戦略的パートナーシップ協定(SPA)の交渉で、欧州連合(EU)が日本に対して「人権条項」の設置を要求し、日本側が反発しているとの報道がありました(時事通信、5月5日)。SPAの人権条項とは、日本で人権侵害などが起きた際に経済連携協定(EPA)を停止できるというものです。



 人権侵害というと開発途上国のイメージが強いですが、EUは日本の死刑制度をたびたび批判しています。人権をめぐる日本の現状はどうなっているのでしょうか。


死刑制度は世界の非常識か

 2009年の内閣府による世論調査では「場合によっては死刑もやむを得ない」が85.6%で圧倒的多数を占めました。この質問そのものが「死刑賛成」とストレートに結びつくか疑問もあります。特に「場合によっては」の部分。ただ「容認」であるのは確かでしょう。理由の上位は「被害者や遺族の気持ちがおさまらない」「重大犯罪は命で償うべきだ」「犯罪を抑止する効果がある」などです。



 これに対して国際世論は死刑制度はともかく執行の停止の方向へと動いています。2007年の国連総会では「死刑執行の一時停止」決議が採択(採用)されました。翌年には国際人権規約(国連が1966年採択。日本は79年に原則批准)委員会が確定死刑囚の扱いの改善や執行日時の事前通告を日本政府に勧告しました。



 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調べだと死刑廃止国(事実上の廃止も含む)は世界の3分の2。執行しているのは約20か国に過ぎません。死刑執行数の断トツ1位は中国で、イラン、イラクなど中東の国が多く含まれます。イスラム諸国は欧州の法制度とは別の「イスラム法」に依拠するためです。先進国で制度が存在して執行が行われているのは上位10か国のうちアメリカと日本ぐらいです。



 ただアメリカの場合は州によって異なり、死刑制度がある州も執行する日や方法などを本人はもちろん家族や被害者遺族、マスコミにまで公開し、執行の立ち会いまで多く許されます。「正しい死刑のあり方」を常に議論しているのです。死刑囚への取材も正規の手続きを踏めば可能です。



 それに対して日本では取材など到底無理。執行は当日の朝に本人に知らせる仕組み。以前は事前通告していたのですが、今は自殺防止など「心情の安定」などを理由に当日となっています。国際人権規約委員会の勧告はまさにこの点を突いています。廃止派の主な主張は「生きてこそ償える」「国家だからといって『殺人』は許されない」「冤罪(ぬれぎぬ)であったら取り返しがつかない」などです。