いわゆる典型的なラーメンと一線を画す「アートマサシヤ」の旨口ラーメン。
異業種からラーメン屋を始める方は今でも跡を絶ちませんが、2011年1月創業の「アートマサシヤ」は人気セレクトショップ・BEAMS(ビームス)で役員まで務めたアパレルのスペシャリストが日々腕を振るうラーメン専門店。
シャレたダイニングバーのような空間で上品にまとまったラーメンをクルクルクル~っとレンゲの上でミニラーメン作って啜るんかい、そう思われる方も少なくないかもしれませんが、そもそもオシャレとは到底無縁なおれがそんな飲食店を紹介できるワケがなくむしろそういった“いかにもな雰囲気”とは異なる、良い意味でのんびり落ち着けそうな店内でいただいた1杯はなかなか印象的でした。
道玄坂上の隠れ家的ラーメン専門店「アートマサシヤ」
店舗情報
店名 | 純天然だしラーメン アートマサシヤ |
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住所 | 東京都渋谷区南平台2-8 日興パレス南平台アズマ1F(地図) |
電話番号 | 080-4437-5511 |
営業時間 | 11:30~15:00(売切れ次第終了) |
定休日 | 水曜日 |
最寄駅 | 神泉駅、渋谷駅 |
リンク | 鐘ヶ江 元 (genkanegae) on Twitter |
神泉駅徒歩7分、渋谷駅徒歩9分。お店のことを知らずに偶然ふらっと訪れるのは少々難しい立地
毎日大量の騒音と排気ガスを撒き散らしている渋谷道玄坂上なんですが、
しれーっと設置されている立て看板に導かれるように1本路地に入ると、
大通りとは打って変わった静かな表情に。
ガツガツした攻めの姿勢とは無縁の落ち着いた外観。
BEAMS退職後、独学・無修行の末に沖縄県の首里城近くに「島ラーメン正志や」を開業したご主人は、しばらく経った2011年に現住所で「アートマサシヤ」として移転オープン。店名の“アート”は同地で20年以上営業していた喫茶店「アートコーヒサロン」に敬意を表して冠したとのこと。
カウンター7席、4名掛けテーブル2卓、レトロ喫茶のような店内
ようなというか、元々が長年喫茶店だったんですよね。
接客は店主と奥様の二人三脚で、「千駄木・神名備」や「東十条・燦燦斗
」とはまた違う、同じラーメン屋でいえば「四谷三丁目・まるいち
」や他業態だと「下北沢・大阪屋
」に近い、良い意味で肩の力が抜けた、この店の雰囲気に合った切り盛りに思えました。
座り心地良さ気なソファ席がこちらともう1卓。
かつてはこの空間でコーヒーや軽食が振る舞われていたんですよねぇ。
居抜きでラーメン専門店をオープンする場合は元ラーメン屋店舗のいいとこ取りをしちゃうのが手っ取り早いんですが、そうじゃなくわざわざ老舗喫茶店だった場所に目を向けるあたり、いわゆるセオリーにとらわれない、ああ、オシャレの達人ってファッション誌だとかに掲載の鉄板コーデを鵜呑みにしない、むしろおれ(あたい)が流行を作ってやんよ的な気概すら伺えるワケですが、こちらの店主もかつてはその手のオーラなんかがビンビンだったのかもしれませんね。
「アートマサシヤ」のメニュー一覧
入口右手の券売機で食券を購入。※最新価格は店舗でご確認下さい。
味の調整は「旨口」「旨口α」「濃口」の3種類から選択でき、酸味と辛味が加わった酸辣メニューも用意されています。
- 旨口
- 醤油たれと香味油を魚介の出汁に合うようバランスよく配分し、あっさりとした中にも滋味深さのある味に仕上げました。
- 旨口α(アルファ)
- 通常の「旨口」より油とタレが多めで「コク」が増しています。旨口を注文の際に「α(アルファ)で」と口頭でお伝えください。
- 濃口
- よりコクの深い醤油たれと、香味油を多く合わせることで、旨口よりも力強い味に仕上げました。※しっかりとした味を望まれる方はこちらをどうぞ。
初めて食べるなら基本でしょということで、旨口ラーメンと一番摘みの焼海苔、〆の雑炊用として白飯(小)を注文。
ホントなら味付玉子と焼海苔がセットになった特製シリーズにしたかったんですが、初回訪問時は閉店間際の入店だったこともあり完売、無理やり軌道修正を図ろうとこれらのチョイスと相成りました。
センスが光る小物使い。調味料はシンプルにミルペッパーと唐辛子。
店頭でも告知されているように、
ラーメンは化学調味料等を一切使用しない無化調・無添加、健康状態を整える上で必須とされるミネラル(カルシウム・マグネシウム等)豊富な1杯。
店内には1杯のラーメンに対するこだわりが蘊蓄として飾られているので、それらに目を通して待つも良し、ランチタイムのみの限られた営業時間に足を運べたことに感謝しつつ穏やかな時の流れをしみじみ感じ取るも良し。
「アートマサシヤ」の純天然だし旨口ラーメン700円
見た目あっさり、酸味の効いた滑らかな魚介系和風スープ
ラーメンというよりは直感的に蕎麦を想起させる見た目。
具はチャーシュー、三角形の薄焼き玉子、刻みネギ、水菜。
国内産の煮干し、節類、昆布等をふんだんに使い時間をかけてとった出汁に合わせるのは、天然醸造の小豆島産醤油をベースに、純米酒、伊豆大島の海塩、糖蜜を一切加えない沖縄多良間産の純黒糖を用いて作った醤油たれ……
に、さらに豚の脂身をじっくり加熱して取り出した自家製ラードに純正胡麻油を合わせ、ネギを焦がして風味づけした香味油によるもの。
要するに物凄いこだわりの賜物とも言える魚介系和風スープで、1口啜った際になぜか脳裏をよぎったのは……
シュパッ。
彩子さんやその他の面々を戦慄させるスリーポイントシュートを海南の神が決めた瞬間なのでした。
丼にタレと香味油を入れてスープを張る単純作業も、そこに至るまでに積み重ねられた経験と努力が類まれなるシューターを創り上げるように、作り手が変わればこうも変わるのか、そういった何かを見せつけられた気がします。
高密度で風味豊かな中太麺と卵焼き、対照的に儚い焼海苔
みっちり。そんな言葉がピッタリ、独特な味わいの中太麺。
奥深い醤油スープをしっかり受け止めつつもキラリと光る個性。おれはスープのアブラで唇がキラリ。ミネラルを排出させるリン酸を含まないかんすいが使われているそうです。
キラリと言えば、意外と存在感を発揮していたのが薄焼き玉子。
今やラーメンのタマゴと言ったら味付きの半熟煮玉子が主流でそれに慣れ親しんじゃっているせいもあるのかな、麺に負けないくらい身の詰まった感じがして素朴ながらも記憶に残る名脇役。
狭いゲージに押し込められた鶏ではなく、雌雄で平飼いにされ元気に動き回る健康鶏の有精卵を使用しているそうで、そいつは最近何かと話題の美味しんぼもびっくりのチョイスですね。この玉子焼きのトッピングもできたら良いのにな。
醤油っ気の効いた香ばしいチャーシューも、
出汁をとった後の豚肉を流用して作ったとかじゃない、チャーシューのために仕込んだ肉って感じの良好な仕上がり。チャーシューメンにすると計4枚乗るようで、質の高いポークタイム(どんなタイムだ)が過ごせそうですね。
別皿で正解、忘れずに頼みたい一番摘みの焼海苔。
昔ながらの製法で作られたという本格志向で、ハリハリとした優しい歯触りと磯の香りが心地良く、スープに長く浸すと溶けてしまうとのことですが「それもまた旨し」と添えられる薀蓄にニヤリ。
月に数日のみ登場の無料トッピングと〆の雑炊
クルトン?いいえ、油かすです。
「アートマサシヤ」ではアンダーカスと命名しているそうで、スープにコクとまろやかさがプラスされます。
試しにそれなりの量を投入してみましたが、良質な天然素材の搾りかすだからなんでしょう、嫌らしさや下品さは皆無でした。
アートマサシヤです。油かすファンの皆さま、無料トッピングアンダーカスのご提供は本日3日までです。
ラーメンに投入すると、まったりとしたコクが増します。未経験の方は是非お試しを。ご来店お待ちしています。 pic.twitter.com/msq52Ep0cR
— 鐘ヶ江 元 (@genkanegae) 2014, 5月 3
毎月何度かTwitter上で告知されるので、気になる方は狙って訪問してみてはいかがでしょうか。
残ったスープにライスをぶち込み雑炊にして召し上がります。
普通のラーメンスープと異なる趣き。生卵や醤油タレを投入しても美味だそうですが、今回はシンプルに唐辛子をパラリかけるだけに留め、米を入れても上品さが失われなかったからその分ズゾゾとお下品にいただいてしまうのでした。
既成概念にとらわれない、本当にオシャレなラーメン屋
我ながらキレイに完食したなと自分で自分を褒めたくなりました。
化学調味料や添加物不使用を掲げるラーメン専門店は増え続ける一方ですが、単にそのことだけを謳い文句にするお店が多いのもまた事実。高級食材を駆使して生み出される1杯は健康面でも優れているんでしょうが、それだけがお店の価値を決めるもんじゃありません。
高くて流行の服を着飾ってもオシャレと呼べないように、味だ店の雰囲気作りだ接客だ何だをバランス良く考えた上で導き出されるひと時に癒やされるんだろうし、癒やされたいがために足を運ぶんだと思うし、「アートマサシヤ」に漂うのは既存のラーメン店にはちょっとないオシャレな空気、アパレル業界の経験が存分に活かされているように感じました。
後日頼んだ酸辣特製旨口ラーメン。
山椒やラー油の爽快な辛み、でもそれだけにまとまらない弾ける感覚、
海南の神さんで例えるならSWISH!クセになる方も多そうですね。
ちなみに完食したけど汚いのでこちらはモザイク処理済み。
次回は通常タイプよりもコクが増すらしい旨口αを注文してみようかな。