せっかく消費増税前の3月に買い込んだのに、4月になったら本体価格が下がって、がっかり――。そんな経験をした人が少なくないかもしれない。

 実際、東京都区部の4月の消費者物価指数をみると、価格の動きは品目ごとにかなりばらつきがある。

 一例が家電である。3月と4月の指数を、それぞれ前年同月と比べると、こんな状況だ。

 洗濯機やテレビ、冷蔵庫は3月は下落だったのに、4月に入って10%前後の上昇となった。

 かたや、エアコンは上昇率が27・7%→8・4%、電子レンジは12・8%→1・0%と、値上がりが急速に収まった。

 洗濯機などのグループは、業者が駆け込み需要を見込んで価格競争を繰り広げた品目だろうか。婦人スーツや防虫剤も同様の動きだ。

 エアコンと電子レンジは、業者が駆け込み需要期には強気で臨み、4月以降は反動減への対策もあって価格が落ち着いたと見られる。

 物価全体の動向を表す総合指数(生鮮食品を除く)の前年同月比上昇率は、3月の1・0%から4月は2・7%になった。3%分の消費増税は、非課税品目があるため物価全体を約1・7%押し上げるとされる。

 このため、政府は「消費増税分が適正に転嫁された」と言うが、内実は一様でない。

 それはある意味で健全だ。

 日本の消費税にあたる付加価値税の歴史が長い欧州では、税率の変更も頻繁だが、増税前の駆け込み消費はあまり見られないという。業者も、商品の競争力や人件費などのコストを考えて値決めする。税率変更に合わせて一斉に値札を張り替える光景は日本独特のようだ。

 値上げ幅が増税幅を上回ると「便乗値上げだ」と騒ぎ、下回れば得をした気分になる。それを大げさに伝える私たちメディアの責任も小さくないが、「必要な時に、必要なものを、価格と品質を吟味して買う」のが消費者本来の姿だろう。

 それには、業者に健全な競争を促し、多くの選択肢を確保することが欠かせない。

 政府は今回、業界あげて消費増税分を価格に上乗せする「転嫁カルテル」を認め、状況を見張る「転嫁Gメン」も置いた。大手が中小の納入業者に対して転嫁を認めない、といった違法な行為を取り締まるのは当然だが、「自由な値決めを通じて業者が競い合う」という市場経済の基本を見失ってはなるまい。

 消費増税を巡る「騒動」からそろそろ卒業したいものだ。