(2014年5月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ギリシャのネオナチ政党「黄金の夜明け」がじわり支持を伸ばしている〔AFPBB News〕
クリストス・パパディミトリオ氏は1980年代に、ギリシャ各地の病院で集中治療室(ICU)を立ち上げた輝かしい経歴の持ち主だ。引退した今は、新しいやり方で医療に携わっている。ギリシャのネオナチ政党「黄金の夜明け」の医療アドバイザーという仕事を無償で引き受けているのだ。
「失業して国の医療制度を利用できなくなった、さりとて民間の医療機関にかかる経済的なゆとりはないという人がギリシャには何万人もいる。彼ら(黄金の夜明け)は助けになろうとしている。だから私は自分から手を挙げたんですよ」
フランスで医師になる教育を受けたパパディミトリオ氏は、同党のアテネ本部に設けられたカウンセリングルームでこう語った。
パパディミトリオ氏は週に2度診察を行う。患者から病歴を聞き出し、黄金の夜明けの貧しい支持者に無償で医療サービスを提供する医師150人の中から専門医を選んで推薦するのが役目だという。
「危機のせいで、国の制度は恐ろしいほどの資金不足に陥っている。例えば、予防接種を続けることができなくなっているし、精神科医の診察はなかなか受けられない」と同氏は付け加える。「黄金の夜明けのネットワークは、そのギャップを埋めるのに一役買っている」
経済危機で有権者と政党の関係に変化
黄金の夜明けは、5年間で国内総生産(GDP)を4分の1以上減らし、失業率を26%超に押し上げた経済危機のがれきの中からギリシャ政界に飛び出してきた。同党のメンバーは、威嚇的な黒いTシャツを着て反移民政策を激しく主張し、たいまつを掲げたナチス式の行進を行うことで知られている。
パパディミトリオ氏が取り組んでいる福祉プログラムは、同党の運動の中では比較的目立たないが、この先何年もギリシャ社会に深い根を下ろそうとしている同党の指導部は、このプログラムを頼りにしている。
既に、このソフトなアプローチは一部で受け入れられつつある。国際社会からの救済の条件を満たすために政府が社会保障費の削減を余儀なくされたことから、自分たちは見捨てられたと感じる人々がギリシャには大勢いるのだ。
「危機のせいで、有権者と政党とのかかわり方が変わった」。キプロス大学のアントニス・エリナス教授(政治学)はこう指摘する。「黄金の夜明けは、社会福祉プログラムを通じて有権者に何かを提供し、そうすることで支持を固めていくというやり方を見いだしたようだ」