(2014年5月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は選択を迫られている〔AFPBB News〕
ウクライナが燃え、ドイツが苦悩に苛まれている。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は選択を迫られている。強国間の交渉で国境が引き直され、欧州が再び別々の勢力圏に分断されるようなことがあってはならないと言った時、首相は本気だったのか?
それとも、ロシアのウクライナ侵攻に対するドイツ政府のためらいがちな対応は、メルケル首相が心の底ではヤルタの地政学への回帰を受け入れる用意があることを物語っているのだろうか?
「ドイツも国際秩序を守る責任を」と言っていたらウクライナ危機
数カ月前、ドイツのヨアヒム・ガウク大統領は、同国政府が国際情勢に関して影響力を振るえずにいることについて、同胞にやんわり忠告した。大統領はミュンヘン安全保障会議の席上で、ドイツは罪悪感の陰に隠れるのをやめるべきだと述べ、代わりに国の経済力に見合うよう、国際秩序を守る責任を負う意欲を持たねばならないと指摘した。
ガウク氏は国際的な潮流に乗っていたようだ。メルケル氏の連立政権で外相を務める社会民主党(SPD)のフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー氏は、「ただ傍観者の立場で国際政治について論評するには、ドイツはとにかく大きすぎる」と語り、ガウク氏に同意した。
これが2月の話だった。ガウク氏もシュタインマイヤー氏も、ロシアのウクライナ侵攻によって、こんなに早くに自分たちの意思が試されるとは想像できなかった。ロシアによるクリミア併合と残るウクライナ領土を破綻国家にしようとする同国の取り組みに直面し、ドイツ政府は、真剣な外交政策は自分たちが避けようとしてきた類の選択を迫るということを学んだ。
確かに、ドイツのエリート層はロシアに対する控えめな制裁を受け入れたが、そこに至るまでには、彼らを無理やり引きずり込まねばならなかった。
キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル首相は、連立相手のSPDよりも強硬路線を取る。元共産圏のドイツ東部で育った首相は、旧ソ連の国家保安委員会(KGB)高官からロシア大統領になったウラジーミル・プーチン氏の動機と手法について、より明確な考えを持っている。
だが、常に慎重なメルケル首相は、ドイツの支配階級のはるか先を行くのには消極的だ。シュタインマイヤー氏について言えば、そう、本人の言葉を借りれば、傍観者の席に向かって断固たるダッシュを切った。