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2011年8月23日 (火)

お盆に読んだ本②松井英介『見えない恐怖──放射線内部被曝』(旬報社)

お盆に読んだ二冊目の本はImage1485
松井英介『見えない恐怖──放射線内部被曝』(旬報社)です。

松井さんは岐阜大学医学部附属病院勤務、放射線医学講座助教授を経て、現在は環境医学研究所所長。

今最も読まれるべき素晴らしい本だと思いました。

放射線とは何か、内部被曝はどのようにして起こるか、原子力発電と内部被曝とはどのように関係しているのか、広島と長崎の被爆者や、ビキニ水爆実験の内部被曝がいかなるものだったか、劣化ウランなどの場合はどうか、放射性物質を掘り出すことの危険性とは何か──素人でも分かるように平易に、かつ素人には気付かない問題の死角を提示し、説得力のある論理と展開に、科学が苦手な私もぐいぐい引き込まれました。

例えば放射線というものがどうして癌を引き起こすのか。
それに対する以下の説明は、目からうろこでした。

「水は『H2O』ですが、放射線によってイオン化された水素イオンと水酸基イオンがくっつくと『H2O2』=過酸化水素になります。これは非常に強力な化学作用をもっていて、昔は『オキシフル』や『オキシドール』などとして、消毒に使われていました。つまり、微生物を殺す力=靜菌作用がある物質が人間の細胞の中にできるのです。それによって、細胞の中の小さな器官である染色体・遺伝子を損傷する、それが間接効果としての『被曝』です。/このように、分子をイオンに分解することができる放射線を『イオン化放射線』といいます。イオン化放射線には、エックス線のほかにアルファ線、ベータ線、ガンマ線があります。分子をイオン化する力のない『非イオン化放射線』を一般には『電磁波』といいます。」

なるほど、と思いました。例えば今問題になっているセシウム137は、ベータ線という粒子線を出すといいますが、そのエネルギーが直接遺伝子を傷つけるという以外に、細胞の周囲や内部の水をイオン化して、「オキシフル」を作って間接的に遺伝子にダメージを与えるんですね。
二重の損傷を受けることになるのだと知り、恐怖も倍化しました。

松井さんの本は、さらに社会や歴史にも踏み込んでいます。だからこそ説得力と読み応えがあり、放射線について、恐怖だけでなく知的関心を高めるものになっていると思います。

何よりも松井さんの医師としての姿勢が素晴らしいのです。
内部被曝研究に関わった原点には、幼少期、弟と妹を空襲で亡くした経験があります。
そしてイラク戦争──。

「そして9.11の後、米軍が、サハラ以北で経済的にもっとも貧しいといわれた国に空襲をかけたとき、これに抗議する行動に加わりました。ウラン兵器によって子どもたちが深刻な被害を背負ったのを知ったとき、二〇〇三年七月六日アフガニスタン国際戦犯民衆法廷で、ひとりの医師として、内部被曝の健康影響について証言しました。同年十月一六日から一九日にハンブルクで開かれたウラン兵器国際会議でその経験を報告しました。そこで私は、世界各地に広がる内部被曝と、それによる深刻な晩発障害を実感することになります。」

私がこのような素晴らしい本と出会えたのも、やはり『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』を通してです。同書を介して知り合った、岐阜朝鮮初中級学校を支援する「ポラムの会」を主宰されている松井先生の奥様が、この本を贈って下さいました。

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コメント

 まさに今だからこそ、「日本人」は被曝のグローバル化を考えなければならないのかもしれないと思いました。私も読みます。

本日、書評もアップしましたので、ご覧下さい。

この原子力とか、放射能の問題は、このさき、どういう風に継続的に、又、グローバルに取り扱われてゆくのか?が、もっとも重要な事だと思います。すでに、国際機関としての組織も出来ているのに、ほとんど、無視化されているように思います。真剣に取り組んでいないのです。エコよりも、エコノミーの優位です。これは、悲観的な状態です。人類は、地球に現れて以来、さまざまな問題を、なんとか解決してきました。が、今度は、何世紀かかるかわからない問題を抱えてしまったと思います。今は幸いにして、ウイルスの攻撃が一休みですが、この二つで人類滅亡説も成り立たないということは言いきれなくなってしまいました。これを解決してくれるヒーローが待ち遠しい。そんなことしか、僕個人としては
考えられません。

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