ドイツ:脱原発…進む石炭依存 電気代1.7倍に
毎日新聞 2014年05月10日 08時49分
◇「強風は要注意」
再生エネの普及に伴い、送電会社の負担も増えている。発電が天候に左右される分、需給調整に気を配る必要があるからだ。
大手送電会社「50ヘルツ」がベルリン郊外に設置した送電管理センター。正面の巨大パネルにはドイツ東部の送電網や発電所が縦横に表示されている。センターは、風が弱く風力発電が難しい日には管内の石炭火力発電所などに連絡し、発電ペースを上げてもらう。逆に強風で電力を過剰に生産すると、今度は「発電ストップ」も依頼する。ケーブルに過度な負担がかかり、停電の恐れが高まるためだ。
取材に訪れた日も、送電網を示すラインの上に時折、黄色のマークが現れた。「これが送電ケーブルに負担が増えている場所です」。システム運用部長、グンター・シャイプナー氏が説明する。室内には4人の職員が詰め、正面パネルと1人あたり6台のパソコン画面を見つめる。8時間ごとのシフト制で、24時間態勢で周波数などを監視する。
部屋には空調がよく利いていたが、画面を凝視する職員の額には汗がにじむ。12年、発電の増減を依頼した回数は過去最多の年間262日に上った。脱原発決定前年の10年は年間160日だった。職員の負担は増える一方という。「強風の時期は要注意。昨年12月上旬、巨大ハリケーンがドイツを襲った時は対応に追われた」(シャイプナー部長)。嵐など特別な天候状況を想定した「模擬訓練」も頻繁に行い、常に冷静に対処できる人材育成に力を注いでいるという。
◇地域差も課題に
送電網の整備も遅々として進んでいない。政府は22年までに、風力に恵まれた北部から産業拠点が集中する南部まで、計約2800キロの送電線を整備する計画だ。だが、大消費地の南部バイエルン州では、自然破壊や健康被害への懸念から高圧送電線建設の反対運動が起き、ゼーホーファー州首相が「建設阻止に全力を挙げる」と建設予定地の住民に約束。同氏はメルケル政権を支える連立与党の実力者のため、「バイエルンの反乱」などと騒がれている。
反対運動はドイツ各地で展開されている。住民側は主に送電線の地下埋設を求めているが、電力会社側はコストの増大を理由に拒否。工事は年間数十キロしか進まず、このままでは22年の脱原発に間に合わない計算だ。