小学校校長逮捕 覚せい剤事件徹底捜査を
学校教師の立場は時に「聖職」と形容される。単に学習指導を行うだけでなく、人間としての生き方を教えることも期待されるからだろう。校長は、その教師のトップに立つ学校の最高責任者だ。それだけに、教え子や保護者、教育関係者が受けた衝撃も大きい。
福岡県春日市の市立小学校校長が、高知県警に覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕された。8日に春日市内に置いていたバッグの中に、小分け袋に入れた覚せい剤の結晶を若干量所持していた疑いだ。にわかには信じられない話だが、校長は「所持は間違いない」と容疑を認めているという。
高知県警によると、高知市に住む男の覚せい剤取締法違反事件捜査の過程で校長の容疑が浮上し、今月8日に同法違反容疑で自宅や勤務先を家宅捜索した。
この際、手提げ袋の中から小分けした覚せい剤や注射器数本が見つかった。ただ、同日は校長の持ち物と確認できなかった。校長は「知らない」と否認していたが、9日に覚せい剤が入ったバッグを県警が入手して調べると「所持は間違いない」と認めたという。
校長に覚せい剤を譲り渡したとみられる福岡市の男も、7日に同法違反(有償譲渡)容疑で逮捕されている。高知県警は校長とこの男を知人同士とみて調べている。
校長が覚せい剤に手を染めた動機や背景なども含めて、徹底的に真相を解明してもらいたい。
昨年9月に福岡県職員が同法違反(使用)容疑で逮捕され県民を驚かせたが、同県教育委員会によると、過去に覚せい剤所持で処分された教職員はいない。校長が覚せい剤に関係して逮捕されるのは、全国的にもまれな例だろう。
校長は、子どもたちにとって特別な存在である。逮捕された校長も、別の小学校の校歌を作曲するなど「音楽を愛し、誠実」と評判の教育者だった。子どもたちが大人へ不信感を抱かないか心配だ。
春日市教委は児童の動揺を抑えるため、12日からスクールカウンセラー2人を逮捕された校長の小学校に配置するという。指導主事も派遣して学校運営を支援し、後任校長の決定を急ぐよう県教委に求める。子どもたちが一日も早く通常の学校生活を過ごせるよう最善を尽くしてほしい。
同時に、県教育界全体が事態を深刻に受け止めてもらいたい。
それにしても、覚せい剤が社会にまん延しつつある現実には、がくぜんとする。医師や弁護士、警察官が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された事例もある。
薬物事件に詳しい弁護士は「今や覚せい剤は暴力団関係者などではなく、普通の人がインターネットで販売する時代だ」と警鐘を鳴らす。誰でも簡単に入手できるということだろう。薬物の流通の変化に取り締まりが追いつかない側面もあるのではないか。関係機関は早急に対策を講じるべきだ。
=2014/05/11付 西日本新聞朝刊=