

 知的障害者施設で働いています。今でも福祉が充実しているとは言えないのに、障害者のように弱い立場の人たちは、戦争が起きれば真っ先に切り捨てられる。怒りの声を上げられない彼らの分まで反対の声を上げたい。若者は政治に無関心と言われますが、怒る方法を知らないだけです。同世代は「ゆとり世代」と呼ばれます。なるべく苦労せず、目立たないように育てられた影響でしょうか。

 祖母は八王子の空襲で多くの親戚を亡くしました。母は湾岸戦争があった一九九一年ごろ、一歳だった私をおんぶしてデモに行ったそうです。私はイラク戦争が起きた二〇〇三年、通っていた中学校で戦争反対を訴えるチラシを配りました。子どものころから、戦争をしようとする大人たちに文句を言ってきたんです。

 そんな私も大人になり、七歳になる長男がいます。今度は私が子どもたちを守らないといけない。国が戦争に進もうとするのなら、全力で止めるのが大人の責任。あきらめず、やれることをやろうと思います。 (大平樹)

◆平和が大切 伝え続けたい 埼玉県川越市元小学校教諭 勝俣明夫さん(60)

 政権が進めようとしている集団的自衛権の行使容認は、戦争につながる動きで許せない。いくら日本が自衛権の範囲内だと言っても、応戦された国からは宣戦布告にとられるだろう。

 昨年、県内の小学校を退職しましたが、地域のお年寄りを招き、戦争体験を語ってもらう授業を続けてきました。近くのこの木が爆撃を受けたとか、戦時中の暮らしはどうだったかとか。押しつけの教育じゃない。戦争を身近に感じてもらい、自ら考える力を養うためです。成人した教え子に「平和の大切さを教えてもらった」と言われてうれしかった。

 教育はすぐに結果が出ないが、十年、二十年後の国民の教養の素地をつくる。教科書記述などに介入する国の動きは意図的で、戦時中に戻るようで不安です。文部科学相が、戦前の「教育勅語」を評価するような内閣ですから。平和や脱原発を目指す市民運動は持続し、盛んになっています。小さくても声を上げていきたい。国民をばかにするなよ。 (安藤恭子)

◆子どもに答えられるよう 埼玉県志木市予備校講師 石原知樹さん(34)

 働きながら法科大学院に通い、十四日から司法試験です。自分の人生も大事ですが、この抗議活動に加わるのも大事なこと。いてもたってもいられなくて、勉強の合間を縫って来ました。今後どんな日本になるのか分かりませんが、三歳の長男が大きくなり「あの時、お父さんは何をしてたの」と聞かれて「何もしなかった」と答えたくない。

 国民が集団的自衛権の行使を容認するなら仕方がないと思います。安倍政権は国民の意見も聴かず、戦後維持してきた政府見解を、一政権の判断で変える前例をつくろうとしている。学者の声にも海外の声にも耳を傾けない。もう抗議活動しか残っていないんです。

 集団的自衛権を認めてもいいと思う人の中にも、政権の強引なやり方に反対の人はいるはず。こういう集会には来づらいでしょうけど、抗議しなければ賛成しているのと同じです。国民主体の政治を求める点では一致できるはずなので、一緒に声を上げたいと思っています。 (大平樹)

◆今の大人が動かなければ 横浜市旭区、無職 錦織(にしこおり)順子さん(69)

 私は両親と暮らした記憶がありません。太平洋戦争で出征した父は、私が生まれて四十日目に戦死しました。若かった母は自分の将来を考えたのでしょう。私を置いて実家に戻り、その後再婚。私は叔父夫婦に育てられました。再び戦争へとつながるような、解釈改憲の動きは絶対に止めなければなりません。

 父が「今生の別れ」のため、生後十日の私と母に会いに来た時のつらさを、父方の祖母に何度も聞かされました。「順子よ元気で…。大きくなれよ」。父の最後の言葉だそうです。「早く自立しないと」と思って生きてきました。進学先を決めるのにも遠慮し、よりどころもなかった。

 先日、街頭で集団的自衛権行使の賛否を問うシール投票をした際、男子高校生が「総理大臣がまず戦争に行くべきだ」と話してくれました。その通りです。私が親と暮らせなかったのも、上の世代が戦争へと突き進んだ結果。子どもたちが将来戦争に行くことにならぬように今の大人が動かなければ、と思います。(奥野斐)

 

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