「すみません。すみません」
学長の挨拶が始まっている中、人の迷惑も顧みず、足をどけてもらいながら席に着く。それにしても式典というのは退屈だ。ウイットのひとつもなく、知らない人の話を聞くのはかなりの忍耐を要する。しかし、それはどうも私だけではないらしい。他の保護者も聞いているのかいないのか、全体にボーッとした空気が漂っていた。
そのとき、尼野という元大臣の名前がアナウンスされた。政治家には珍しく、大臣在職中から尼野の尼をとって、「アマ爺」のニックネームで絶大な人気を誇った大物だ。保護者席はにわかに騒然となった。背もたれに預けていた上体が前のめりになって、「オウ」と唸るような低い声があちこちであがった。あまりのどよめきに、階下の学生が思わず保護者席を見上げたほどである。