(cache) ワースト70連敗の東大 変革期迎えた大学野球界 - 47NEWS(よんななニュース)
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  • ワースト70連敗の東大 変革期迎えた大学野球界


     東京六大学野球でワースト記録に並ぶ70連敗を喫し、引き揚げる東大ナイン=20日午後、神宮球場

     東大野球部にとって、1勝が本当に遠くなってしまった。

     4月20日の慶大戦に敗れ、自らの東京六大学リーグの最多連敗記録に並ぶ「70連敗」。昨年から指揮を執る浜田一志監督があの手この手を駆使しても勝てない。

     5月3日からの早大戦も勝てる要素が少なく、不名誉な記録更新が予想される状況である。

     最後に勝ったのは2010年10月の早大戦だった。この試合は取材していたからよく覚えている。

     1年生の鈴木翔太投手が9安打2失点で、プロ入り直前だった斎藤祐樹(日本ハム)に投げ勝つ完投勝利だった。鈴木は三回までに2点を取られたが、そこから吹っ切れたように、球速120キロ台の直球とカーブをのらりくらりと投げ続けた。

     大振りする早大は追加点を奪えず、六回に追い付かれるとはっきり焦りの色を見せ、八回に大石達也(西武)が決勝点を取られての敗戦だった。

     ▽他大学と開く一方の戦力差

     他の5大学に比べて戦力で劣る東大が勝つとすれば、接戦に持ち込み、相手に「絶対負けられない東大」を意識させる展開しかないと思っていた。

     この勝利の後、二つの引き分けもあったし1点差負けは7試合あり、白星に手が届く展開もあった。

     ただ、東大の戦力を見ると、昨年から打力が弱く得点力が目に見えて落ちている上に、投手陣も一人(今春は辰亥)に頼るしかないのが現状で、推薦入学などで補強する他の5大学と差は開く一方なのである。

     浜田監督は学習塾をやっているが、その目的は「生徒を東大に入れ野球部に送り込むことだ」と明言している。

     また、全国を歩き勉強と野球のできる生徒をスカウトしているのだから、野球にかける情熱はすごい。

     監督就任と同時に、特別コーチとして元巨人投手の桑田真澄氏に教えを乞い、選手の意識改革に取り組んでいる。

     数年前から東大は元中日の谷沢健一氏に打撃を見てもらっている。こうした努力はいつか開花するだろうが、結論的に言えば「1勝ではなく勝ち点を挙げる戦略」を立てるべきだと思っている。

     ▽文武両道の足かせ

     勝ち点を挙げる戦略とは2、3年計画でチームをつくるということである。

     4年前に1勝を挙げた鈴木は今年からJR東日本に就職して社会人野球を続けている。鈴木は大学3年時に右肩を手術し4年は登板なし。野球に未練を残していたのであるが、この鈴木のように、東大野球部に入り1年から登板機会があることで、まだ肩がしっかりしていないときに投げることで、肩を痛める投手が実に多い。

     高校時代に鍛えていないから無理はないが、薄い戦力層の中でやりくりしながら、じっくり鍛えることが必要だと感じる。

     現在、野手として出場している白砂や初馬も1年から登板していたが、今は登板することはほとんどなくなった。

     ただ、2、3年計画といっても、学年が上になれば専門課程に入るだけに、今度は勉強が重くのしかかる。痛しかゆしである。

     ▽最高はリーグ2位

     東京六大学リーグに加盟した1925年からの通算成績は244勝1544敗55引き分けで、優勝はまだなく最高順位は1946年の2位である。

     かつては早慶から勝ち点を取ったり、法大・江川投手に黒星を付けたりした。NHKの夜9時の顔であるニュースキャスターの大越健介氏は現役時代には8勝27敗の成績を残し、1983年の日米大学選手権の日本代表に東大から初めて選らばれた右腕だった。

     これまで5人のプロ野球選手を出しており、昨年まで投手や野手をやっていた井坂肇が6人目のプロ選手として北信越BCリーグの長野に入団してプロ野球を目指すそうだ。

     ちなみに、関西学生連盟の京大は旧関西六大学時代の1934、39年の秋にリーグ優勝している。現在、150キロ近い速球を投げ、昨秋まで4勝を挙げた4年・田中英祐がプロからも注目されている。

     ▽首都大学1部は8チームに拡大

     東大と他大学との選手格差が広がるように、他の大学野球でもそうした傾向が見られる。

     「戦国東都」といわれるほど1、2部の戦力差がないといわれた東都大学では、亜大が史上2校目となる6連覇を目指し、順調な足取りだ。

     2010、11年の全日本大学選手権に2連覇し、最強と言われた東洋大は2部に沈んだまま。日大や東都で最多優勝31回を誇る専大も1部に上がってこられない。

     1部でも青学大の選手たちは授業日数確保に苦しんでいる。野球部に力を入れられる大学とそうできない大学では、徐々に差がついていくだろう。

     この図式は高校野球にも言えることであり、甲子園至上主義となり、それが底辺拡大に逆行しなければいいと、いつも思っている。

     巨人・菅野の母校、東海大や日体大が所属する首都大学リーグは今年、大胆な改革をやった。

     これまでの1部6大学を8大学に拡大するとともに2勝先勝方式の勝ち点制をやめ2試合のリーグ戦を勝率で順位を争うことになった。

     これまでの平日の試合を極力避け、土、日曜日を使うことで授業出席を確保している。「野球だけやっていればいい」時代は去ったのかもしれない。考えさせられる首都大学の決断である。

    田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

    1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆

      【共同通信】