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2010.04.14
特集:蛍光顕微鏡を学ぶ〜改訂 顕微鏡の使い方ノート(羊土社刊)より抜粋〜 【第1回】蛍光顕微鏡の特徴と蛍光の原理
1.蛍光顕微鏡の特徴
蛍光顕微鏡は、1900年代初めに発明され、「蛍光抗体法」(蛍光免疫染色標本の観察)の発明とともに発展してきた。近年は、生細胞の観察ができる光学顕微鏡の利点を活かして、細胞生物学・分子生物学の分野に活躍の場が広がっている。蛍光観察は、試料に標識した蛍光色素または蛍光タンパク質そのものの蛍光シグナルを観察する方法で、以下の特徴・利点がある。
対象(検出したいもの)の大きさが、波長と開口数に依存する分解能よりかなり小さくとも、その存在を検出・可視化できる→タンパク質1個の検出も可能
対象を特異的に、そしてその局在や移動を検出・可視化できる→高感度
蛍光の明るさや色(蛍光波長)の変化を検出することができる→細胞内イオン濃度の測定など、定量的な解析に応用できる
蛍光の色(波長)の違いを利用して、多重染色標本の観察ができる→複数の対象を同時に検出・可視化できる
2.蛍光の原理
蛍光やリン光と呼ばれる現象がある。これは物質に外部から紫外線やX線を当てたときに、特定の波長の光を出す現象である。物質に紫外線やX線が照射されると、その物質の原子がそのエネルギーを吸収することによって電子が基底状態から励起状態に遷移し、その後安定を保てなくなった電子が、吸収したエネルギーを光として放出して再び基底状態に戻るのである。このときに照射する光のことを励起光と呼ぶ。
蛍光とリン光とでは、励起光を受けてから発光するまでの物理的な過程が異なっている(表1-1、図1-1参照)。
表1-1 蛍光とリン光の違い
図1-1 蛍光とリン光の発光過程
蛍光は励起光の照射を受けてから発光するまでの時間と、照射をやめてから消光するまでの時間が非常に短いという特徴がある。これは蛍光顕微鏡の高時間分解能(※a)に寄与している重要な性質である。
さらに蛍光には以下に示す4つの性質があり、これらはすべて蛍光顕微鏡の構造、機能や使い方に密接に関わっている。
非常に微弱な光である(励起光の強度の10-6程度)
波長が、励起光の波長より長い
退色もしくは消光する(励起光を当て続けると、出てくる蛍光の強さはだんだんと弱くなったり、全く消えてしまう)(※b)
蛍光物質の周りの状態(溶媒、温度、pH、蛍光物質と他の物質との結合状態など)によって、波長や強度が変化する(※c)
蛍光観察をするための標本を蛍光標本と呼ぶ。蛍光標本は細胞、染色体や生物組織の切片標本などを蛍光色素(蛍光試薬あるいは蛍光プローブとも呼ぶ)で染色したり、遺伝子工学によって、組識や細胞に蛍光タンパク質を発現させて作製したものである(※d)。
ただし、染色といっても見た目でわかるような色がつくわけではなく、蛍光試薬が分子単位で特定の部位に結合した状態、あるいは蛍光タンパク質を利用する場合には、組識や細胞そのままの状態である。
(※a)生きている細胞の変化する様子(例えば、カルシウムイオン濃度の変化など)を、実時間の画像としてとらえることができる。
(※b)蛍光色素が酸素と結合することによって、漂白されてしまうのが主な原因といわれている。励起光が強ければ強いほどその反応が早く進む。明るい蛍光像を得るために標本には強い励起光を当てたいところであるが、退色も早くなる。
(※c)光の波長は通常nm(ナノメートル)の単位で表す。光は広い意味で電磁波すべてを指す場合があるが、人が眼で感知できる光の波長帯を可視光と呼ぶ(100nm=0.1μm)。
(※d)使用する蛍光試薬や標本の作製方法にもよるが、蛍光標本は冷暗所(冷蔵庫など)で保存して、よくて2〜3日から1週間しかもたない。作製してすぐに顕微鏡観察するのが望ましい。持ち運ぶときは遮光できる箱に入れ、できればクーラーボックスで冷やせるとよい。冷凍してはならない。