新旧メディア関係者が勢ぞろい

抽選に当たったので、表題のシンポジウムに行ってきました。
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(朝日新聞社HPより、USTREAMの中継画像をキャプチャー)

『メディアが未来を変えるには~伝わる技術、伝える力~』 というテーマで、

MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏に加え、NYTimesのアマンダ・コックス氏、ハフポのニコ・ピットニー氏 がプレゼンし、朝日新聞社取締役の西村陽一氏がモデレーターを務めるパネルディスカッションが開かれました。
Twitterのハッシュタグ「#未来メディア」を使ってリアルタイムで投稿される質問は津田大介さんが集約し、登壇者側へ適宜投げかけていました。

このテーマと登壇者の面子だけあって、参加者側はウェブメディア関係者が揃い踏みといった感じでした。

スマートニュースの藤村さん、ヤフトピ編集リーダーの伊藤さん、現代ビジネス編集長の瀬尾さんが質疑応答で登場し、ハフィントンポストの松浦さん、弁護士ドットコムの亀松さんも見かけました。他にも大勢のウェブ・紙の記者と編集者が集ったことでしょう。 

下記のTogetterが当日の議論の流れを綺麗にまとめているので、

この記事では気になった部分についてのみ書いていきます。

NYで最先端を走る3人へ投げかけられた主要な質問は、やはり「人材」「ビジネスモデル」に集約されます。

「人材」について - 担い手はいるのか

デー タ分析を可視化し伝える”データジャーナリズム”の手法が流行りつつありますが、統計学を専攻していてビジュアル化の技術もあるのにジャーナリストを志し たアマンダ・コックスのような人は伝説上の生き物「ユニコーン」のようなもので、数学の才がある人が儲かるウォールストリートに流れてしまうという話を伊 藤穣一さんがしました。
アマンダ
(朝日新聞社HPより、USTREAMの中継画像をキャプチャー)

ア メリカにおける、大手メディアから新興への移籍の話もありました。身軽な新興テクノロジー企業が大手メディアのスター記者をどんどん引き抜いており、伊藤 穣一さん曰くこれはまさに「ゴールドラッシュ」。優秀な学生はシリコンバレーに殺到して、そこからイノベーションが起きるのではないかという話でした。シ リコンバレーと対極に位置するニューヨークのメディア企業は、巻き込まれていくばかりなのでしょうか。
対するNYTimesのアマンダは、「大手のパブリッシャーが担えないはずはない、様々な実験ができる」と力強く述べました。

「ビジネスモデル」について - ハフポの取り組み

ハフポのニコ・ピットナーは、これまでハフポがいかに読者をパーソナライズしてきたのかを説明し、単なるPV数だけでは測れない「エンゲージメント」について語りました。
ニコ
(朝日新聞社HPより、USTREAMの中継画像をキャプチャー)

ウェブではあらゆる数値が可視化されるため、ライター・編集者がマーケターに近い役割も担わざるを得なくなります。そうした時に、ジャーナリズムとビジネスの境界線が曖昧になることも伊藤さんは指摘していました。

「唯一の正解」は、まだない。

そうしたアメリカの現状を踏まえて、さて日本ではどうなるのでしょう?

質問をなさった現代ビジネスの瀬尾編集長は、「ネットで調査報道をやりたい」と語りましたが、まだ実現に至っていません。日本最強のウェブニュー ス媒体・ヤフートピックスの伊藤さんも、コンテンツ作りは子会社がやり、自社で調査報道をしていくプランはないとおっしゃっていました。
やはりネックは、オンラインで必要な人材を集めることと、ビジネスモデルの確立でしょう。

では、どうすればいいのか?誰にもわかりません。

生意気な意見かもしれませんが、NYでメディアの大変革を体感している登壇者と、日本で最高峰のネットメディア運営者たち、そして朝日新聞社の敏腕記者が集っても、「メディアの未来」に、一つの明確な答えを出すことはできないのではないか、と思いました。

これに近いことは、僕が一番最初にインタビューした佐々木俊尚さんもおっしゃっていました。

佐々木俊尚氏に聞く「メディア業界のイノベーション」
コンテンツの質が高いことと儲かることは一致しなくなっていて、それをどうするか、の答えは正直なところ誰もまだわからない。
ネットメディアで稼げるモデルが出てくるのはこれからだ。1995年にインターネットが普及して、Facebookができるまでに10年かかった。
ネット黎明期の人たちは必ずしもFacebook的なものの登場を予測していたわけではない。それと同様に今想像もされてないメディアのビジネスモデルが出てくるのではないか。

「仮説」はあっても「答え」は誰も持っていないから、とにかく現場で試行錯誤を繰り返すしかない。実際に行動を起こして、失敗も繰り返して未来を作っていかない限りは分からないものだろう。
そう思ってとある挑戦的な質問をハッシュタグで投げかけたところ、シンポジウムを締めくくるものとして採用されました。
Twitter
(撮影:荒川拓さん)
これに対する西村取締役の回答は、「明日にでも記者が独立するとは思わないが、こうした会を通して若い記者がネットへの理解を深める、知の基盤を厚くすることは非常に重要で、これからもやっていきたい」 至言だと思います。

と いうのも、繰り返しになりますが、あの場にはウェブメディアの精鋭たちと、一線級の記者たち、それにジャーナリストを志す学生がたくさん集まっていまし た。僕の隣にたまたま座っていたのが、データビジュアライゼーションの分野で日本の権威的な存在である渡邉英徳准教授(@hwtnv)だったりもしました し、

「記者独立の時代、五年で来る」佐々木紀彦編集長に聞く

この記事を書いた古田大輔記者は、会場でTwitter実況をなさっていました。

あの場を通じて知り合った関係がきっかけとなって新旧のメディアでコラボが生まれたり、ひょっとすると引き抜きの話が持ち上がったりするかもしれません。

日本のメディア業界に、そういった変化の仕方の可能性があるのではないでしょうか。