Clip to Evernote

特集 PC遠隔操作事件

 PC遠隔操作事件の被告・片山祐輔氏と担当弁護士の佐藤博史氏をゲストに迎え、5月9日、第62回 日本の司法を正す会が開催された。

 佐藤弁護士は「警察が発表する情報はどんどん流しておきながら、こちら(弁護側)の積極的な情報は、ほとんど流さない」と事件に関するマスコミの報道姿勢を強く批判。「真実の情報はネットでしか流れないという問題が、この事件にもある」と語った。

 3月7日に行われた岩上安身による片山氏および佐藤弁護士へのインタビューでは、「片山氏が犯人だという証拠」に関する情報が、警察・検察により、マスコミへたびたびリークされた経緯が詳細に語られている。

・2014/03/07 「メディアは嘘のリークに騙されないで」 PC遠隔操作事件の片山祐輔被告と佐藤博史弁護士に岩上安身が緊急生インタビュー

  • 記事目次
  • サイバー犯罪:刑事裁判官は「知識ゼロ」?
  • 片山氏逮捕と日米サイバーセキュリティ体制
  • 私生活に入り込む警察権力
  • 疑わしさの演出
  • 冤罪を作り上げた司法関係者の責任はどこに?

  • 日時 2014年5月9日(金)
  • 場所 村上正邦事務所(東京都千代田区)

サイバー犯罪:刑事裁判官は「知識ゼロ」?

 佐藤弁護士は「サイバー犯罪を刑事裁判官が裁けるのか」という疑問を感じていると話し、裁判所側の対応能力が不足している端的な例として、証拠が紙媒体で提示されていることを挙げた。遠隔操作プログラムのソースコードが単に紙で印刷され、「本1冊分」の厚さとなったものが証拠として出されたことがあったという。

 検察官は専門家に鑑識を依頼することが可能であり、また警察には、サイバー犯罪の対策を専門とする部署が置かれている。一方、裁判所にはそのような専門部署がない。佐藤弁護士は、「検察側が意図的に騙すつもりはないかもしれないが、裁判所側には(検察側が提示する証拠に対して)批判的な見方をするための知識はゼロに近い」と危惧の念を語った。

 裁判所の判断があてにならなければ、「ディフェンス(弁護士)側がきちんとやらなければどうしようもない」。佐藤弁護士は「情報発信を行えば助言をもらえることもあるが、サイバー犯罪の初めての本格的な裁判が、私たちも極めて不安な状態で進められている」と話す。

片山氏逮捕と日米サイバーセキュリティ体制

 PC遠隔操作事件では、Dropboxに「アイシス・ドット・エグゼ(iesys.exe)」と名付けられたコンピューターの遠隔操作を可能にするトロイの木馬プログラムがアップロードされた。Dropboxのサーバーは米国に存在するため、警察庁がFBIに捜査協力を要請するという一幕があった。

 佐藤弁護士は「片山氏逮捕後、サイバー犯罪に関する警察の陣容が強化されている」と述べた上で、サイバー攻撃は一個人を狙うものにとどまらず、軍事的・経済的に国家的な規模で重要な意味を持つことを強調。優秀なハッカーを雇った北朝鮮が、米国のミサイルシステムに侵入する可能性もありえない話ではないと語った。

 サイバー攻撃を巡る安全保障面での課題があるとされる中、「FBIによる捜査協力に対する見返りというわけではないが、日米の間で(サイバー攻撃に対して)協力を保つ。これは秘密保護法や防衛の問題を含めてある」のだと佐藤弁護士は述べた。

 昨年3月に行われた佐藤弁護士へのインタビューの中で、岩上安身は、事件の背景には2012年から2013年にかけて米国主導のサイバーセキュリティ体制に日本が追従していく動きがあったと指摘。また、今年3月7日に行われた岩上安身による片山氏と佐藤弁護士へのインタビューの中でも、佐藤弁護士はこの見方に同意し、サイバー犯罪捜査セクションの増強や、秘密保護法の成立を目論む「大きな流れ」の余波に、片山氏が巻き込まれたのではないかと推測した。

・2013/03/04 「警察の暴走とメディアスクラム、影に潜む米国への配慮~PC遠隔操作事件の全貌に迫る!」 佐藤博史弁護士緊急インタビュー

・2014/03/07 「メディアは嘘のリークに騙されないで」 PC遠隔操作事件の片山祐輔被告と佐藤博史弁護士に岩上安身が緊急生インタビュー

私生活に入り込む警察権力

 サイバー犯罪に対する警察権力の拡大は具体的にどのような影響を社会におよぼすのか。佐藤弁護士は一つの例として、「ネット選挙」を挙げた。「コンピューターがサイバー攻撃を受けたならば、被害届を警察に出すことになるが、(パソコンの)中は(警察に)丸見えになる。(選挙)資金に関する情報や、支持者の情報を警察に提供することになる」と語り、「警察がそのようなことにアクセスできるということは、我々の私生活に入り込むことが可能だということだ」と続けた。

 今回のPC遠隔操作事件は、「まったく違う人を真犯人にでっちあげられる」深刻な事件であり、捜査に関連して「プライバシーは警察側が全部握ることになってしまう」と佐藤弁護士は話す。

 これに関連して、佐藤弁護士は、米NSAの情報監視活動を内部告発したエドワード・スノーデン氏の行動に言及し、「米国は『中国がサイバー攻撃をくり返している』と言い続けていたが、実際は本格的にそんなことをしていたのは米国」と発言。「バーチャルの世界で起きている出来事をもう少し真剣に考えなければならない。お上に預けていていいのか」と会場に問題提起した。

 「捜査当局の能力が問われているが、それが間違った方向に発揮され、私たちは防ぐシステムを持っていないかもしれない。今日の問題として、皆さんに考えてもらいたい」と佐藤弁護士は訴えた。

・【IWJブログ】「PC遠隔操作事件」直接証拠も無いまま公判へ 「不当な取り調べ」「個人データ収集」など捜査手法にも大きな問題が

疑わしさの演出

 PC遠隔操作事件の真犯人は、遠隔操作プログラムのソースコードを記録したUSBメモリーを雲取山に埋めたという声明を発表。また、同じソースコードを書き込んだ記憶媒体を首輪に固定し、江ノ島の猫に取り付けたという声明も報道機関などに送りつけていた。

 片山氏は雲取山にも江ノ島にも実際に訪れている。また、片山氏には前科がある。司会を務めたジャーナリストの青木理氏は、捜査当局や一般の人が片山氏を疑わしいとみなすのも無理はないのではないかという質問を、あえて本人にぶつけた。これに対し片山氏は、「マスコミへのリークがないことが前提の上でなら、家宅捜索までは仕方がない。ただし、逮捕前にDNA鑑定がきちんと行われていれば、逮捕はなかった」と答えた。

 佐藤弁護士の説明によれば、検察により猫の首輪に記憶媒体を固定していたセロテープへの付着物をサンプルとしてDNA鑑定は行われ、片山氏のDNA型とは不一致という結果が出ている。

 片山氏は逮捕されたその日に口腔内粘膜を採取された。これは、警察が片山氏のDNA型を捕捉しようとしたことを意味している。一方で、セロテープ付着物のDNA鑑定結果は、当初開示された証拠の中に含まれていない。佐藤弁護士が検察側に対して、このことに関する説明を求めたところ、「有罪証拠として使っていない」という理由で、この鑑定結果は開示されなかったのだという。

冤罪を作り上げた司法関係者の責任はどこに?

 「日本の司法を正す会」を主宰する村上正邦氏からは、「片山さんをクロに追い込んだ司法関係者がたくさんいる。その人たちの責任はどうなるのか」という冤罪事件に関する根本的な問題提起がなされた。

この続きは、会員限定となります。
まだ会員登録がお済みでない方は、ぜひこの機会に会員となって続きをお読み下さい!

この記事・映像の完全版は、IWJ会員のみ閲覧・視聴ができます。
会員の方はここをクリックしてください。
会員登録はこちらから。
この記事・映像だけを有料で閲覧・視聴する場合はこちらから。

■関連記事