• 遺伝子組換え作物に対する生産者の期待(2)

    新読み書きバイオ

     2014年5月12日

    前回に続き、遺伝子組換え(以下GM)作物の栽培を切望されている北海道の農業生産者のお話を聞き書きの形でご報告します。

     今回はビート(テンサイ)を栽培されている小野寺靖さん(北見市)のお話で、前回の宮井能雅さん(長沼町)と同じく、GMの特定除草剤耐性品種を導入できたらどのようなメリットがあるのかということについて、労働時間、労働の質、コスト、収益など試算を示してお話しされました。

    「北海道のビード(てんさい)生産現場の現状と特定除草剤耐性テンサイへの期待」
    北海道北見市 小野寺靖さん

     北見市常呂町で、テンサイを32%、馬鈴薯32%、小麦28%、野菜にんにく8%を3年輪作して連作障害を避けるようにして栽培しています。

     また、テンサイは「政府管掌作物」で凶作でも補償されるようになっていて、あまり儲かりませんが安定収入になります。

     テンサイは日本では北海道でしか作っていなくて、ホウレンソウのような葉でカブのような根をもつアカザ科の植物です。サトウキビとならび砂糖の主要原料で、日本国内で栽培されている甘味作物由来の砂糖の75%が、テンサイから作られています。テンサイの栽培には、温室で苗を作って移植する方法(収量が10~15%高くなる)と直播(畑に直接種をまく)があり、私は移植栽培をしています。

     テンサイから作られる砂糖は主にグラニュー糖(高純度の糖液から作る無色結晶状の砂糖)で、スティック砂糖や、お菓子、アイスクリーム、チョコレートなどの甘味料として使われています。

    テンサイの出来るまで

     北海道のテンサイの10a当たりの収量は欧州と同じぐらいです。

     移植の場合は、雪が残るうちからビニールハウス内で苗を育て、移植機で畑へ植えていきます。直播の場合は4~5月に畑へ直接種まきします。

     私の農場で使っているテンサイの種のほとんどは輸入の海外品種です。テンサイは2年草で、1年目は花が咲きません。また、この種はF1種です。

     テンサイがある程度育ってきたら、中耕といってカルチベータ(耕うん機)で苗のない場所を耕して土に空気を入れ、それと同時に雑草を除去します。

     テンサイの栽培には除草剤が必須です。除草剤散布は6月上旬と7月上旬の2回(農薬の散布回数の制限がある)、殺菌剤は7から9月にかけて5回、殺虫剤の散布は7月と9月の2回(殺菌剤に混ぜて散布)を行います。私の農場では36haの農地の約3割、12haでテンサイを作っていますが、このテンサイ栽培にかかる除草剤費用は多く、36ha全体にかかる除草剤代金の7割がテンサイ栽培に使われています。

     さらに、テンサイ栽培の除草でいちばん負担になっているのは、除草剤の代金よりも、6月にホー(hoe/鍬形除草器)という道具を使って行うホー除草と、8月に行う手取り除草です。テンサイの生長状況、天気や温度、湿度と、農薬を撒くタイミングがうまく合わないと今の除草剤では効果が低く、その場合は手作業に頼るしかないのです。

     収穫は10月末から11月初め。時速10kmのハーベスタ(収穫機)で、5~6日かけて収穫します。12haで750tほど穫れます。

    GMの特定除草剤耐性テンサイ(以下GMテンサイ)の有効性

     GMテンサイと除草剤によって完全な除草ができれば、手取り除草は不要になるでしょう。

     テンサイ畑の除草には、10a当たり2時間かかります。このため1,200a(12ha)には240時間かかります。1人が1日に8時間作業するとしたら、30人日の手取り除草が必要ということになります。

     GMテンサイの最大の魅力は、除草剤の散布に関するストレスから解放されることです。除草剤の効果は、雑草の大きさや散布前後の天気や湿度の影響を受けます。そこで、散布のタイミングの見極めや散布直後に雨が降らないかなどの心配は、精神的にも肉体的にもかなりの負担です。しかし、すでに作物が育っている圃場に対してラウンドアップという除草剤が使えるならば、散布に適した時期の幅が広く、雨が降りそうなときを除けばいつでも散布できますので、この負担は相当に軽減されます。

     労働時間について、①従来の移植型(苗を作って、移植する)、②GM移植型(GMテンサイ苗を作って移植する)、③GM直播型の3つを比較してみましょう。②でGM品種を使うと除草の時間が減ることで、労働時間は20%低減されます。さらに③で直播にすると苗を育てたり移植したりする労働時間が減り、労働時間はトータルで60%低減されます。

     労働費、薬剤費を含めてトータルのコストを、①、②、③で比較すると、①を基準にして、②は12%減、③は29%減になると推測されます。

     ちなみに、草の生えやすい畑かどうかによって、移植/直播のどちらが適するかは変わりますが、GMテンサイの場合は除草効果が高いので、直播が容易になるのではと思います。

    GM直播で収支は3割以上改善する

     10a当たりの損益は以下のようになります。移植型より直播型のほうが収量は減りますが、生産費がGM直播だと2割ほど減るので、交付金を加えた損益は、GM直播が3割以上、高くなります。

     
    ①従来品種の移植
    ②GM移植
    ③GM直播
    労働時間14.82時間12.34時間6.2時間
    売上高65,790円65,790円55,926円
    生産費95,450円84,145円67,817円
    所得▲29,660円▲18,355円▲11,891円
    政府管掌作物交付金 ※45,945円54,945円39,970円
    最終損益16,285円27,590円28,079円
    比較11,305円11,794円

    ※政府管掌作物交付金:6,410円(t)×収量

     以上から、GMテンサイのメリットとして以下が挙げられます。

    • ・女性労働の軽減(女性というと差別みたいですが、実際の手取り除草をしているのは女性です)
    • ・除草剤を適期に使用するための精神的、肉体的ストレスからの解放
    • ・完全な除草の実現
    • ・農薬使用量の削減

     コストだけでなく、労働時間の短縮(効率化)や雑草の管理によるストレスからの解放が大きいことを、消費者にわかってもらいたいと思います。

    佐々義子

    くらしとバイオプラザ21常務理事・主席研究員 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。生物科学博士。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。「食の信頼向上をめざす会」幹事。