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「産業突然死」の時代の人生論

本来のメリットは長期衰退の日本を救うこと

 わたしには一つ気がかりがある。推進派でも、道州制の本当のメリットを理解していない人があまりにも多いことだ。わたし自身は昔から道州制推進派の人たちに何度も、そのメリット、意義を説明している。しかし、こういっては語弊もあろうが、彼らは理解力に乏しいと感じることしきりだ。

 彼らには、道州制を「市町村合併の延長」としてとらえている人が非常に多い。「市町村合併が終わったから、次は都道府県の合併だ。それが自然の流れだな」なんてことを言う人もいる。何度も説明しているのに、返ってくる言葉がそんなだと、わたしもがくぜんとして、もう説明する気がなくなってしまうのだ。

 強調しておくが、道州制は市町村合併とはまったく異なる次元の話だ。決して市町村合併の延長ではない。道州制の本当のメリットとは、繁栄を世界から持ってくることだ。納税者のお金を使わずに、世界中に余っているお金を呼び込む単位、産業基盤を確立する単位、としての道州制なのである。現在の推進派でもそのイメージを持っている人は少ない。何しろ道州制にして発展した姿を頭に描くことができないのだから。

 だが、世界で起こっていることをよく考えてほしい。中国がなぜ今、これだけ発展しているのかを。それに対してロシアがダメなままなのはどうしてなのかを。

 ロシアはいまだに連邦中央政府の強いコントロール下にある地域が多い。それに対して中国は権力を地方に譲渡し、地方は世界中から企業や投資資金を呼び込んでいる。だから中国には勢いがある。中国の現在の姿を見れば、道州制が世界からお金を呼び込むための単位であり、外資などに対する特別優遇措置などを定める単位であり、自立経済の単位である、ということが分かるはずだ。

 では、なぜ日本が世界からお金を呼び込む必要があるのか。

 実は日本は、すべてのピークを1990年代に迎えて、現在は長期衰退の道を歩み始めているのだ。近ごろ、中国特需やリストラの成果などで若干、景気が上向きになり、法人所得も史上最高の50兆円となっているものの、長期的には衰退しつつあることは間違いない。それは人口でも給料でも、すべての統計を見れば分かることだ。

 そして長期衰退から脱却するための手段が、統治機構を変えることなのだ。日本は、もはや中央集権国家としては終わってしまった国だ。これからは地域ごとに統治機関を持ち繁栄を競争するようにならないと新たな活力は出てこない。そして北海道や九州など、地域ごとに違うリズム、違う方針を打ち出していく必要がある。

 北海道はおそらく極東ロシア開発の前線基地となるだろう。先進国の企業がそこに集結してくる。第二外国語はロシア語、ということも考えられる。逆に九州では東アジアの繁栄の真っただ中で黄海経済圏のハブの一つとなるだろう。第二外国語は中国語、そして多くの人が小学校から韓国語を学ぶことも考えられる。全国一律に英語を、という状況でなくていいのだ。

 航空ネットワークも、金融市場も、東京中心ではなくそれぞれの道州が決めていく問題となる。かなりの立法権および徴税権を道州に渡し、繁栄の方程式を自立的に作っていくことができるようにしなくてはいけない。世界中から資本、企業、技術、人材、情報を呼び込む競争が始まる。そして繁栄に取り残されたところは、逆に癒やしを求めるバケーション客とか高齢者のリタイアメントタウンなどで生計を立てることになる。米国で言えばモンタナ州とかバーモント州、ということになる。

 道州ごとに経済を膨らませるプランを立て、それをベースに繁栄を競うことになる。納税者の税金で景気を刺激するのではなく、世界に有り余る資金を吸引して繁栄する。それがわたしの提唱する「地域国家論」に基づく道州制というものだ。

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