これでは正当な民意の反映とはとても言えない。

 ウクライナ東部の二つの州で事実上の独立の賛否を問う「住民投票」が強行された。

 親ロシア派は、有権者の7割超が投票し、9割近くが賛成したと主張している。さらに次はロシアへの編入を問う投票をめざすと気勢を上げている。

 だが、武装集団が見張る中での投票で、選挙監視団もなかった。テレビカメラの前で堂々と2票投じた人すらいた。

 この手続きをもって、分離独立やロシアへの編入などを進める正当性はない。

 投票を前に一部で武力衝突したウクライナ暫定政権と親ロシア派は、冷静さを取り戻すべきだ。事態を打開するために何が必要かを考えねばならない。

 大事なのは、東部の住民を含む国民全体の合意にもとづく新しい国家づくりである。そのためには25日の大統領選挙が重要な一歩となる。

 公正な手続きで新指導者を選んだうえで、親ロシアの東部と米欧寄りの西部の和解を進め、国の再建を図らねばならない。暫定政権も親ロシア派も、これ以上、不毛な対立を長引かせる余裕はないはずだ。

 親ロシア派は今回の住民投票の「民意」を盾に政治力を高めたいようだ。だが、東部住民の意識は複雑だ。ロシア語が母語の住民は7割だが、民族的なロシア系は4割にとどまる。

 今回「賛成」を投じた住民でも、ロシア編入を求める人、自治権は望むが独立は求めない人、暫定政権に不満を示したかっただけの人など、多様だ。

 そんな状況で分離独立やロシア編入へと突き進めば、ウクライナ社会はばらばらになりかねず、泥沼の内戦へ陥る恐れすら現実味を帯びる。

 親ロシア派が住民の将来を案じるというなら、公庁舎の占拠などをやめ、住民の多様な声に謙虚に耳を傾けるべきだ。

 一方のウクライナ暫定政権ももっと国民対話に力を入れてほしい。地方分権をどう広げ、親ロシア系住民の権利をどう守るのか、早急に説明が必要だろう。東部の警戒を解く努力なしに、大統領選は成功しない。

 ロシアのプーチン大統領は住民投票の延期を求めたが、いまだに国境からのロシア軍部隊の撤収は確認されていない。混乱収拾に真剣に取り組んでいるのか疑念を抱かざるを得ない。

 ウクライナの混迷の長期化はロシアを含め、誰の利益にもならない。米欧など国際社会は大統領選の公正な実施へ向けて、働きかけを強めるべきだ。