ここから本文です
[PR] 

観光ブームで「見世物化」される少数民族、中国

AFP=時事 5月13日(火)18時31分配信

【AFP=時事】中国の少数民族の祭りをめぐる3週間の旅の間、舞い踊る竜の行進に加わり、闘牛に歓声を上げ、村人たちと一緒に民謡を歌う──すっかり魅了された観光客はこれまで見てきた光景を挙げる。

中国最後の「銃族」 ミャオ族の村

 色鮮やかなミャオ族(Miao)の伝統行事を見物するために、中国北部からはるばる南西部の貴州(Guizhou)省に飛行機でやって来たという40代の男性ヘさんは、少数民族をめぐるツアーの功罪をまさに体現している。

「彼らの文化はちょっとだけ遅れているが、その後進性ゆえに、ここには質素な暮らしぶりがあるんだ」。そう話しつつ、ヘさんはミャオ族の慣習について熱弁をふるい、女性たちが身に着ける刺繍入りの伝統衣装と銀製の頭飾りに賛辞を送る。

■暮らしの変化の功と罪

 中国の国内観光旅行は、ヘさんのような人々の存在によってブームが過熱している。この観光ブームは、比較的貧しい暮らしを送る少数民族の居住地域に経済的な効果をもたらし、衰退する一方だった伝統文化をよみがえらせている一方で、商業主義をまん延させ、少数民族に対する固定観念を強化している。

 少数民族が暮らす地域に旅行客が押し寄せることで、その地域のありのままの姿が変質してしまったことを、ヘさんも認めている。「まだ早い時期に貴州省を訪れた私たちは、その質素さを見聞できたけれども、この伝統的な暮らしぶりが数年後にも存在しているかどうかは分からない」

 中国で最も貧しい州の一つである貴州省では、州人口の3分の1が、政府が規定する55の少数民族のいずれかに属している。

 ヘさんは、舟渓(Zhouxi)地区で開催されるミャオ族の大きな祭りを観光した。この祭りでミャオ族の女性たちは、結った髪にピンで花を留め、床まで届くリボンを腰につけて揺らし、男性たちはバグパイプのような竹笛を高らかに吹き鳴らす。

 そして、すぐそばの棚には、観光客の記念写真用の民族衣装が並べられている。

 裁縫の仕事で生計を立てるワン・アフアさん(39)は文字を書けないが、服の注文が増え、その値段も今や1万元(約16万4000円)を超えるようになったと喜んでいる。観光客に見下されたりすることはなく、「楽しんでくれているようだし、とても礼儀正しい。彼らが来てくれるのは良いことだ」と話す。


■「観光客が見たがる幻想」

 中国の国内旅行産業は昨年10%拡大し、国内旅行件数は延べ33億件に上り、2兆6000億元(約42兆5000億円)を稼ぎ出した。

 所得を生み出すとともに、多様な民族の融和というイメージの促進を狙う当局は、少数民族を訪ねるツアーを含め旅行産業の振興を図っている。中国人口の92%は漢族だが、政府は少数民族を優遇する政策を採用し、テレビ番組や政治イベントに民族衣装姿で登場することを奨励している。

 過去数十年間、貴州省とそこに暮らす少数民族たちは、共産党が押し進めた農業集団化や毛沢東(Mao Zedong)の文化大革命(Cultural Revolution)による混乱に苦しめられたが、現在は省内の民族の文化資源を積極的に活用しようとしている。貴州省の観光業収入は2012年には30%増え、1860億元(約3050億円)に達し、同省の経済規模の4分の1を超えるまでに成長した。

 同省に展開する旅行会社は、精巧な銀製の装身具を身につけた女性たちや、木造家屋やろうけつ染め、伝統劇、水祭りなど、民族色あふれたプランを提供している。

 貴州省の観光業を研究する米エモリー大学(Emory University)の人類学者、ジェニー・チオ(Jenny Chio)氏は、観光客の訪問が道路の整備や収入機会をもたらす一方で、静かな村々を混雑したテーマパークに変えてしまい、観光客が持つ先入観に合わせることを地元の人々に強いていると指摘する。これは、隣接する雲南(Yunnan)省の麗江(Lijiang)や香格里拉(シャングリラ、Shangri-La)といった観光地が浴びている批判でもある。

「ある場所が観光地となると『観光客が見たがる幻想』を維持するために、そこで暮らす人々の時間はある時点で『凍結』されてしまう」とチオ氏はいう。


■「伝統の村」と過疎地の狭間で

 中国の諸民族について英オックスフォード大学(Oxford University)で研究するレザ・ハスマス(Reza Hasmath)氏は「教育を受けた近代的な人々とみなされるようにならなければ、少数民族が本気で収入を得ることはできない」という。「中国はまだ『少数民族の人々を知ろう』という段階を越えて、『少数民族を融合しよう』という方向に動いていない。(しかし)少数民族が非常に秀でた人々でありうること、勤勉で腕が立ち、雇用すべき人々だということを示す段階に来ている」

 民族間の信頼度を測る指標としてハスマス氏が挙げた中国政府の推計によれば、異民族間で結婚している少数民族出身者はわずか1%にとどまっている。チベット人やウイグル人との緊張は特に高まっており、中国政府に批判的な人々がいう「文化的抑圧」への反発として、しばしば自爆攻撃やナイフによる襲撃事件が発生している。

 祭りを観光客に見せるための広場を数年前に作った舟渓地区の住民たちは、観光客の流入が異なる民族間の関係を改善させていると話す。舟渓の中心部へと続く道沿いの壁には、貴州省の伝統芸能である太鼓演奏や闘牛の絵が漫画風に描かれている。

 舟渓で生まれたミャオ族のダンサー、セン・ミングーさん(21)は「他の地域で暮らす中国の友人たちに、私たちの文化を知ってもらうのは良いことだ」という。「私たちの経済は発展してきているし、知名度も少しだけ上がっている」

 一方、同じく舟渓の住民であるワン・ゼジュン(46)さんは、近くの西江(Xijiang)村のように経済的混乱に陥るのではないかと心配している。西江では5年前、車の往来もまれだったのに物価が急騰した。地元で見つかるのは掃除の仕事だけとなり、多くの人が職を求めて貴州省を出て行ったため、現在は観光客向けイベントの出演者を外部から雇っているような状況だ。

 西江には「見るべきものなど何もない。食べ物は高く、しかもまがい物ばかりだ。良いところなど一つもない」。隣村についてそう語るワンさんの18歳と20歳の子どもたちも、940キロも離れた場所で暮らしている。【翻訳編集】 AFPBB News

最終更新:5月13日(火)18時40分

AFP=時事

 

PR

ブラジルワールドカップ特集

注目の情報


朝日新聞デジタルselect on Yahoo!ニュース
Powered by My-Addr anonymous surfing service.
You can refresh current page and bar will disappears.