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「3/8(スリー・エイス)」とか「3/4(スリー・クウォーター)」などの、分数のタイプライター・キーを利用したカフリンクスを、買占めようかな……(笑)

ウォールストリート・ジャーナルによると、米国のSEC(証券取引委員会)は、一部の低位株に関して10年以上も前に行っていた、分数(fractions)による株価表示に戻すことを検討に入っているそうです。

現時点ではあくまでも「検討する」といった程度であり、実現する可能性は低いと思います。

昔、米国の証券取引所では上場銘柄のクウォートは、すべて「何分の何」というカタチで、分数で行われていました。だからファンドマネージャーやトレーダーになると、最初に慣れないといけないのは、この分数の大小を、頭ではなく、カラダで覚えるという事です。例を示せば;

1/8(発音:アン・エイス) = 0.125
1/4 (ア・クウォーター)= 0.25
3/8 (スリー・エイス)= 0.375
1/2 (ア・ハーフ)= 0.5
5/8 (ファイブ・エイス)= 0.625
3/4 (スリー・クウォーター)= 0.75
7/8 (セブン・エイス)= 0.875


といった感じです。アメリカ人は算数が不得意なくせに(笑)この分数を使う……思うに彼らに比較的分数アレルギーが無い理由は、アメリカン・フットボールに代表されるスポーツで、視覚的に分数の大小のイメージが脳内に固定されているからでは、ないかしら。

でもこれをトレーディング・ルームで、物凄い剣幕で怒鳴られたら、日本人は参ってしまいます。

ちょっと話が脱線したけれど、現在、米国の取引所が採用している小数点刻みと昔の分数刻みの相違点は、分数刻みの方が利用できる歩み値の選択肢が少なく(上の例では、8段階刻み)結果としてBid/Askのスプレッドが拡大するためです。


昔は、とりわけマーケット・メーキングをしているナスダック銘柄に関しては、証券会社手数料が「建て値込み」つまりビッド(買い値)とアスク(売り値)の差の中に込められていたため、或る程度、両者の価格が乖離していないと、証券会社が儲ける事ができなかったのです。

しかし、刻み値が、大雑把過ぎるという批判が出て、90年代に、建て値がもっと細かくなりました。次のような塩梅です;

1/16(ア・シクスティーンス) = 0.0625
1/8 (アン・エイス)= 0.125
3/16 (スリー・シクスティーンス)= 0.1875
1/4 (ア・クウォーター)= 0.25
5/16 (ファイブ・シクスティーンス)= 0.3125
3/8 (スリー・エイス)= 0.375
7/16 (セブン・シクスティーンス)= 0.4375
1/2 (ア・ハーフ)= 0.5
9/16 (ナイン・シクスティーンス)= 0.5625
5/8 (ファイブ・エイス)= 0.525
11/16 (イレブン・シクスティーンス)= 0.6875
3/4 (スリー・クウォーター)= 0.75
13/16 (サーティーン・シクスティーンス)= 0.8215
7/8 (セブン・エイス)= 0.875
15/16 (フィフティーン・シクスティーンス)= 0.9375


どうですか? アタマが混乱するでしょう。

この分数復活論が出てきた背景には、最近のハイ・フリックエンシー・トレーディングなどで通常の株式の取り次ぎが、証券会社にとって本当に儲からないビジネスになってしまったことがあります。

もちろん、これがゼネラル・エレクトリックやIBMのような大型株であれば、個人投資家にとってコストが安い、デシマライゼーション(少数による表示)の方が、良いに決まっています。

しかし、時価総額が1億ドルに満たないような、小型株の場合、流動性が小さすぎるので、刻み値が小さいと、どんなサイズの注文でも証券会社が商売にならないので、小さい企業をコツコツ調査するインセンティブが、全く失われてしまうわけです。これはひいてはIPOを不活発にすることにも、つながりかねないというのが、先祖返りを主張する、分数派の言い分なのです。

信じてもらえないでしょうけど、1996年頃、アップルの株価が10ドルを割り込んだ当時、ナスダックの建て値が分数だったからこそ、最後の一握りの証券会社は匙を投げずに歯を食いしばってアップルの調査を続けた……そういう時代も、あったのです。

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PS 自著の宣伝になりますが、トレーディングにおける「分数の戦い」は下のストーリーにも、出てきます。
いきなりニューヨークで面接しろと言われても、困ります (ニューヨーク三部作)
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