地方に育って地方で暮らす昔の同級生やら友人知人や親戚の若者を見ていると、すべてがマイルドヤンキーというわけではないのが現実である。というか「マイルドヤンキー未満の人々」がとても多いと思う。特徴を列挙してご紹介しよう。
なお、自分の知人数十名が標本なので、全国平均からはズレているかもしれない。しかし、いずれも首都圏ではめったに存在しないタイプの若者たちだ。
①社交のセンスが10代半ばから進歩していない
つるむ相手というともっぱら元中・元高で、中学時代にイジメやハブられを経験していた子の場合は元高とだけつるんでいる。街中やネットで他人と知り合う発想がない。
会話の内容も中高生レベルで、テレビ番組で見た話やイオンで買い物した話とか「昔の思い出話や武勇伝」も多い。また、その会話の登場人物として卒業して縁が切れたはずの対して親しいわけでもない同級生の話題も引き合いに出されることも多い。つまり、あなたも話題にされている可能性が高い。彼らの中では学生時代の放課後は過去あの思い出ではなく現在進行形なのだ。社交のセンスは老人会にもとても似ている。
それに加えてセックスや酒といった未成年で禁止されていた概念が解禁されており、「仲間と集まってだらだらとダベっていた場所」の選択肢にすき家やサイゼに加えて和民が加わったノリだ。
②茶髪に染めるがオラオラ系は目指さない。あるいは染めたりもしない
これが本当に重要なポイントで、昔と比べた違いとして髪を染めることなどがあげられるのだが、それでもカッコよくなろうとかギャルになろうとまではならない。
だから、オラオラ系の文化が基本的に存在しない。VIPカーはおろかバカスクも持っていない。洋楽は全く知らない。アナと雪の女王は見ている。
③とっても奥手で唯一の異性との出会いの場が「祭」
交際相手を見つける場が限られている。フリーターならバイト先で出会いがあるはずなのに、同僚とは積極的にコミュニケーションしたがらず、下手すれば挨拶すらできない。同級生以外とのコミュニケーションの仕方が分からないためだ。だから、ネットで出会いを求めることすらしない。
しかし、そんな彼らも「よさこい」を通じて異性と出会うことになる。よさこい仲間と恋愛し、セックスすればデキ婚で人生アガりである。ちなみにマイルドヤンキーは10代のうちに(下手すれば高校在学中に)デキ婚をし、成人式には離婚しているものだが、「マイルドヤンキーに満たない若者たち」はとてつもなく奥手なため独身貴族が多い。交際相手がいないまま学生生活を終える子も多ければ、中学時代の元恋人と別れて以来別の交際相手を見つけられず、いまだに過去の人に未練に思うパターンも当たりまえだ。
「街コン」のような意識の高い場所には行けないし、地元のライブハウスはヤンキーのたまり場だと親に言われていて近寄りたがらない傾向がある。
④特オタじゃないのに女の子が「スーパー戦隊&仮面ライダー」を欠かさず見ている
決してヲタ女や腐女子でもない女子が日曜日になると欠かさずテレ朝の特撮を見ている。これはなぜかというと幼稚園児から続く習慣としてしみついているためだ。もちろん、完全なメインディッシュはプリキュアである。
人によっては特撮グッズを求めにトイザらスに行ったり、この趣味が高じて初めてアニメイトに足を運ぶ人もいる。しかし、アニメイトで特撮系の本を買っても「オタク」や「腐女子」と言う世界が存在することに気づかないくらいには穏やかな考えを持っている。
⑤男なのに「嵐」ファン
自分の親しい「マイルドヤンキーに満たない若者たち」には嵐好きを公言する男子が多い。彼女がファンだったりジャニオタ女子と付き合いたいという動機があるわけではないのだが、わざわざ嵐が好きだと言い張り、自分のプロフィール画像に嵐を貼ったりタイムラインに嵐の画像を流したがる人間が多い。ちなみに異性愛者だ。
これはなぜかというと、やはり幼稚園児から続く習慣としてテレビ朝日「ミュージックステーション」を見るという生活習慣が染みついているため、そこでプッシュされる歌手には否応なしにハマってしまうのだ。「マイルドヤンキーに満たない若者たち」の文化圏を支えているメディアは21世紀の今もテレビである。
だが、EXILEはウケが悪い。彼らの基準ではそれはヤンキー文化だとされている。
私の大学には山形出身のEXILE大好き女子がいて、決して不良ではなく、むしろ繊細で奥ゆかしい子だったのだが、同じ東北のいとこから見れば多分とても意識高い存在なのだろうと思う。
⑥基本的に「やさしい」
これが彼ら彼女らの最大の魅力で、他人を受け入れる寛容さには富んでいる。受身的で、消極的がゆえに同じメンバーとつるみ続けるだけだがけっして閉鎖的というわけではない。たとえば、(マイルド)ヤンキーの世界では「クールではない存在」はDISられるし、オタクの世界ではDQNやリア充はこれまたDISられる。はてなでも、粗探しは横行しているが、そういう荒みきった文化圏とはもっとも遠いのが彼ら彼女らだ。
意見が対立することがあまりないのは自制心からではなく、「対立につながりそうな考え」をそもそも持たないからで、痴話げんかすらない。要するに平和すぎるのである。そのためイケてなかった子や元いじめられっ子なんかがこの文化圏を拠り所にしていることは多い。だが彼らはそこは負け犬の世界だとも思っていないし、ルサンチマンもない。過去の悔しい思い出も、今のワープアな仕事の現状も、みんなでラウンドワンに行けば発散することができる。
だからこそ、想定外の出来事に適応することが難しく、都会に出たがらないのだ。
⑦土地にしばられるというわけでもない
これは重要なことで、マイルドヤンキーと違って地元に確固たる地盤はない。あくまでつながりは同級生的な人のつながりである。LINEとFacebookが主なつながりの場であり、mixiは彼らもオワコンだと認識している。
ある友人は、東京に引っ越してそこで仕事をしているのだが、それは地元に雇用がないからである。しかし都会の絵の具に染まらず、彼はネット上で地元に生き続けている。地元は神奈川の足柄だからそう遠いわけではなく、仲間とは帰省したり、上京ついでに落ち合うことで気軽に会える。つまり、足柄でも、東京でも、グアムでも「居場所」にできてしまう。
彼らから見れば「マイルドヤンキー」は地元意識の高い存在だ
⑧大学にもいくが、雇用は不安定
この手の若者は高卒ばかりではなく、大学にも行く子も多い。地元の平成期に作られた定員割れした大学はもちろん、首都圏にある偏差値中堅規模の大学にも実はかなりの割合いる。地頭がある子も多い。だが、大学のために上京しても、都会の文化資本に触れる機会はほとんどなく、「大学生らしいこと」に取り組むこともせず、ましてや真面目に勉強に取り組んだりもせず、自分の文化圏と同じレベルでいてウマの合う人間と中学生のノリでつるむだけで4年を潰す傾向がある。中国の大手大学に留学をした子もいる。
しかし、就活に失敗して卒業したり、勤め先をすぐにやめたりするパターンが大半である。最短で数か月だが、卒業後数年で辞めるパターンが最も多い。その後は非正規での転職をひたすら繰り返す人生だ。フリーターやニートも多い。
マイルドヤンキー、というかヤンキー全般のようにブルーカラー系の正規雇用に恵まれる人々とは違い、ぬるぬるしているようで人生がいばらの道状態になっている。だからこそ、友だち繋がりを大切にしているのだ。
⑨保守的で、日本文化が好き
マイルドヤンキーの場合、初詣に行くことや成人式で派手な和装をしたがることくらいしか日本人らしさはないが、一方の彼らは「日本らしさ」を大切にする傾向がある。
ひな祭りやお彼岸などの季節の行事をちゃんと大切にしていて、こいのぼりを飾ったり、和食を料理した様子をネットに挙げて仲間と褒め合ったりもする。日本文化に過剰に逸することに否定的な傾向がある。和風のカレーライスは好きだが本場のインド式カレーには無関心だったりする。
⑩機会格差がないわけでなはいが・・・
前述のように、中国の有名大学へ留学生した子もいれば、年に何度も海外旅行をファーストクラスに乗って出かけることが生きがいのフリーターもいる。実家のレストランに少女時代がお忍びでやってきて仲睦まじく話した子もいれば、会社を興した奴もいる。
多かれ少なかれ、生きる上で恵まれたい機会、「人によっては喉から手が出るほど欲しいような」機会や珍しい機会を享受しやすい子はいるのだ。ただし、同じレベルでつるんでいる友だちは絶対的な機会格差によって人生の可能性を阻まれているパターンは多い。
しかし、それでも嫉妬されないし、蔑視もしないのは「もしかしたらとんでもない機会があるかもしれない」ということも彼らの文化圏の常識にセットされているからだ。そのため世の中全体から見ても稀なチャンスに恵まれたエピソードも、あまり仲間から驚かれず、想定の範囲内の「へえー、すごいねえー」の馴れ合いで消費されがちだ。実にもったいない。
一方、マイルドヤンキーの場合、何人も機会格差からこぼれた結果そうしたコミュニティに閉じこもる傾向があると思う。
いかがだろうか。こうした「マイルドヤンキーに満たない若者たち」の文化圏の存在は、もっと知られるべきだと思うし、ネットユーザーの語らう言論空間から一番遠いのが彼らである現実がある。メーカーならば彼らに向けた商品開発なんかをぜひやってほしい。きっと喜ぶはずだ。